板金加工できない形状とは? 設計段階でしっかりと考えて展開図を書こう
板金加工と聞くと、自動車のイメージがあると思います。実際にはノートPCのフレーム、コンビニなどに設置されている大型のゴミ箱、自動改札機など、板金加工は幅広く使用されている技術であり、非常に身近な存在です。
板金加工は金型の形状や摩耗状況、板金の加工形状といったその時々の製造状況によっても条件は変わります。また、作りたい製品の大きさや用途に縛られない加工方法ですが、できない形状も存在します。今回は板金加工できない形状について解説していきます。
板金加工とは
板金加工とは、ステンレスやスチール、アルミ、銅、真鍮などの薄い金属の板材に力を加えて変形させる加工方法です。
作りたい製品の大きさや用途に縛られない加工方法ですので、たくさんの分野で利用されています。以下はその一例です。
建築板金:屋根や自動ドアのフレームなど
内装系板金:飲食店のカウンター、流しの周り、郵便受けなど
工業系:鉄骨と薄い金属など
設備板金:産業設備の中で利用されている
その他:看板、デザインチックなもの
プレス加工に比べると金型がいらないのでイニシャル費用が安くなり、少量多品種に対応しやすい特長があります。
板金加工で作れる物と部品
板金加工で作れる物や部品は以下の通りです。
・スペーサー(構造物や機械類などの部品と部品の間に取り付けて空間や間隔を保ったり、調整する部品)
・電子部品(形状の小さい電極)
・電気・電子機器のカバーやボディ
・ノートPCのフレーム
・マンションの郵便受け
・家庭用流し台
・机
・収納ラック
・キャビネット
・傘立て
・駅のゴミ箱
・ロッカー
・自動改札機など
スペーサーや電子部品などの工業系部品・専門的機器を目にする機会はありませんが、郵便受けやロッカー、ゴミ箱などがあります。
上記の物や部品は、金属の板を切る、折り曲げる、くりぬく、溶接して形を作り上げるため、板状の物や中空の物の制作に向いているといえるでしょう。
板金加工の種類
板金加工の種類は以下の通りです。
手板金
1つ目が「手板金」です。
手板金はハンマーやツカミ、板金ハサミなどの工具を人が使って成形します。
手板金は流線形などの形を出すときや細かな部分を作ることに適していますが、作業にかかる時間が長くなってしまいます。
機械板金
2つ目が「機械板金」です。
機械板金は汎用金型を使って機械が成形します。
機械板金は、短時間に大量の物を作ることには向いていますが、手板金ほど形や細部にこだわった物を作ることには向いていません。
板金加工のメリット
板金加工のメリットは、金属の薄板を材料として加工するため、切削・鋳造・鍛造加工よりも軽く作れ、加工時間も短く、中空の物が作れるので、筐体(きょうたい)に向いています。
プラスチックの射出成形に比べ、強度の高い物が作成でき、木材加工品に比べ、材料の厚みを薄くでき、切削加工に比べ、コストが非常に安く済みます。
また、プレス加工と違い、新規に専用金型を作る必要がないため、型費用がない分、コストを抑えられ、少量多品種に対応しやすいです。
板金加工のデメリット
板金加工のデメリットは、大きな材料を切って曲げる、穴をあける、溶接するため、高い精度を求められる精密系には不向きなことです。
量産にも対応できますが、手動の工程も多く、大量生産に不向きな形状があるため、大量生産の規模になると金型を用いるプレス加工に比べ、精度もスピードも劣ります。
切削加工と違い、1/100 mmなどの高精度を出すことは難しく、専用金型を作らないため、加工工数が増え、完成までに時間がかかります。
また、専用金型が不要といっても、タレパンやベンダーにセットする汎用型は必要となります。
板金加工の工程
板金加工の工程は大きく6つに分けられます。
設計・展開プログラム
1つ目は「設計・展開プログラム」です。
設計・展開プログラムは、品質やコストまで含めて、製品をどのように作るかを考えなければいけません。板金の適切な設計や加工をするためには、板金の加工特性を知っておくこと、メーカー毎に加工可能な限界値や製造条件を知っておくことが大切です。
図面は基本的に第三角法で書かれています。これを板金でどう実現するか、どの個所を溶接するか、その後の工程のために必要な遊びはどのくらいか、どう面付したら廃棄を減らせるかを考え、部品ごとに平らな金属板への展開図を作ります。
展開した部品は金属の板材に割り付けていきます。機械の性能と板の強度、コストを把握して配置していくことが求められます。
加工方法を考慮した積み上げ式の設計ではなく、製作する物の最終形状をまずイメージし、そこから材料や板厚を定め、加工機械の特性を考慮して設計することが、コストを抑えながらイメージ通りの製品を作りあげる近道になります。
切断
2つ目は「切断」です。
切断は、板状の金属材料を適した大きさに切り取ることです。
定尺材に展開図を配置して、余る部分がたくさんあれば別の加工に使用します。
余る部分を残したまま抜き工程にまわすと余計な傷もついてしまう場合があるため、抜き工程に進める前に、必要な範囲を切り出しておきましょう。
穴あけ(抜き)
3つ目は「穴あけ(抜き)」です。
穴あけ(抜き)は、材料を部品の形に切り出したり、穴あけをしたりすることであり、複雑な形状の抜きや穴あけなどはこの工程で行います。別名ブランク加工ともいいます。
曲げ
4つ目は「曲げ」です。
曲げとは、抜いた材料に対して汎用金型を使い、力を加えて求める形状に変形させることです。この工程をうまく行うと、次に来る溶接工程を減らすことができ、製品の強度、精度、美観の向上に寄与します。
溶接
5つ目は「溶接」です。
溶接とは、変形した部品同士を接合させることです。溶接は主に、アーク放電を熱源とする電気を使って行うアーク溶接と、レーザ光を母材に照射し、金属を溶融して接合するレーザ溶接があります。
溶接は熱を加えるため、どうしてもひずみが生じます。精度に影響を与えますので、溶接個所をいかに少なく展開できるかは、設計の時点でしっかりと考えておきましょう。
仕上げ
6つ目は「仕上げ」です。
仕上げとは、コゲ処理や美観を整えるために必要となります。美観の良し悪しは、製品品質をわかりやすく表すため、仕上げは気が抜けない工程といえます。
切り出した箇所や溶接の接合部は粗い仕上がりになりますので、研磨することで美観を向上させ、製品を手にした際にけがをしないよう、滑らかに仕上げましょう。
板金加工できない形状
板金加工の曲げでは、上下に設置された二種類の金型、上の型(ヤゲン)と下の型(ダイ)に金属の板を挟んで加工します。
ダイには溝加工がされており、加工する板の板厚によって溝幅が違ってきます。ダイは一般的に○Vという形で呼ばれ、表記の数字が溝の幅になります。たとえば「12V」の場合、「溝の幅が12mm」ということになります。適切な溝幅よりも狭いもので加工すると金属板に反りが発生したり、ダイによる金属板への曲げキズが深くなったりするので要注意です。
板金の完成形状によって、金型に干渉して加工できない形状が存在します。曲げ加工として加工可能な限界値は設計内容や加工メーカーにより異なります。ヤゲンの断面形状シートやリターンベンドの限界グラフなどを使用することで「曲げ加工が可能か?」「特殊な金型を用いない普通の型で曲げられるのか?」を確認することができます。
ヤゲンの断面形状シートは、実物の金型と同じ形状をしており、紙やプラスチックで作成した原寸大の形状見本や模型があれば、実際に押し当てることで干渉の有無を確認可能です。
リターンベンドの限界グラフは、ヤゲン(金型)の寸法や形状を図示したもので、板金加工の完成寸法と比較することで加工可否の確認を行います。
曲げの限界高さ寸法とは
曲げの限界高さ寸法のことを最小フランジといいます。「フランジ」とは、一般的に円筒形あるいは部材からはみ出すように出っ張った部分の総称のことです。「最小」とは、反りやキズつきが発生せず、無理なく曲げられる範囲という意味です。
金属板材の曲げが可能となるダイの最大の溝幅の関係は以下の式で表します。
4×t(金属板の板厚)=限界ダイ溝幅(90°曲げの加工時)
曲げ加工では、上のヤゲンと下のダイに板材を挟んでの加工になるため、板が溝にかかっている必要があります。そのため、最小曲げ加工高さは限界ダイ溝幅に加えて、溝幅の半分の値と補正値を考慮しなければいけません。
曲げ加工による立ち上がりの限界値は以下の式で求められます。
2t(限界ダイ溝幅4t × 1/2(溝幅の半分)+ 補正値
曲げの形状が金型と干渉してしまう場合は加工不可
曲げの形状が金型と干渉してしまう場合、加工ができません。
深曲げ(深いコ曲げ)で使用される金型はグースネック金型といいます。曲げた後の形状がグースネック金型に干渉してしまう場合は曲げ加工ができません。
深曲げは筐体のサイズによって可能な深さは変動いたします。そのため、リターンベンドグラフによって深曲げの可否を判断する必要があります。
深曲げ形状は金型の制限が厳しいため、設計の時点で加工できる形状かどうかを意識しましょう。
ただし、追加コストを支払うことで特殊な金型を製作すれば、深曲げ加工などの特殊な曲げ加工に対応できる場合があります。
まとめ
板金加工できない形状について解説してきました。以下、まとめになります。
・板金加工とは薄い金属の板材に力を加えて変形させる、製品の大きさや用途に縛られない加工方法
・板金の適切な設計や加工をするためには、板金の加工特性を知っておくことに加え、メーカー毎に加工可能な限界値や製造条件を知っておくことが大切
・曲げの形状が金型と干渉すると加工不可になるので設計はしっかりと考えて行う
板金加工は、プレス加工に比べると金型がいらないのでイニシャル費用が安くなり、少量多品種に対応しやすい特長があります。
逆に、その商品専用の金型を作り出してから加工を行うわけではないため、板金加工はコの字型や金属同士が重なり合うといった形はできない形状です。そうならないために、設計段階で何度もシミュレーションし、適切な展開図を書き出しましょう。