板金加工の納期を短くするのは大変! 加工側と依頼側が短納期実現のためにできることとは?
想定外の不具合が発生して早く試作品を作らないといけないのに、いつもの加工業者では間に合わない。難しい加工がある製品なので短納期に対応してくれるメーカーが見つからない。板金加工を金属加工メーカーに依頼する際、このような悩みを抱えることが多いのではないでしょうか。実績や対応できる納品日などを各メーカーに確認するとなると、非常に時間がかかります。短納期実現のために、依頼者側と加工業者ができることは何なのでしょうか。今回は板金加工と納期について解説します。
短納期で依頼する際に注意する項目
短納期で製品を納品して欲しい場合、板金加工側だけでなく、依頼者側の準備も必要です。
一方的に依頼を出してしまうと、板金加工メーカーの作業工数が非常に多くなり、短納期の実現が難しくなります。
短納期で板金加工に依頼する場合、注意する項目は以下の通りです。
極力加工工程を減らす
1つ目は「極力加工工程を減らす」ことです。
短納期を望む場合、極力加工工程を減らすように依頼します。自社でできる工程や通常は行うが特急のために要らない工程など、明確に伝えることによって少しでも作業工程を減らすことができます。依頼する前にやっておけば作業工程を減らせる例は以下の通りです。
・タップ加工や穴あけ加工は自社でやる
・仕上げ加工が要らない部分を明確に伝える
加工工程を極力減らすことによって、作業効率が上がり、短納期を実現できます。
図面の用意
2つ目は「図面を用意する」ことです。
あらかじめ図面を用意しておくと、メーカーが発注側の依頼を受けてから図面を引くなどの作業工程が減り、より早く実際の加工工程に移れるため、短納期の板金加工にも対応が可能になるかもしれません。
材料を事前に手配しておく
3つ目は「材料を事前に手配しておく」ことです。
一般的に流通している材料は基本的に次の日には入手が可能です。しかし、流通の少ない特殊な材料となると次の日に入手するのは困難でしょう。特に試作の場合、使用量が1枚など少量になるため、中々入手しづらい場合があります。
一般的には流通していないことが多く、入手するまでに時間がかかる材料の例は以下の通りです。
・自動車部品などにのみ使われている材料
・ばね材料などの硬度指定が特殊なもの
・特殊な表面処理鋼板
そのため、依頼する側は事前に材料の手配をかけておくか、依頼者側で材料を入手し、支給することで、材料調達を短納期にすることができます。
短納期を実現するための板金加工側ができること
短納期を実現するための板金加工側ができることは以下の通りです。
設計・提案、展開の段階を縮小
1つ目は「設計・提案、展開の段階を縮小」することです。
精密板金加工での平均的なリードタイムは10日です。ただし、表面への塗装やメッキなどの処理が入ると13日以上かかることもあります。さらに新規品については設計段階での打ち合わせ、展開データ作成などが入ると非常に時間を取られてしまいます。
板金加工の設計から検査までの流れは以下の通りです。
①設計・提案
②展開
③抜き加工
④成型加工
⑤曲げ加工
⑥溶接加工
⑦表面処理
⑧組立
⑨検査
短納期を実現するための具体的な解決策として、新規製作時に限りCADデータを活用すれば、設計段階の打ち合わせ回数を省き、展開図作成を自動化してリードタイムを短縮することができます。
IGESまたはSTEP形式の3DモデルまたはDXF形式の図面データを依頼する側が提供し、そのデータを加工用として使用すれば、リードタイム短縮が可能になります。
これらにより、設計・提案、展開の段階を縮小して板金加工を進めることができ、短納期の実現に近づくでしょう。
人的資源の有効活用
2つ目は「人的資源の有効活用」です。
従業員一人一人が多能工として様々な作業を横断的に担当する事で、工程の繁閑によって人員に無駄ができず、待ち時間もできません。
特急品を受注した場合でも全員で各行程を分担し製作を進めることができます。
分業制ではなく全員がすべての加工をできる少数精鋭体制なため、短納期案件を受注しても、製作の順番など臨機応変に変更することができます。
(製作スタッフ人数に対して)豊富な設備を整えることにより機械待ちが無くなれば、複数案件を同時に進めることができ、納期を短縮することに繋がります。
専用ラインを二本立てで運用
3つ目は「専用ラインを二本立てで運用」です。
短納期の案件は、一般的に突発的に発生することが多いです。そうなると通常のスケジュールで動いている量産ラインに影響が出てしまいます。そうなるとどちらにも悪影響となってしまいます。そうならないために、通常の量産ラインと突発的案件に対応する専用ラインの2系統を適宜使い分けることで、干渉を回避します。
柔軟な配送体制の構築化
4つ目は「柔軟な配送体制の構築化」です。
短納期化のために、製造工程の無駄を排除するだけでは限界があります。
製造工程の無駄を省く以外に短納期のためにできること、それは配送体制の柔軟な構築化です。
柔軟な配送体制の構築化によって完成品を届ける時間を大幅に節約する事ができるでしょう。具体的な例は以下の通りです。
・お客様の本社、事業者ではなく工場に直接配送
・お客様に当社まで完成品を受け取りに来てもらうなど
材料手配の手間を減らす
5つ目は「材料手配の手間を減らす」です。
材料手配と調達は納期がかさむ原因の一つです。自社の倉庫に使用頻度の高い標準的な板厚の素材を常備することで、材料手配や調達にかかる手間や時間のロスをカットすることができます。
短納期へ向けた普段からの地道な取り組み
6つ目は「短納期へ向けた普段からの地道な取り組み」です。
短納期を実現するためには、設備機器のアップグレード、従業員の多能工化、ベテランから若手への技術継承といった取り組みを普段から実践しておく必要があります。こうした地道な取り組みが短納期実現化へと繋がるでしょう。
全て自社内で一貫生産
7つ目は「全て自社内で一貫生産」することです。
板金加工における切断、曲げ、洗浄、塗装、組立、二次加工に至る全てを自社内で一貫生産することで、協力工場との分業で行うことで生じた製品の輸送日数、加工日数を大幅に削減することができます。
また、自社内であらゆる板金加工の工程を内製化することで、急な仕様変更、数量変更にも迅速に対応できるため、安定した品質管理を行う事ができます。
短納期板金加工対応メーカー紹介
短納期の板金加工に対応できる金属加工メーカーを紹介します。
株式会社ウシオ
1つ目は「株式会社ウシオ」です。
株式会社ウシオは、試作板金を専門とする板金加工会社です。試作板金業として少数生産だけでなく、中ロット注文にも対応できる高い板金技術と設備を備えています。創業から25年間の内試作板金加工を99%行っている、実績ある会社です。
試作板金専門会社ですので、量産などの注文が難しく、大きいサイズの試作板金にも対応できる設備がありません。しかし、試作板金は最短3日ほどで可能ですので、試作板金で短納期依頼をするのならオススメの会社です。
株式会社ハルナ工業
2つ目は「株式会社ハルナ工業」です。
株式会社ハルナ工業は、精密板金加工、NCパンチング加工、レーザー加工、溶接・塗装を行っており、CO2レーザー加工機などの充実した設備を用いて、ステンレスやアルミ、鉄などの板厚0.8~2mmの精密板金を得意としています。
試作板金や精密板金を得意としている会社のため、大量生産には対応していない場合があります。しかし、高速加工ができるレーザー機械やベンダー加工機の設備があるため、最短2日で試作板金の納品が可能です。そのため、短納期の精密板金加工でオススメの会社です。
株式会社杉村製作所
3つ目は「株式会社杉村製作所」です。
株式会社杉村製作所は、ロール加工を得意としており、各種金属ロールなどの精密加工、精密研磨加工、板金加工を行っている会社です。国内4つの工場と豊富な設備があるため、納期に柔軟に対応することができます。
杉村製作所は、研削盤20台、旋盤38台、鏡面仕上機5台など、急な依頼や短い納期にも対応できるよう豊富な設備を揃えています。
ロール加工を専門としているため、医療機器や自動車部品などの精密部品の加工はできませんが、研磨加工・溝切加工ならオススメの会社です。
株式会社大日工業
4つ目は「株式会社大日工業」です。
株式会社大日工業は、3次元測定器や3Dスキャナーを用いた、試作加工品の特急対応を得意としている会社です。最新のレーザースキャナやマシニングセンター、レーザー加工機の設備がありますので、電化製品や自動車部品などのさまざまな加工に対応可能です。
株式会社大日工業は、小ロット生産や単品加工に対応できますが、大型の板金加工などはできません。しかし、優れた加工技術と最新設備があり、レーザー加工や曲げ加工もすぐに行うことができるため、曲げの試作板金ならオススメの会社です。
まとめ
今回は板金加工と納期について解説しました。以下、まとめになります。
・依頼者側は図面を用意したり、仕上げ加工が要らない部分を明確に伝えるなど極力加工工程が減るよう事前準備をする
・加工側は製造工程の無駄を省き、運送や材料手配の見直し、技術者を急な短納期依頼でも全員で各行程を分担し製作を進めることができるよう多能工化する
・両者とも、短納期へ向けて、普段から地道な取り組みをする
板金加工は、自動車部品や医療部品などのさまざまな製品に必要な加工技術です。
依頼者側も板金加工側も、短納期実現のために、日頃からの地道な取り組み準備が大切です。
多能工化された少数精鋭による高い技術力と最新の設備、徹底した工程管理により、高品質の製品を短納期で納品することができるでしょう。
依頼者側もあらかじめ材料を用意するなど、事前準備を行っておけば、短納期は実現できるはずです。