板金加工の市場規模は増々成長する? 世界市場で戦うために必要なのは全体での利便性を兼ね備えたトータルソリューション!
2021年から2025年の間に、世界の板金加工装置の市場規模は10%のCAGRで拡大し、55億7,00万米ドルに達すると予測されています。主な成長要因として、世界的な産業オートメーションの増加、CNC機械の需要の高まり、多くの国における建設業界の成長が挙げられます。特に世界的な産業オートメーションの増加は、板金加工市場規模を後押しするでしょう。今回は板金加工と市場規模について解説します。
緩やかな改善傾向にある金属業界
経済産業省「工業統計調査」によると、日本国内の加工組立型産業の発展を支えてきた板金、切削、メッキなどの金属加工業は、ユーザーニーズの増加や機械技術革新とIT化による一層の技術力や設備の工場が求められています。
金属業界は2008年を境に、アメリカの金融危機やリーマンショックなどの影響を受け、自動車、住宅建材、飲料用缶などを中心に落ち込み、市場縮小を余儀なくされました。
2012年以降、消費マインド改善による民間需要の拡大やアメリカの住宅市場の回復、東日本大震災の復興需要などにより、業績は回復。さらに2013年から2014年にかけて株価の上昇や雇用環境改善なども加わって、金属業界は緩やかな改善傾向へと向かっていきました。
金属加工業が国内で生き残るためには
電気自動車などの組立型産業の海外進出が進み、製造業の海外生産比率は大きく上昇しました。ユーザー企業の組立が国内・海外で行われるかにより、一部の国内調達が不可欠なものを除いて部品調達がどちらになるかが決まります。しかし、組立は国内が主体であり、部品調達も国内が中心でした。精度や技術力を要する製造装置、製造業を支える検査・測定機器などの一般機械・産業機械は比較的国内の競争力が強いからです。
板金加工などの金属加工業が国内生産で生き残るために必要なのは以下の通りです。
・取引先ユーザーの業種や国内での生産ニーズの見極め
・対応できるものづくり経営力の整備
この場合、生産ニーズとは以下の事を指します。
・試作開発
・多品種小ロット対応
・高付加価値製品
・短納期製品など
ものづくり経営力とは以下の事を指します。
・技術力
・生産システム
・マーケティング
・社内と同業者や周辺業種といった社外とのネットワークなど
金属加工業が世界の追い上げから生き抜くには
従来の金属加工技術は、日々の現場での改善の積み重ねによって蓄積された部分があり、技術の継承が大きな課題となっていました。ITや機械技術などの高度化によって、機械化や自動化、情報化による技能の技術化も進展。こうした技術の海外移転に伴い、アジア諸国による追い上げが急速に進行しています。
日本の板金加工を含む金属加工業が世界の追い上げから生き抜くためには、NC複合加工機や3Dプリンターなどの高機能化した加工設備の導入や活用など、一定の技術力や設備の保有を前提とした競争力が求められるでしょう。
複数工程分野を請け負える部品企業が主流になる
ユーザー企業は日本国内だけでなく、国際的な最適調達を志向するようになってきました。そのため、板金加工などの金属加工業の国内市場での競争は一段と激しいものとなり、生産工程の情報化、技能の技術による代替えでより装置産業化し、資金力と技術力がある程度ある企業でなければ、企業が独立存在していくのが難しくなってきています。
部品の共通化やモジュール化が進行する一方、発注先に購買機能の一部代替えを求めるようになりました。これにより、特定部品の専業者や他企業とのネットワーク化などで、複数工程分野を請け負える部品企業が主流となっています。
産業連関表で市場規模を掴む
2015年、日本の国内生産額は約1,018兆円でした。これは1955年に産業連関表作成開始以来、初めて1,000兆円を超えたことになります。2011年に比べると8.3%増加であり、さらに輸入は22.9%増加しています。よって総供給は2011年に比べて9.5%増加となり、国内需要は8.7%増加、輸出は19.7%増加となりました。第1次産業(農業など)は1.3%(12.9兆円)、第2次産業(鉱業、製造業、建設など)は35.8%(364.5兆円)、第3次産業(その他)は62.9%(640.4兆円)であり、第2次産業は前回から0.7ポイント減少し、第3次産業の構成比率は0.6%増加し、上昇傾向にありました。
産業は、域内・域外の産業と相互に念密な取引関係を結びつつ生産活動を行い、地域独自の産業構造を形成しています。それぞれの関係が各産業間で連鎖的につながり、最終需要者に対して必要な財やサービスを供給するのです。
「産業連関表」とは、このような産業間の取引をまとめたもので、経済活動を財やサービスの取引関係という側面から捉えており、ある地域における一定期間の経済活動の実態を一つの表にまとめたものです。この場合、一定期間とは通常1年間を指します。各産業が相互に支え合って社会が成立している実体を具体的な数値で見ることができます。
産業連関表を使えば、2025年大阪万博の経済波及効果(試算値約2兆円)も試算することが可能となり、市場規模がどれくらいなのか知る事ができます。
しかし、板金市場規模を産業連関表で試算するのは難しいようです。15年以上前に産業連関表を活用して板金業界の市場規模を推定できないか試みたマーケター達がいました。彼らは分類項目の中に板金製品や板金機械を含ませず、需要先である関連産業の板金化比率を予測し、売上高に換算した数字を積み上げて市場規模予測を行ったため、正確な数字を把握することができませんでした。
建設投資の波及効果が高い産業が板金業界において重要な業界は以下の通りです。
・鋼製建具業界
・建築金物業界
・建築業界
・建設機械業界
・配電盤業界、
・房機器業界
・空調機器業界
・昇降機業界
・鋼材業界
上記の分野を産業連関表に積み上げていけば、板金加工市場のおおよその数字は掴めるかもしれません。
板金加工市場の新たな需要
2020年に新型コロナウイルスによって世界的感染拡大が発生し、米国など主要な輸出国は経済的ダメージを受け、全ての産業部門において景気後退が見られました。特に自動車、航空宇宙、繊維産業は、ロックダウンと売上不振による大打撃を受けました。
中国全域が不要不急の渡航制限や感染症危険レベル2まで引き揚げられたことにより、日本も部品調達のルートを絶たれてしまい、中国に進出している日系企業や中国と取引のある国内企業に大きな影響を与えました。
しかし、相次ぐ自然災害により交通系インフラ(鉄道や道路、空港、港湾など)やライフライン(電気、ガス、水道、通信など)の大規模修繕が最重要課題となり、これまで板金需要ではなかった厚板や大板の市場が拡大しました。
また、中小企業の防災視点によるBCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)への取り組みも始まり、自家発電装置や蓄電池など、新たな板金需要も生まれました。
そのため、2020年の板金製品の市場としては、既存の市場で収縮傾向にあるものの、新たな市場創造、拡大が期待されました。
工作機械の世界市場3位になった日本のアマダ
ものづくり分野では中国の勢いが凄まじく、日本メーカーは価格競争に敗れて撤退するケースが少なくありません。
工作機械業界の世界市場シェアの分析によると、日本の金属機械のグローバルメーカーであるアマダグループは、工作機械業界の中で世界第3位となり、板金機械の中では日本一に輝きました。工作機械で圧倒的にメジャーなのは切削機械であり、板金は全体の10~15%くらいですが、アマダの売上の多くは板金加工事業が占めています。
アマダは60年以上の歴史があります。板金機械業界をほぼ独占しており、日本全国に多くのユーザーと販売店があります。もし不景気で機械が売れなくても、修理などのサービス部門があるため、ある程度は安定した収益が確保できるという強みがあります。
2020年は新型コロナウイルスの影響で売上は約3割減少していますが、経費削減、70億円をかけた構造改革にも踏み切ったことで、景気の影響が極めて大きい機械産業において比較的安定した基盤で売上を確保しています。2020年度を除いて、過去10年間のアマダの売上は右肩上がりであり、成熟した工作機械業界においてこれほどまで拡大しているメーカーは多くはありません。
欧州や中国を始めとする新興市場での競争激化による売価下落の懸念
欧州や中国を始めとする新興市場での競争激化による売価下落の懸念はアマダだけでなく、全てのメーカーにいえることでしょう。
レーザー加工機などは、価格の安い中国専門メーカーから発振器や加工ヘッドを安く購入して組み立てることができます。たとえばアマダ製が6,000万円とすると、中国メーカーは同じスペックのものを3,000万円くらいで作ることができてしまいます。
合理性を重視する欧米市場や品質を重視しない新興国市場では低価格加工機のシェアが伸びています。
乗り換えを考えさせないトータルソリューションを提供
アマダは機械の性能だけでなく加工プログラムの管理、工程管理、見積もり作成など、一貫性のあるシステムというネットワーク化に定評があります。
昔からアマダは板金ユーザーの工場全体、会社全体の工程を考えるトータルソリューションを行っていました。
一つひとつの単体の性能だけでなく、全体での利便性を兼ね備えたアマダのシステム。ユーザーが安いという理由だけで中国メーカーに乗り換えないのはそのためでしょう。
まとめ
板金加工と市場規模について解説してきました。以下、まとめになります。
・板金加工が国内市場で生き残るためには、取引先ユーザーの業種や国内での生産ニーズを見極める力と対応できるものづくり経営力の整備が必要となる
・相次ぐ自然災害に対する大規模修繕により、板金加工では需要がなかった厚板や大板の市場が拡大し、自家発電装置や蓄電池といった新たな板金需要も生まれた
・合理性を重視する欧米市場や品質を重視しない新興国市場では低価格の板金加工機のシェアが伸びている
2020年の新型コロナウイルスにより板金加工市場は影響を受けましたが、ゆるやかな回復傾向を見せており、2021年度は国内だけでなく世界市場で活躍する企業が増えていくのではないでしょうか。日本企業が高い品質を保持したまま合理性を求める欧州市場でシェアを増やしている中国メーカーと戦うには、一製品を良くするのではなく、全体での利便性を兼ね備えたトータルソリューションシステムという戦い方が求められるでしょう。
元々、需要がなかった市場が拡大したり、防災の観点から自家発電装置や蓄電池といった新たな板金需要も増えているため、板金加工市場規模は今後も成長していくと考えられるのではないでしょうか。