板金加工が3Dプリンターを導入するメリットとは?
製造業において、効率化やコストダウンだけではなく、製造プロセスをも変化させようとしているのが3Dプリンターです。その中でも金属3Dプリンターは従来の板金加工ではできなかった形状を、3DCADデータさえあれば多品種少量生産が可能です。今回は板金加工と3Dプリンターについて解説します。
3Dプリンターとは
3Dプリンターとは、3DCADの設計データ(STLデータ)を元に、スライスされた2次元の層を1枚ずつ積み重ねていくことによって立体モデルを製作する機械のことです。
3Dプリンターは造形法によって異なりますが、プラスチックやゴムなどの樹脂素材からチタン・銅といった金属素材まで様々な素材を扱えます。そのため、試作品やモックアップの作成のみならず、金型・治具・最終品の製造など幅広い用途に対応できます。
製造業における3Dプリンター導入のメリット
3Dプリンター導入のメリットは以下の通りです。
コスト削減と軽量化実現
1つ目は「コスト削減と軽量化実現」です。
製造業において量産する場合、直前の金型作り直しはコスト面から必ず避けたいトラブルの一つです。
3Dプリンターを導入すれば最終品と同等の試作品を作って確認することができます。そのため、図面や設計図からは分からなかった問題点や課題に気づくことができ、金型再作成のコストを減らすことができます。
また、最終品の製造において複雑形状でも再現できるという特性を活かし、パーツや部品点数の削減が可能です。
たとえば、ジェットエンジン用の燃料ノズルなど複雑な製品では20種類の金属パーツを組み合わせる必要がありました。しかし、3Dプリンターではこの部品をひとつの部品として造形できるようになったため、金属パーツ20個分の製造コストが削減されるだけでなく、軽量化も実現しています。
効率化を図り、ヒューマンエラーを無くすことで品質を向上
2つ目は「効率化しヒューマンエラーを無くすことで品質向上を目指す」ことです。
部品同士の組み付けや分解手順を図面や仕様書だけから考えるのは、非常に難易度が高く、ミスが出やすくなります。しかし、3Dプリンターで造形した立体物を使えば、組み付けや分解手順を確認するだけで気が付きにくい問題点も洗い出すことができるようになりました。その結果、製品の品質向上へと繋がります。
また、品質が不ぞろいな原因の一つに手作業でのパーツ組立があります。3Dプリンターを製造工程に組み込むことで、人為的なミスや誤差が抑えられるので、品質も安定するでしょう。
特にパーツや部品点数が多い製品の組み立てでは、作業を補助するための治具も多くなります。従来、設計変更が生じたとしても、治具の再作成まで手が回らずに、古い治具をそのまま使わざるを得ないという状況が多発していました。しかし、3Dプリンターを活用すれば、治具も簡単に手直しして作ることができます。
気軽に試作品が作成可能なので開発期間の短縮化に繋がる
3つ目は「気軽に試作品が作成可能なので開発期間の短縮化に繋がる」ことです。
今まで試作品を作成するためには、外注を行い、何週間も仕上がりを待つ必要がありました。金型の製造プロセスには何段階も工数があり、非常に時間がかかるからです。
しかし、3Dプリンターがあれば気軽に試作品を作成できるので、たとえ企画や設計が煮詰まっていない段階であっても作る事ができます。試作品を作成するための時間も大幅にカットするので、全体の開発期間の短縮化に繋がります。
また、手軽にデータ改良して試作品を作り直せるため、試作品に不具合が見つかった場合でも最小限の追加工数で再作成が可能です。
在庫管理が容易に
4つ目は「在庫管理が容易になり、データで管理できるようになる」ことです。
従来、各パーツが故障した場合に備えて、スペアパーツを用意しなければいけませんでした。しかし、3Dプリンターを使えばいつでも3Dデータからスペアパーツを作り出すことができるので、スペアパーツにかかっていた分の在庫管理が不要になります。各パーツを改良する場合も、3Dデータを変更するだけで済み、改良前のパーツの在庫数を気にする必要がありません。そのため、在庫管理が容易になります。
また、3Dプリンター導入により、パーツをモノではなくデータで管理できるようになると、パーツの保管スペース削減だけでなく、世界各国の生産拠点間でデータを共有して各国で造形すれば、国をまたいだ輸送も不要になります。
金属3Dプリンター
金属3Dプリンターは、金属製品自体を造ることが出来るプリンターです。一般的に、素材の金属粉へレーザーを照射し、金属粉を溶融させて一層ずつ造り上げる金属積層造形法が用いられます。
金属3Dプリンターの仕組みは、材料となる金属粉末とレーザーで動作するようになっています。その工程は以下の通りです。
① 金属粉末を薄く(0.02mm~0.05mm程度)敷く(厚みを「積層ピッチ」と呼ぶ)
②敷いた粉末にレーザーを照射することによって、必要な部分のみを固める
③土台部分を「積層ピッチ」分だけ降下させ、粉末を敷き、レーザーを照射
④①~③を繰り返す
金属3Dプリンターを板金加工に導入して得られるメリット
金属3Dプリンターを板金加工に導入して得られるメリットは以下の通りです。
従来の板金加工法ではできないような形状を表現できる
1つ目は「従来の板金加工法ではできないような形状を表現できる」ことです。
金属部品は、主に以下の方法で作られています。
・板金加工:鉄やアルミ、ステンレスなどの金属の板を切ったり、曲げたり、溶接したりして製品にする加工方法
・鋳造:作りたい形と同じ形の空洞部を持つ型に溶けた金属を流し込み、それを冷やして固める加工方法
・溶接(接合加工):複数の部品を組み合わせるときに使用する加工方法
・切削加工:金属を回転する刃物工具で削り取り、部品を作る加工方法
上記のような従来の加工方法では、制約がありました。
しかし、3Dプリンターを導入することで、従来の板金加工では造形不可能な形状や、これまでは受注が出来ていなかった、研究用部品・外観確認用サンプル・美術品など、新しい製品も造形可能になりました。
3D金属プリンターの強みとそれぞれ作り出した作品は以下の通りです。
3D金属プリンターの強み |
作れるようになった作品 |
部品の一体化造形 |
内部の輪が取れない輪や一回のプリントで造形の如意棒など |
内部の中空化や空間の設計 |
内部の中空化や空間の設計:内部をハチの巣状(ハニカム構造)にしたオブジェなど |
複雑形状の造形 |
波をモチーフにしたヒートシンクコンセプトモデル、ステンレス製のFINボールなど |
3DCADデータさえあれば多品種少量生産が可能
2つ目は「3DCADデータさえあれば多品種少量生産が可能」なことです。
従来の板金加工では、大量生産を前提とした製品をつくっていました。
何故なら、製造業などのものづくりにおいて、小品種・大量生産が効率的であり、同じものを造り続けることで設備の稼働率・作業者の習熟度が上がり、効率的な生産が可能になると考えられているからです。
また、金型を用いて金属製品を造形する場合は初期投資が必要となるため、一定量を生産しないとコストの回収が出来ないという問題もあります。
金属3Dプリンターは3DCADデータさえあれば、金属積層造形により多品種少量生産が可能になります。
量産の場合と少数生産の場合のコストがほぼ変わらないため、一品物でも手軽に作れます。
必要な時に必要なものを必要な数だけつくりたい場合、金属3Dプリンターは「1個だけ造りたい」というニーズに対応可能。大活躍してくれます。
最新技術と組み合わせると試作品を減らして少しでも早いものづくりが可能
3つ目は「最新技術と組み合わせると試作品を減らしてより早いものづくりが可能」なことです。
一般的なものづくりの一連の流れは以下の通りです。
③ 設計
② 試作
③ 試験(形状確認、耐久性、振動、強度等)
④設計変更
⑤OKが出るまで①~④を繰り返し
⑥量産
何度も設計を変更して最適な形状を求める事で各部品は作られて行きます。しかし、試作品を作るには費用も時間も非常にかかります。
しかし、数十年前からCAE解析によりパソコン上で強度解析などが行えるため、試作品を多く作らなくてもどこが壊れやすいかといった事前検証ができるようになりました。
さらに、最近ではトポロジー最適化という技術により、設計データを解析し、肉抜きの軽量化を行ない、再度解析という作業を自動的に繰り返すことで、最も強度があり、かつ軽く、工業製品的でない人間の骨のような形状を導き出すことも可能になりました。
現在では、上記と3Dプリンターの組み合わせにより、なるべく試作品を減らし、少しでも早いものづくりができるようになっています。
まとめ
板金加工と3Dプリンターについて解説してきました。以下、まとめになります。
・3Dプリンターは3DCADデータさえあれば、様々な素材を扱うことができるので、試作品だけでなく金型や最終品製造など幅広い用途に対応可能
・金属3Dプリンターは高価だが、従来の板金加工法ではできないような形状を多品種少量生産できる
・金属3Dプリンターは1つの形状を作り出すのに、従来の板金加工法に比べ時間がかるが、CAE解析やトポロジー最適化という技術と組み合わせることによって試作品を減らしてより早いものづくりが可能
3Dプリンターは量産前の試作品や金型製造への活用だけでなく、金型・治具・最終品製造・メンテナンスなど幅広い用途に活用が進んでいます。そのため、3Dプリンター導入は経営戦略のひとつとなりつつあるといえるでしょう。
金属3Dプリンター導入を悩んでいる板金加工会社は、トポロジー最適化で生成された形状を元に従来の加工方法で製造する所からはじめてみてはいかがでしょうか。今後、様々な技術開発された3Dプリンターが出てくることによって、板金加工はさらに可能性を広げていくでしょう。