新型コロナウイルスにより、2020年は世界中の個人やあらゆる業種規模で、人間の行動や価値観を大きく変えてしまったと言えるでしょう。世界中の人間や企業は「ポスト・コロナ」や「With コロナ」と呼ばれる、新型コロナウイルスと付き合いながら経済や社会を維持する時代へと突入しました。その影響は大きく、これまで当たり前に続けていたビジネスの有り方を見直さなければいけない状況へと変動していっています。サービス業や交通機関など、直接影響を受け続けている業種だけでなく、製造業も今後を見据えるにはどういった形で変革していくのかを考える必要があります。
対面業務が必須の業界は長期的に負の影響を受ける傾向にありますが、マスクや消毒液などの生活必需品メーカーなどは業績が伸びる一方です。
そのため、コロナウイスルによる影響で大きなマイナスが出ているところは多いものの、プラスになっているところもあり、コロナ禍で全てがマイナスになったとは言えない状況が生まれています。
100年前に蔓延した「スペイン風邪」は症例を統計的に分析する手法を確立させました。20年前の「SARS」はEコマースの急速な普及を後押しするなど、大きな疫病の後には何かしら社会の発展にも繋がっています。「ソーシャル・ディスタンス」や「三密回避」が求められるコロナウイルスは一体どんな社会の変化をもたらすのでしょうか。今回は製造業とコロナについて解説していきます。

新型コロナウイルスによる影響

2020年、世界的な新型コロナウイルスの大流行で日本経済は歴史的な景気暴落に見舞われました。4-6月の国内総生産(GDP)は戦後最悪の落ち込みを記録し、対面での接触を減らし感染拡大を防ぐ事によって、企業活動の回復度合いは業種によって二極化しました。コロナウイルスによる影響はまだ強く残り、女性や非正規労働者といった弱い立場の人間へのしわ寄せが一層強まっている状況です。

2020年10月の経済産業省の鉱工業生産指数をみると、95.0まで回復していますが、2018年の約10%低い水準に留まっています。2021年に入っても輸出や鉱工業生産の回復トレンドは改善基調を辿りますが、そのペースはゆるやかです。
そのため、製造業の生産活動の回復はゆるやかに続き、新型コロナ前の生産水準に戻るには2022年頃ではないかと予測されています。

コロナの影響により今までのやり方を見直す事が必要

コロナウイルスの影響によって、多くの顧客が外出を控えた影響により、消費需要が大きく低下しています。そのため、需要予測に基づいて算出される「生産計画」「販売計画」も見直しをしなければいけなくなり、リードタイムやキャパシティも予測が困難となり、サービス提供方法自体の改定が必要とされています。よって、ものづくり企業は柔軟性のある計画への変更を求められ、より大きなバリューチェーン変革の視点で自社のサプライチェーン全体の計画を見直す必要性に直面しています。
バリューチェーンとは、付加価値が生み出されている部分、どの部分に強みや弱みがあるのかを分析して事業戦略を探るフレームワークです。サプライチェーンとは供給連鎖の事であり、製品や食品などのもととなる原材料から製造、販売までユーザーに届くまでの一連の流れです。バリューチェーンは物やサービスにどのような価値が加わっているのか、サプライチェーンは物がどのように供給されているかを表します。
つまり、ものづくり企業である製造業は、自社の付加価値による強み・弱みを分析し、事業戦略を探った上で、原材料から顧客に届くまでの流れ全体を見直し、柔軟性のある計画づくりを求められています。

アフターコロナに向けて企業が求められるもの

コロナ収束後にむけての「新しい日常」に対応して、デジタル化が加速していく中、企業の大小を問わずDX(Digital Transformation)の推進が求められています。
経済・社会のデジタル化、脱炭素化に向けたエネルギー転換、健康な暮らしの確保、強靭なサプライチェーン構築、中小企業や地域経済の活性化、人材の育成・強化など、経済産業省が2020年9月に発表した2021年度の「経済産業政策の重点」は、これからの日本の成長エンジンとして重要な役割を担っていくと考えられています。
これからの分野では、医療機器、5G、半導体、再生可能エネルギーなどのテーマが、政府支援策として企業向けに増加されると予測されています。そのため、企業は自社の技術がどのような分野に活かせるかを見極め、デジタル化を推し進め、「新しい日常」に対応する成長機会を取り込んでいかなければいけません。

DXとは

DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革しつつ、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することです。「デジタル技術が浸透することで人間の生活のあらゆる面で引き起こす、あるいは良い影響を与える変化」として、スウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念です。
経済産業省は2021年から2025年をDXファースト期間とし、経営戦略を踏まえたシステムの新改革を経営の最優先課題として計画的に行うよう提唱しています。特に製造業においてDX化はとても重要です。しかし、DX推進の必要性を理解してはいても、実際はビジネス変革につながっていない企業が多いというのが現状です。その要因として挙げられるのはレガシーシステムです。

レガシーシステムとは

レガシーシステムとは、「自社システムの中身が不透明であり、自分等の手で修正できない状況に陥ったシステム」のことを指します。
レガシーシステムを運用し続けていると「自社システムがブラックボックス化」し、システムの中身を理解している人がいないか、極端に限られることからシステム障害への対応が常に遅れ、業務パフォーマンスの低下を招きます。レガシーシステムが影響を与える範囲は他のシステムにも及び、システム環境全体のパフォーマンスが低下し、システムパフォーマンスの改善も難しく、問題はそのままになってしまいます。レガシーシステムのまま新しい技術の採用やビジネス要件への対応を推進しようとすると、アドオン・カスタマイズがどんどん積み重ねられ、一層の複雑化を極め、いよいよ手が付けられなくなるでしょう。そのため、レガシーシステムを運用していると企業が望むビジネス要件が満たせない可能性が高いでしょう。また、レガシーシステムを運用し続けると、ブラックボックス化したシステムへの対応や運用管理作業に追われることが多くなり、運用管理費用は肥大化していき、IT予算の9割を運用管理費用に費やすことになってしまいます。

レガシーシステムを放置すると発生する4つの弊害

2025年までにレガシーシステム問題を解消できなければ、最大で12兆円の経済損失が毎年発生すると経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では警告されています。
レガシーシステム問題をこのまま放置しておくと、4つの弊害が発生します。
①システム障害の発生
②パフォーマンスの低下
③IT人材不足
④ビジネス上の障害

①システム障害の発生

レガシーシステムを使い続けるという事は、最新のプログラムや要求される情報処理能力や量に対応できなくなっていくため、システム障害が発生するリスクが非常に高くなります。その度に補修や機能追加を繰り返すため、対応と時間がかかりシステム障害は重症化していくでしょう。

パフォーマンスの低下

度重なるカスタマイズが行われてきたレガシーシステムは、一定量のデータを集めて一括処理を行うバッチ処理の夜間実施を行う場合、古いシステムだと処理に膨大な時間がかかります。そのため、処理やバックアップ作業が業務開始時間までに終了しないといった問題が発生してしまいます。また不要なソースの大量発生によって、システムがスムーズに動かせなくなる可能性もあります。
2025年は経済停滞に向かうか、変革に向かうかの分岐点と言われており、もしDXを実現できた場合は2030年の実質GDPが130兆円押しあがるかもしれないと言われています。

IT人材不足

古いテクノロジーに対応できる技術者が高齢化すると、レガシーシステムを使い続ける企業は人材の確保が年々難しくなってきます。
たとえば古いプログラミング言語など、基本構造を理解した上で処理できる技術者の数は減少しているといえるでしょう。

ビジネス上の障害

目まぐるしく変化するビジネスの世界において、求められるシステム要件は次々と変化し、システムのアップデートが日々求められるでしょう。レガシーシステムを使い続けると、臨機応変に更新できず、ビジネスの遅延を招くことになるでしょう。また、最新システム導入が行われていないために互換性が失われ、クライアントが取引先を変更するリスクも発生するため、要注意です。

レガシーシステムを新しく変革するために大切な事は、どのシステムにどのような機能が実装されていて、現場レベルではどのような運用が行われているかを把握・整理する事です。
現状分析を行い、どの範囲で新しく変革するかを想定するには、社内体制を整える必要があります。

DXは人が実際その場に行かなくても実行できる

新型コロナウイルスによって、人の移動が断続的に制限を受けるため、技術者派遣によって生産性や品質を確保していた量産立ち上げなどのモノづくりは大きな影響を受けています。製造業は人の移動なしに新規製品の開発や生産を行わなければいけないという問題が生じ始めました。これを解決したのがDXです。

たとえば、経産省が行っているDXは、デジタルによる「オペレーションの最適化」です。IT・デジタルの徹底活用で、手続きを圧倒的に簡単・便利にするため、紙による書類を廃止し、国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上しました。これにより2つの事が可能となりました。
・ワンスオンリー(異なる手続きで同じ情報を何度も入力せず一度の入力で良くなる)
・ワンストップ(関連する手続きが一括で終わるため手続きにかかっていた手間・時間が圧倒的に少なくなる)
DXにより、手続きのため書類をわざわざ作成をする必要がなくなり、申請時の記載漏れが自動的にわかり、窓口でのやりとりも無くなります。
このオペレーションの最適化は窓口だけでなく、製造業においても大変有効です。導入すればヒューマンエラーや人件費を削減でき、難しい仕事もAIに学習させることでその技術を再現する事ができます。DXは今までそれらにかかっていた時間を別の事に回すことができるため、生産性が増していくでしょう。

まとめ

製造業とコロナについて解説してきました。以下、まとめになります。

・コロナの影響により業界別に二極化したが、製造業的にはゆるやかに回復しつつある
・レガシーシステムのまま続行すると、いずれあらゆる面で対応できなくなってくる
・DXはコロナの影響により必要性が増した

コロナの影響によって人と会うことが成立しないビジネス状況の中、デジタル化なしで成立していた中小企業にもDX導入が不可欠となりました。アフターコロナへ向けて、モノづくりの新しい形として、DXを企業へ導入する事をぜひ考えてみてください。