人間はどれほど注意していてもミスをしてしまいます。機械を動かすのは人間です。そのため、不良品や欠品を完全に無くすことは難しいでしょう。もし不注意やミスで不良品が市場に流れてしまうと、回収のコストだけでなく、企業の信頼・ブランドは失われてしまいます。そんな事態を少しでも減らすために、多くの企業では様々な対策をしています。その中で不良を発見できる仕組みである「ポカヨケ」があります。今回は製造業とポカヨケについて解説します。

ポカヨケとは

ポカヨケとは、工場などの製造ラインに設置される、作業ミスを物理的に防止する仕組みや装置のことです。

ポカヨケの語源は、囲碁や将棋で通常は考えられない悪い手(ポカ)を回避する(よける)こととも言われています。
製造業におけるポカヨケの「ポカ」はヒューマンエラーにより生じてしまうミスのことです。具体例は以下の通りです。

・伝票や作業指示書の見間違い
・異物の混入
・部品の組み忘れや検査漏れ
・付属品の入れ忘れ
・落下による破損など

どれだけ作業をマニュアル化し、規則・教育を充実させたとしても、ヒューマンエラーのリスクを100%回避するのは不可能です。
つまり、作業を構成する人以外の要素に対して、人がミスしにくいシステムを構築するのがポカヨケであり、トヨタ生産方式でも重要視されています。
異品や規格外の製品は次工程へ流さない、またはアラートが鳴る、位置ずれがある場合はスイッチを押しても起動しない、などが該当します。

ポカヨケを生み出したとされる新郷重夫氏

「ポカヨケ」の由来は米国のフール・プルーフです。人の失敗を電気機器で補う対策をもとに発想され、広まりました。

英語を直訳すると「バカヨケ」というので、日本企業で使用が始まった当初は「バカヨケ」という名で使われていました。

しかし、日本能率協会コンサルタントだった新郷重夫氏がバカヨケ装置をある企業に設置した時、作業者が「不良はこの装置で減りましたが、私が馬鹿だったのをこの装置が助けたなんて……」と言って涙を流した様子を見て、「バカヨケはいけない! 人のウッカリミスを補完するのであるからポカを防ぐポカヨケにしよう!」ということで、この名称がつけられたという逸話が残っています。

そのきっかけは以下のような流れになっています。

・とある企業から「バネの入れ忘れの改善」を相談される
・新郷氏「組み立てに使用するバネを小皿に入れてから作業を行う」ようにアドバイス
・作業後の小皿に残っているバネの数によって、ミスが発生しているかを可視化し、ミスを激減

新郷氏は海外でも著名であり、そのため「POKA-YOKE(ポカヨケ)」も日本発の世界共通言語となっています。

ポカヨケの基本的な考え方

ポカヨケの基本的な考え方は、全工程の最後に検査をするのではなく、それぞれの製造工程内で改善点を発見することで次工程に不良品を流さないようにすることです。そのための考え方と方法は、以下のとおりです。

・ミスが発生しないようにする(物理的にミスが起きない):色分けで識別
・ミスが発生したときに適切な対応をする:アラームで通知
・ミス発生後に適切な対応をし、不良品を出さない:検査を実施し不具合があれば除外する

ポカヨケの時系列分類

ポカヨケの特徴は、導入前後で作業者の負担を増やすことなく品質向上を図れる点にあります。
ポカヨケをしない場合、ライン内の製品に対して全数検査をかける必要があります。検査工程が増えると、時間や人員コストのロスが発生し、結果的に製品の価格競争力が落ちてしまうでしょう。
ポカヨケを導入すれば、永続的な運用コストを必要とせず、一定の品質向上効果が持続します。

不良をどのタイミングで対策するのか時系列で分類すると、以下のタイプに分かれます。対策したいミスや不良に応じてポカヨケを使い分けると効果的です。

発生前対策

1つ目は「発生前対策」です。

事前に製造ラインで発生し得るリスクについて評価・検討を行い、製造技術上の原理を利用して、確実に不良発生を防ぐタイプです。該当するのは以下の通りです。

・物理的に作業ミスが起きない形状の部品設計
・作業者がミスをした時点で次の工程へ進めなくするなどのフールプルーフ設計など

発生時対策

2つ目は「発生時対策」です。

不良が発生する瞬間もしくは工程の中で、不良の検知や防止を実施するタイプです。該当するのは以下の通りです。

・画像認識や光学センサによって不良を検出し、ブザーやランプを用いて作業者に通知する仕組み
・異常発生時に機械を停止したり操作盤をロックするなどの防止策を図る規制式など

発生後対策

3つ目は「発生後対策」です。

ある工程での不良発生を許し、後工程で検査することでその混入を防止するタイプです。該当するのは以下の通りです。

・製品包装・出荷ラインで完成品の形状に問題がある場合に、自動的に不良品を弾くような仕組みなど

ポカヨケで重要なこと

技術の進歩によって、ポケヨケには様々な手段が存在し、不良対策することが容易になりました。しかし、ポカヨケにとって重要なことは、不良の存在ではなく不良が発生するに至った原因です。ただポカヨケを導入するのではなく、不良が何故発生するのかを考えなければいけません。
ポカヨケを徹底するには、発生する不良の根本原因を解析し、的確な対策を打つようにしましょう。

ポカヨケの事例

実際に行われているポカヨケの事例は以下の通りです。

識別

1つ目は「識別」です。

識別とは、置き場の固定や視覚的な色分け、ICタグやバーコードなどで部品や製品を認識・区別する手法です。
ICタグやバーコードは、デジタルなアプローチのため導入コストは高いですが、製品や部品を電子的に識別することができます。
また、加工履歴を保存・管理できるため、生産管理システムと連携すれば、トレーサビリティの観点で絶大な効果を発揮するでしょう。具体的なポカヨケ対策は以下の通りです。

・組立・加工工程では、作業に使用する部品の置き場を固定すれば、誤った部品を組立に使うリスクを低減できる
・検品の際は良品を青色のケースに、不良品なら赤色のケースという風に色分けすることで不良品の後工程への流出を防ぐ
・製品が特定の工程を終えた段階で作業者がICタグやバーコードの読み取りを行い、作業状況を更新すれば、その工程で作業漏れがあっても次工程でエラーを通知し、ラインを停止する仕組みにすれば作業漏れを排除できる

専用治具の取り付け

2つ目は「専用治具の取り付け」です。

専用治具の取り付けとは、ポカヨケ専用の治具を取り付けて、製品を組立・加工する際に、部品の向きを間違えないようにする手法です。
新郷重夫氏が最初に提案したポカヨケと言われており、工程の流れと一体にしたポカヨケ装置のなかでも特に広く導入されています。具体的なポカヨケ対策の流れは以下の通りです。

①似ているようで形の異なる部品を本体の左右に組み付ける場合に、うっかり逆付けして不良を出してしまった
②治具を工夫し、右には右の部品、左には左の部品しか組み付けられないようにガイドピンやジャマ板を取り付ける
③間違えたときに作業が完成しないため、確実に不良を防止可能

ポカヨケ最新事例

従来は「間違いをおかさないための工夫」が主に行われていましたが、現在では「自動化・機械化によって人の手をかけない」考え方へとシフトしています。IT、IoT、ICTなどにより、ポカヨケも様々な事例が登場しています。ポカヨケ最新事例は以下の通りです。

ARと音声で作業ミスを防止

1つ目は「ARと音声で作業ミスを防止」です。

複雑な作業や危険が伴う作業の場合、正確さが求められるため、作業員の経験やスキルに依存することになります。
しかし、タブレット端末とARガイダンス、音声ガイダンスによるわかりやすいナビゲーションに従えば、経験に頼らずに作業することが可能となります。

AR(Augmented Reality)とは、スマートフォンやARグラス越しで見ると現実世界にナビゲーションや3Dデータ、動画などのデジタルコンテンツが出現し、現実世界に情報を付加してくれる技術です。
簡単に言うと、ARは現実世界の「足りない」または「補足したい」情報を補ってくれるものです。

作業手順の映像を見ながら行えるので、ヒューマンエラーを防止することができます。
また、作業履歴、作業時間、入力内容や撮影画像も記録可能ですので、これまでスキル習得に時間をかけていた業務も、ARと音声があれば従業員の教育を効率よく行うことが可能です。

工具のIoT化で誤組み付けを防止

2つ目は「工具のIoT化で誤組み付けを防止」です。

トルクレンチなどの工具にポカヨケ用の送受信機を取り付けることで、誤組付けを防止する事ができます。

マーキング作業において、既定の回数をカウンター表示してくれるほか、空うち防止のためにロックがかかる工具、締め付け忘れを防止する工具など、工具のIoT化が進むことによって様々な応用が可能となってきています。

誤出荷を防ぐデジタルピッキングやデジタルアソートシステム

3つ目は「誤出荷を防ぐデジタルピッキングやデジタルアソートシステム」です。

物流倉庫ではアナログな作業が多く残っているため、ピッキングや仕分けにも誤出荷がないように多くの確認工程があります。デジタルピッキングやデジタルアソートシステムを導入することで、伝票読みや製品探しの業務効率化、ヒューマンエラーを大幅に削減することができます。

まとめ

製造業とポカヨケについて解説してきました。以下、まとめになります。

・ポカヨケは工場などの製造ラインに設置される作業ミスを防止する仕組・装置のこと
・ポカヨケの基本的な考え方は「そもそもミスを発生させない」「発生したとしても適切な判断をし、不良品を流出させない」
・「間違いをおかさないための工夫」から、現在では「自動化・機械化によって人の手をかけない」考え方へとシフトしている

デジタルツール導入で物理的にヒューマンエラーを防ぐことができますが、ポカヨケをなくすには作業員一人一人が注意して、ミスに対して危険感受性を高めることが必要です。
「デジタルツール」と「ヒト」が担う仕事を見極め、ポカヨケの精度を高めながら業務効率化を目指すのがいいでしょう。