板金加工において残留応力は重要? 残留応力値を管理して正確な除去処理をしよう!
残留応力とは、負荷の有無に関係なく材料内に存在する応力のことです。引張された材料が元の状態に戻ろうとする結果発生し、許容を超えると割れなどが発生します。そのため、板金加工において残留応力は重要といえるでしょう。今回は板金加工の残留応力について解説します。
残留応力とは
残留応力とは、負荷の有無に関係なく材料内に存在する応力のことです。そのため、残留応力は外部負荷の力が全て除かれた後も存在します。残留応力の発生原因は以下の通りです。
・機械的:機械加工中の材料可塑化によって、材料が平衡状態に戻ろうとする結果発生
・熱的:溶接に伴う熱によって、溶接部・溶接部周辺に発生
・相変化:析出/相転移が容積変化を起こす(オーステナイトからマルテンサイトへの変化する時に発生)
溶接の場合、金属冷却による凝固時の収縮により溶接部周辺の金属を引張し、材料の許容応力を越えた場合、溶接部に割れが発生します。
つまり、引張方向に残留応力が残っている部材は、本来持っている引張強さに残留していた力を加算しておかないと、想定よりも小さな力で破断します。
これはどの板金加工法でもいえることであり、金属は材料として多くの構造材料や機械部品に使われるため、板金加工において残留応力は重要になってきます。
残留応力は製造工程で生成される
残留応力を生成する具体的な製造過程は以下の通りです。
冷間加工技術
・ショットピーニング
・レーザーショックピーニング
・超音波ピーニング
・鍛造
・バニシング仕上げ
・低可塑性バニシング
・圧延
・圧印
・分割スリーブ拡張など
機械的プロセス
・研磨
・フライス削り
・旋削など
熱的プロセス
・溶接
・鋳込み
・鍛造
・熱処理など
残留応力がおよぼす影響
残留応力の影響を特に受けるのが疲労強度部分です。本来は十分な疲労強度があると見込みがあったにもかかわらず、部材が壊れてしまうのは内部に残留応力があったからということもよくあります。残留応力が及ぼす影響は以下の通りです。
応力の方向によって強度が変わる
1つ目は「応力の方向によって強度が変わる」ことです。
残留応力には以下のような方向があります。
・引張方向:強度が弱くなり、本来持っている引張強さよりも大きな力がかかると破壊される
・圧縮方向:強度が強くなるので、曲げや引張強度については、圧縮応力が残っていた方が材料強度は上がるため良いという考え方もある
摩擦面に残留応力があれば優先的に応力腐食割れになる
2つ目は「摩擦面に残留応力があれば優先的に応力腐食割れになる」ことです。
炭素鋼、高張力鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、黄銅、高力アルミ合金、高力チタン合金のような合金などを、特定の腐食環境下で使用した状態に引張応力が加わると「応力腐食割れ」が発生します。
この場合、引張応力には使用時に加わる応力の他にも、機械加工や溶接、熱処理によって生じる残留応力も含まれており、金属材料の最大引張強さの1/10程度の引張応力でも、応力腐食割れの原因になります。
たとえば、炭素鋼では、高温、高濃度の苛性アルカリ水溶液や硝酸塩水溶液などが存在する環境において、応力腐食割れが発生しやすくなります。
応力腐食割れは合金で発生しやすく、純金属ではほとんど発生しません。しかし、部品や機器の破損を引き起こすため、さまざまな事故の原因となります。
圧縮応力が大きくなると剥離しやすくなる
3つ目は「メッキをする時、圧縮応力が大きくなると剥離しやすくなる」ことです。
めっきとは素材の表面に金属を接着させる表面処理のことであり、これを「蒸着(じょうちゃく)」といいます。蒸着とは、金属や酸化物などを蒸発させて処理を行い、薄膜を形成する方法のことです。蒸着と膜の種類と内容は以下の通りです。
蒸着 |
内容 |
PVD (物理蒸着:Physical Vapor Deposition) |
真空や熱を利用したドライコーティング技術。真空中で、メッキに使いたい金属を加熱し蒸発させ、その後、物の表面に高速で吹き付けることによって接着させる方法。真空蒸着法ともいう |
CVD (化学蒸着:Chemical Vapor Deposition) |
高温に保たれている被めっき物の周囲にめっきしたい物質の化合物蒸気をキャリヤーガスとともに送り、表面で熱分解させてめっきさせる技術、あるいは水素還元で金属を析出させる方法 |
膜 |
内容 |
PVD膜 |
薄い方が圧縮応力は大きくなる傾向がある。成膜機構そのものに基づく応力が主原因で、成膜時から応力が発生する |
CVD膜 |
厚くなるほど圧縮応力は大きくなる。成膜温度が高く、室温までの冷却過程での膜と基板の熱収縮の違いにより応力が発生するため、成膜時に応力は発生しない |
PVD、CVD膜では、熱応力により内部応力が発生します。
基板の方が収縮量は大きく、基板の縮みに引っ張られるようにして膜に圧縮応力が作用します。
基板が大きく収縮するのに膜が少ししか収縮しないと、膜には圧縮方向の力が加わり、その反力として基板には引張の力が加わります。応力が解放されなければ、その状態のままで固定され、膜には圧縮の、基板には引張の応力が残留します。
圧縮応力が大きくなると、膜が縮もうとしてシワあるいは膨れが発生するため、剥離しやすくなります。
スプリングバックが発生する
4つ目は「スプリングバックが発生する」ことです。
板金は、曲げた後にプレス機から外すと、残留応力によるスプリングバックにより曲げ角度が開いてしまいます。
スプリングバックとは、板金加工、プレス加工などで板などの材料を曲げた後に圧力が除かれると、曲げ角度が跳ね返ってくる現象、あるいは元に戻ろうとする力のことです。
スプリングバックには以下の種類があります。
冷間ロール成形のスプリングバック
冷間ロール成形のスプリングバックとは切断面が片側は閉じ、片側は広がるという現象のことであり、どの部分を切断しても同じように変形が発生します。
ロールに当たり巻き込まれる時に板を引き延ばす力が加わり、ロールを通過した後にも加えられた力によって板の内部に残留応力が発生することが原因です。
ベンダー曲げのスプリングバック
ベンダー曲げのスプリングバックとは、力を加えた時に板の内部で、曲げの内側には圧縮の力が、曲げの外側には引っ張りの力が働き、力を除くと圧縮と引っ張りの反力でバネの様に板が少し元に戻る現象のことです。全長にわたって発生します。
残留応力を除去する方法
残留応力を除去する方法は以下の通りです。
応力除去焼きなまし
1つ目は「応力除去焼きなまし」です。
応力除去焼きなましとは、材料が持っている再結晶温度よりも高い温度で熱し、冷却処理によって内部応力を除去する熱処理のことです。応力除去焼鈍ともいい、変態点以下で行う低温焼なましのことです。加工後の効果として残留応力を除去するため、使用中の割れを防ぐことができます。
通常、外径の10倍の長さの熱処理には矯正が行われますが、多くは加工歪みなどの矯正工程で生じた内部応力を除去するために行われます。
ショットブラストまたはショットピーニングで圧縮方向の残留応力を与えることで引張応力を相殺する方法
2つ目は「ショットブラストまたはショットピーニングで圧縮方向の残留応力を与えることで引張応力を相殺する方法」です。
ショットピーニング(shot peening)もショットブラスト(shot blast)も、投射材による圧縮残留応力を与える表面加工方法です。アルメンストリップという板材を使った残留応力値の品質管理をすることで、製品寿命の向上を図ることができます。
ショットピーニングとショットブラストの違いは以下の通りです。
ショットピーニング |
表面を圧縮塑性変形させ圧縮残留応力を与えるため、鉄または非鉄金属の径1mm前後の小さい丸球(ショット)を、遠心力や空気圧によって、高速度で対象物に投射し、耐久性などを向上させる表面加工により「金属材料を強くする」ことが目的。投射する機械の方式としては、圧縮空気の力で投射材を噴射するエアノズル式と、羽根車の回転による遠心力を用いて投射するインペラー式がある。 |
ショットブラスト |
表面に投射材(細かい砂や鋼製・鋳鉄製の小球)を吹き付けたり衝突させたりすることで、表面に小さな凸凹を作り、表面を粗く加工することにより「錆の進行を防ぎ塗料を長持ちする」ことが目的。大きい残留応力を与えるというよりは、潤滑油の保持性を上げるために敢えて表面粗さを悪くしたり、小さいバリを落とすことなどに用いられる。 |
ショットピーニングとショットブラストによって付与された圧縮残留応力は、引張応力と相殺されることで残留応力除去を行い、クラックの発生・伝播を低減します。
振動を与えて残留応力を除去する方法
3つ目は「振動を与えて残留応力を究極最低値まで減少させる方法」です。
振動を与えて残留応力を究極最低値まで減少させる方法として、SRE(Stress Relief Engineering Company)のフォーミュラ62(FORMULA 62 FORMULA 62)という装置があります。
低周波、高振幅の振動を与えることで、付属の金具や器具を加えた総重量に応じ、短時間で残留応力を究極最低値まで減少し、静止平衡の回復を図ります。
残留応力の除去には残留応力の状態把握が必要
残留応力の状態がわずかに変化しても部品の寿命に重大な影響を与える場合が時々あります。そのため、残留応力の除去を確実に正しく行うには、残留応力の状態把握の必要性が求められます。
まとめ
板金加工の残留応力について解説してきました。以下、まとめになります。
・残留応力とは、負荷の有無に関係なく材料内に存在する応力のこと
・残留応力の原因は機械的、熱的、相変化などによる製造過程で生成される
・残留応力の除去には様々な方法があるが、確実に正確に行うには残留応力の状態把握が必要
残留応力は負荷の有無に関係なく材料内に存在しますが、板金加工による製造過程が原因で亀裂や早期破壊、腐食割れ、錆びなどの影響を金属に及ぼします。しかし、残留応力値の品質管理をすることで、製品寿命の向上を図ることができます。
もし板金加工によって金属に影響をおよぼす残留応力が発生した場合は、残留応力の状況把握を行い、的確な処理を行いましょう。