板金加工において重要なクリアランス! クリアランスは大きすぎても小さすぎても問題を引き起こす
板金加工においてクリアランスは加工精度にかかわり、適切でなければ機械に大きな負担と影響を与えるため重要です。今回は板金加工のクリアランスについて解説します。
クリアランスとは
クリアランスとは、板金材料を切断する設備(シャーリングマシン)でシャーリングを行う時に、上刃と下刃との間に必要な「隙間」のことです。
ブランク加工において、パンチプレスではダイの穴径とパンチ径の隙間長さをいい、両側の隙間を合計した長さで表します。
せん断、抜き打ちにはどうしても断面にダレ(刃物が食い込み圧下した表面部)などが生じ、真っすぐにはならないため、加工後の寸法にはわずかな誤差が生じます。この誤差を考慮したクリアランスが必要であり、クリアランスの設定は非常に重要といえます。クリアランスは製品精度、せん断精度、断面の良否、刃物の劣化(寿命)と多岐にわたり影響を与えるため、適正な値でなければ機械に大きな負担をかけることになります。
せん断加工とは
せん断加工とは、定尺材から必要なサイズのスケッチ材(切り板)を切断する工程です。せん断では「ブランク加工」、「トリミング加工」、「ピアス加工」があります。
日本のせん断(shear)加工は100年以上の歴史があり、1909年にイギリスからギロチンシャーが輸入されたことにより、日本での加工が始まりました。板金加工において、シャーはブランク加工で使用されますが、近年では定尺材から直接製品を加工することが多く、シャーの出番は減ってきています。
せん断加工は、一対のパンチとダイにより、材料にせん断変形を与え、所望の形状や寸法に材料を分離加工します。加工原理は、材料を隣接した位置で、直角方向にお互いに逆方向の力を加えて割る点にあります。
シャーによるせん断の場合、パンチは上刃、ダイは下刃になります。
下刃を固定刃にして上刃を稼働させて板材をせん断させ、上刃は板材面に対して刃を傾けて切り込むようにします。この上刃と下刃の開き角度をシャー角といい、シャー角を設けることでせん断力の軽減や長い板材加工をすることができます。
シャー角は、薄板の場合は小さく、厚板の場合は大きく取ります。
一般的にシャー角を小さく取る傾向がありますが、シャー角を落としすぎるとブレードの形状によっては上刃の下面で圧縮が生じて、板材上面が変形する不良減少が生じることがあります。
不良減少(ひずみ)には、ボウ(反り)、ツイスト(ねじれ)、キャンバー(曲がり)があります。
また、せん断力が大きくなることから機械剛性を大きくする必要もあります。
せん断加工は、ダレやバリ、キズ、変形が少ない、並行で真っ直ぐな切断面が要求されます。切断品質に大きな影響を与えるクリアランスについて理解し、適切なクリアランス値で切断しなければなりません。
クリアランスの大きさ
クリアランスの大きさは、板厚、材質によってサイズ調整を行います。
適切でないクリアランスがある状態でせん断やパンチプレスを行った場合、断面形状がR状になった部分、凹凸部分、ギザギザ部分が出来上がるなど、せん断精度に非常に大きな影響を与えるからです。
クリアランスが大きくなると、打ち抜きに要する力は小さくて済みますが、切断面のダレ及び破断面の傾きが大きく異なります。クリアランスは各部均一に作るのが良いと従来されてきましたが、抜き条件の変化に合わせて部分的にクリアランスを変え、パンチ・ダイの摩擦対策や製品のひずみ対策とする、というのが最近の考え方です。
クリアランスが小さいと厚板、硬質材では二次せん断が発生しやすいです。角部などの抜き条件の悪いものや一般抜き用の板厚が厚くなる程クリアランスが大きいものを用いります。
このような調整を行うことで、最適なせん断面を得ることができます。また、大きなバリ発生をなくし、バリ取りの時間やコスト上昇を防ぐことも可能となります。
加工力は条件によって変動する
クリアランスを大きくすると、切断面の悪化と抜き反り(湾曲)が大きくなり、加工力も低下します。
せん断加工において、適正クリアランス時に加工力(せん断抵抗)が最小限になるよう感じますが、実際にはクリアランスの増加と共に減少しています。これは板厚や材質関係なく同じ傾向になります。クリアランスが20~30%になってもこの傾向は続き、加工力だけを考えた場合、クリアランスを大きくすることは有効といえるでしょう。
しかし、クリアランスの増加と共にダレと破断面の傾きが大きくなり、せん断面は減少するので、抜き品質としての状態は悪くなります。ブランク抜きのような抜き打ち加工でも、クリアランスの大きさに比例して湾曲が大きくなり、平面度も悪くなります。そのため、クリアランスの値を大きくせず、適正クリアランスを用いて加工します。
適正クリアランスは、抜き加工品質に問題なく、パンチ・ダイの寿命が長くなる加工条件です。クリアランスの増加でせん断抵抗は減少しますが、ストリッパやパッドで材料を抑えるといった材料拘束を高めると、増加させることができます。せん断速度を早くしても増加し、切れ刃の状態ではシャープエッジではせん断抵抗は小さくなり、切れ刃に丸みがあるものは増加します。
加工力はせん断抵抗と大きな関係があり、条件によって変動しているのです。
クリアランスの値は観察して推定する
金型製作時に、製品サンプルがあってその抜け状態に合わせて製品を造りたい場合、製品からクリアランスの値を知る事ができれば非常に便利です。一般的にクリアランスの値は、切り口面を観察してせん断面の長さなどから推定する方法が取られます。
たとえばせん断面と分離されたバリ部分がパンチ、ダイに接している場合、せん断面とバリの付け根部分の寸法を測定することで、数値を掴むことができます。
パンチ、ダイの切れ刃部が摩擦している場合、バリの付け根は丸味形状となっていることがあり、摩擦状態を推定して形状を決めて測定することになります。
このように、測定値と切り口面の状態からの推測を合わせて判断しましょう。
せん断加工された切り口面からは、マッチングの位置なども知る事ができます。マッチングの位置がわかると、順送り加工製品か単高低加工製品か、外形形状加工のためのパンチ分割状態もある程度推定することが可能です。加工方法が分からなくなってしまっても過去の製品を詳細に観察することで加工方法を推定するのに役立ちます。
クリアランスの値の計算方法
クリアランスは一般にダイとパンチの片側の隙間をいいますが、前後左右が対象なNCタレットパンチプレスなどの金型の場合は、ダイとパンチの差(両側の隙間)をいうこともあるので注意が必要です。
そのため、通常クリアランスを指示する場合は2通りあります。
・両側クリアランス(ダイの穴径 — パンチ径)
・片側クリアランス(ダイの穴径 — パンチ径)÷2
一般的には片側クリアランスは板厚の5~10%になります。
たとえばパンチが直径10mmの円柱形、ダイの穴が直径11mmの円形の場合、パンチはダイの穴の中心に位置するので、パンチとダイの隙間は円周上どこでも0.5mmになります。これを片側クリアランスと呼び、パンチ径とダイの穴径の差1mmの場合、両側クリアランスと呼びます。
クリアランスは製品材料の材質および板厚によってその数値は異なります。金型は加工を繰り返すことにより摩擦を考慮して製作時には少ない数値で製作する事が望ましいです。
実用値=%(板厚に対するクリアランスの割合)×被加工材板厚=片側クリアランス
「%」は材質や抜きの精度によって異なるため、実際の試験値から求めます。
適正クリアランス
適正クリアランスの目安は「両側クリアランス=板厚×クリアランス係数」によって求められます。
3.2tを超える板厚の場合、計算結果×1.4を目安とします。せん断抵抗は引張り強さの約80%を目安とします。機械の仕様によって最小クリアランスが決まっていますので、適正クリアランス設定を行う場合は機械の仕様書を確認しながら行いましょう。
クリアランスは小さすぎても大きすぎても問題が発生します。
クリアランスが小さすぎると、パンチとダイ刃先により発生するクラックが一致せずに二次せん断面が発生し、プレス機精度により金型が破損しやすくなります。また、パンチとダイ刃のチッピング率が上がり、抜き圧力は多くなりますが抜きゾリが少なくなり、ヒゲ状のバリが発生します。
クリアランスが大きすぎると、ダレとバリが大きくなり製品精度が不安定になります。また、抜き圧力は少ないが抜きゾリは大きくなり、パンチとダイの刃側面が摩擦してしまいます。
適正クリアランスは板厚とせん断抵抗に比例します。適正クリアランスの時、せん断面の割合は板厚の1/3~1/2です。せん断面の量が部分的に異なる場合はクリアランスが一定していないことが多く、切断面を見ればクリアランス値が適正かどうか判断することができます。
しぼり加工のクリアランス
絞り加工では元の素材板厚により、絞り側壁は厚くなります。ブランク径は絞り進行とともに収縮しますが、変動として板厚が増加し、絞りの縁が最も大きくなります。絞り加工では、この板厚増加を考慮してクリアランスを決める場合と、絞り側壁の品質面から決める場合があります。
品質面にも考慮してクリアランスを考えたものをしごき(絞り加工に伴って板厚が増加しても板厚を擦ること)絞りといいます。
絞り加工のクリアランスは初絞りでは大きく設定し、徐々に小さくしていき、最終工程で製品の品質によってしごき状態に変化させるのが一般的です。
まとめ
今回は板金加工のクリアランスについて解説しました。以下、まとめになります。
・クリアランスとは、一般にダイとパンチの片側の隙間を意味するが、前後左右が対象なNCタレットパンチプレスなどの金型の場合、ダイとパンチの差(両側の隙間)を指すこともある
・クリアランスは製品材料の材質および板厚によってその数値は異なる
・切断面を見ればクリアランス値が適正かどうか判断することができる
クリアランスは小さすぎても大きすぎても問題が発生します。
断面形状がR状になった部分、凹凸部分、ギザギザ部分が出来上がるなど、せん断精度に非常に大きな影響を与えるからです。
そのため加工時には、板厚、材質によってサイズ調整を行い、適切なクリアランス値を設定するようにしましょう。