板金加工は、私達が生活していく中で当たり前に存在し、多岐にわたって使用されている技術です。その中でも金属を複数の金属を熱で固着する溶接は、機械部品や自動車、構造物など非常に広い分野で応用されています。

しかし、溶接は身近にある技術であるにも関わらず、普段から溶接について知っている人は多くはありません。板金加工の溶接とはどんなものなのでしょうか。今回は板金加工の最終工程である溶接について解説します。

 

板金加工の溶接とは

板金加工の溶接とは、金属の特性を利用する接合法(冶金的接合法)です。接合部分を加熱したり、接合部分に高い圧力をかけて金属を溶かしたりして、溶けた金属同士が冷えて一体化することで接合されます。

溶接による接合は、ボルトなどによる接合に比べ、様々な形状に対応できる多岐にわたる工法が存在しており、締結部品も不要ですが、局部的な加熱冷却によりひずみが生じます。

溶接のメリット

溶接のメリットには次のようなものが挙げられます。

気密性が高い

1つ目は「気密性が高い」ことです。

部材同士が溶けて一体化することで接合するため、高い気密性があります。そのため、造船や航空宇宙分野でも多く使用されています。

部品点数が減らせる

2つ目は「部品点数が減らせる」ことです。

接着剤やネジと異なり、複雑な形状でも溶接可能なので、部品の数を減らしたり、切削やプレスよりも低いコストを実現できます。

工法によっては作業や装置が簡単

3つ目は「工法によっては作業や装置が簡単」なことです。

溶接方法によっては、大掛かりな機械装置を必要としない方法も多くあるため、作業や装置が簡単になります。そのため、屋外作業や少量多品種生産などが求められる場所でも十分に対応可能です。

溶接のデメリット

溶接のデメリットには次のようなものが挙げられます。

一部分しか加熱しないので、ひずみや残留応力が発生につながる

1つ目は「一部分しか加熱しないので、ひずみや残留応力が発生につながる」ことです。

溶接で加熱されるのは部材の一部だけなので、不均一な膨張や収縮が発生してしまいます。そのため、ひずみや残留応力の発生に繋がります。

残留応力について、下記のリンクにて詳しく解説していますので併せてお読みください。

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一度接合してしまうと外す方法が「破壊」しかない

2つ目は「一度接合すると外す方法が「破壊」しかない」ことです。

溶接は溶かした金属同士が融合し、一体化することで接合します。なので、ネジのように接合部を簡単に分解できず、一度接合してしまうと外す方法が「破壊」しかありません。そのため、メンテナンスなどで外さなければいけない部品には適用不可能です。

作業者の技量によって溶接品質にばらつきが発生するので溶接部位管理が重要になる

3つ目は「作業者の技量によって溶接品質にばらつきが発生するので溶接部位管理が重要になる」ことです。

手作業による溶接は、作業者の技量によって品質にばらつきが発生します。溶接部位の管理が重要であり、非破壊試験などにより正しく溶接できているかチェックする必要があります。

板金加工の溶接の種類

板金加工の溶接には大きく分けて3つの種類があります。

  • 融接
  • 圧接
  • ろう接

加熱の方法をどうするか、溶けた金属を空気からどのようにシールドするかといった方式の違いで分類されます。

板金製品は薄板主体で、材質も鋼板が多いため、TIG溶接や炭酸ガスアーク溶接、スポット溶接を多用するなど、様々な製品の特性や用途によって工法を選定します。

融接による溶接(融接法)

1つ目は「融接による溶接(融接法)」です。

融接法は、板金加工の溶接の中でも、最も一般的な溶接方法です。金属(母体)と金属を接合するために使用する専用の溶接棒やワイヤーなど(溶加材)を一緒に加熱溶融し、その状態のまま複数のパーツを溶着させ、冷却・凝固させて接合します。母材と溶加材のどちらかだけを溶かして溶接する方法もあります。

融接に分類される溶接には次のようなものがあります。

また、融接法の中でもその手法の違いによって5種類に分かれます。

  • ガス溶接
  • アーク溶接
  • レーザー溶接
  • 電子ビーム溶接
  • エレクトロスラグ溶接

5種類の内、3つを紹介します。

ガス溶接

ガス溶接はアセチレンガスなどを燃焼させ、その熱を利用して溶接する方法です。激しい火花は散らず、装置が簡単なので、作業場所を問わずに柔軟な溶接が可能です。しかし、加熱範囲が広いため、熱による影響が大きくなります。

アーク溶接

アーク溶接は、金属材料(母材)と溶接棒(あるいは電極)の間に高い電圧をかけ、その間に火花のようなアークを発生させ、熱源として使用する溶接法です。厚板の溶接や脚長が必要な場合に使用します。

アークとは、気体の放電現象のことで、非常に高温かつ強い光を発生させる特徴があります。鉄の融解温度(1500℃~2800℃)をはるかに超える5,000℃から20,000℃程近くまで温度が上昇し、一気に母材や溶加材を溶かし溶接していきます。その際、母材側を電位的にマイナスとし、溶接機側(電極)をプラスとなるようにします。なので、通電性のない母材には施工することができません。

アーク溶接は安価で比較的高品質な加工が可能ですが、同一の条件で加工することが少ないため、加工者の技量によって出来栄えに差が生まれます。

また、大気中の酸素・水素・窒素が溶接個所に触れると金属が酸化してしまい溶接不良を引き起こすため、シールドガスという大気遮断ガスで周りを覆うことによって、溶接不良を防ぎます。アーク溶接は以下のように分かれます。

  • 溶極式:電極を消費しながら溶接を進めていく
  • 非溶極式:電極は消費されず熱源としてのみアークを使用する

それぞれに特徴があり、使用目的や使用環境によって、以下のように分かれていきます。

  • 非消耗電極式:TIG溶接、プラズマ溶接
  • 消耗電極式:被膜アーク溶接、MAG溶接、MIG溶接、セルフシールドアーク溶接、サブマージアーク溶接

レーザー溶接

レーザー溶接は、レーザ光を照射し、金属を融解・凝固させることで接合する方法です。熱源はレーザー光線であり、一瞬で素材を融解することができるため、短時間で接合できます。通電性のない母材であっても溶接ができ、他の溶接方法と比べ母材への入熱が少ないため、熱によるひずみの発生や焼けの少ない溶接ができます。

レーザー溶接は、シールドガス(主に二酸化炭素(Co2)、窒素など)を使用し空気を止めながら溶接を行います。他の溶接法と比較して非常に短時間に局所的な高温を得ることができるため、極めて薄い母材などにも施工可能であり、使用するレーザー光線の集約(焦点)を調整することで、簡易で均一性のある溶け込みを確保できます。パワー密度も高いため、異なる素材も同時に融解することができ、他の溶接以上に異種材料同士の溶接が可能です。

また、真空下で溶接を行うことも可能です。その場合、パワー密度が非常に高く、一つ間違えると大怪我に繋がるレーザー光線の反射が、周辺の環境に影響を及ぼさないよう大掛かりな溶接専用の真空設備内で加工します。

ろう接による溶接(ろう接法)

2つ目は「ろう接による溶接(ろう接法)」です。

融接法と同じく、ろう接法は古くから用いられてきた板金加工の溶接の一つです。融接法は母材を溶かして溶接していましたが、ろう接法は母材自体を溶かさずに、母材よりも低い温度で溶ける専用の溶加材、「はんだ」または「ろう」を溶かして、製品同士を固着させます。母材よりも融点が低いため、母材の熱による変形や変異を少なく抑えることが可能です。

また、ろう接法の中でもその手法の違いによって2種類に分かれます。

  • ろう付
  • はんだ付け

ろう付

ろう付は融点が450℃以上の液体化金属が溶接する母材の上を伝っていく「ぬれ」という現象を利用するろう接法の一般的な施工方法の一つです。

一般的にアセチレンガスやプロパンガスの炎を利用熱源として使用し、接合部品間をガスバーナーやトーチなどで加熱後、部分間に溶かしたロウ材を流し込み、冷却・接合します。

母材と加溶材の密着度を向上させるためにフラックスを併用し、母材の材質によって主に以下のような加溶材を使用します。

  • 銀ろう
  • 銅ろう
  • 真鍮ろうなど

はんだ付け

はんだ付けはろう付けで使う接合剤よりも融点の低い「はんだ」を利用したろう接法の一つです。母材の間に流入させる液体化金属の融点が450℃以下なので、はんだ付よりもロウ付のほうが、高温時の作業に適しています。

圧接による溶接(圧接法)

3つ目は「圧接による溶接(圧接法)」です。

圧接法とは、接合部を短時間に加熱し、同じ金属または別種の金属の両方に機械的圧力を加える溶接方法です。原理や仕組みは他の溶接法の応用ですが、融接法とろう接法と異なり、基本的に製品と製品を直接溶接するので仲介材を使用しないため、強固な溶接が可能です。また、圧接法の中でもその手法の違いによって6種類に分かれます。

  • ガス圧接
  • 摩擦圧接
  • 抵抗溶接
  • 拡散接合
  • 超音波圧接
  • 爆発圧接

6種類の内、3つを紹介します。

ガス圧接法

ガス圧接法とは、母材同士に圧を加えて密着させた後に、熱源をガスバーナーによって加熱して接合する方法です。大掛かりな設備を必要とせず、建築の現場などでも利用されます。

摩擦圧接法

摩擦圧接法は塑性を利用し、溶接する2つの部品をともに高速で回転させるなどして擦り合わせ、その際に生じる熱を利用し、直接融解して接合する溶接法です。身近な製品では、鉄道車両の車輪の一部などにこの溶接工法が採用されています。

塑性とは、物質に一定の圧力を加えて変形させた場合、圧力を加えるのを止めても変形したままになる性質のことです。

溶接後の強度は非常に強固であり、異材同士であっても直接的に融解・融合を行うため、溶接前の素材の持つ強度を低下させることなく、二つの製品を接合することができます。

しかし、施工には大掛かりな専用設備が必要であり、簡単には実施できません。

抵抗溶接法

抵抗溶接とは、重ね合わせた金属(母材)を溶接する箇所を電極で挟み、適度な圧力をかけ、溶接部位の接触抵抗に発生するジュール熱により互いを直接融解させて接合する方法です。

他の溶接方法に比べ補助材料を使わないのでコスト低減であり、リサイクルしやすくなっています。また、技術者の熟練度をそこまで必要としないため自動化しやすく、大量生産加工に向いているといえるでしょう。自動車のボディなどに用いられます。

抵抗溶接は加圧する方法の違いで以下のように分かれます。

  • 重ね抵抗溶接:重ね合わせた金属(母材)の両側から加圧する抵抗溶接
  • 突合せ抵抗溶接:重ね合わせた金属(母材)の端面を突き合わせ、接触させた状態で加圧する抵抗溶接

それぞれに特徴があり、使用目的や使用環境によって以下のように分かれていきます。

  • 重ね抵抗溶接:スポット溶接、プロジェクション溶接、シーム溶接
  • 突合せ抵抗溶接:アプセット溶接、高周波誘導圧接、フラッシュ溶接、バットシーム溶接

まとめ

板金加工の溶接について解説してきました。以下まとめになります。

  • 板金加工の溶接とは、加熱や圧力などを接合部分にかけて金属を溶かし、冷却固着させる接合法
  • 気密性が高く、部品点数が減らすことができ、様々な形状に対応可能だが、局部的な加熱冷却によりひずみが生じ、技術者によって品質のばらつきがある
  • 加熱方法や溶けた金属を空気からどう守るかなどの違いで分類される多種多様な板金加工の溶接を製品の特性や目的によって選定することが重要になる

板金加工の溶接は、種類や工法が多種多様に存在し、他の加工法よりも比較的簡単で気密性も高いため自動車など私達の身近なところによく利用されていますが、デメリットも存在します。各溶接法の特徴をしっかりと把握しておけば、作成する部品や製品の目的に合った溶接方法を適切に選択することができるでしょう。