板金加工の公差とは?見直すことでコストダウン!
製品の仕様図や設計図などの図面を扱っていると、図面上の寸法の横に±の数字が書かれているのがよく見られるのではないでしょうか。この数字は製品の仕上がり・精度を左右する重要な数字であり、公差と呼ばれています。切削や板金、旋盤などの機械加工の方法によって、加工可能な公差は異なってきます。今回は板金加工の公差について解説します。
板金加工の公差とは
板金加工の公差とは、できあがった製品・部品についての「許容される誤差を含んだ寸法幅」のことです。
たとえば、作りたい製品の基準寸法が10mmで、その図面に「10mm±0.2mm」と書かれていたとします。この場合、加工段階では10mmを目指して作成されますが、結果として出来上がったものが「10.2mm」「9.8mm」でも、許容範囲内にあると判断されます。
板金加工や機械加工を含む製造現場では、まったく同じ条件で加工しても、材のゆがみやひずみ、また加工時のずれ、塑性変形などが原因で、どうしてもバラつきなどの誤差が生じてしまいます。誤差をなくすように限界まで精度を上げるとなると、コストや手間がかかってしまうので、公差は製品として支障のない範囲の誤差を許容するために存在するのです。
許容差とは
板金加工の公差をより具体化し、ある基準軸から上下方向に対しての誤差の数字を指定するものを「許容差」といいます。
たとえば、「基準寸法10mm、公差±0.6、許容差+0.3/-0.2」と設定されていたとします。
この場合、寸法の許容される誤差幅は全体として0.6mmですが、許容差「+0.3/-0.2」が指定されています。そのため、公差0.6mmのうち、基準軸から上方向には0.3mm以内、下方向には0.2mm以内しか、誤差は許されません。
板金加工の公差表記方法
主な板金加工の公差表記方法は以下のどちらかになります。
- 片側公差:片側をそれぞれ0とマイナスに設定して、プラスしないように制作してほしいという指示表記。「8.0mm +0,-0.05mm」の場合「7.95mmから8.0mm」の間で制作してほしいという指示になる
- 両側公差:プラスマイナス何mmの間で制作してほしいという指示表記。「8.0mm ±0.1mm」の場合「7.9mmから8.1mm」の間で制作してほしいという指示になる
片側公差はデータで受け取った際、機械内向差分があるため、真ん中を狙い値にするのでCAD修正が発生します。両側公差は確認するだけで済むことが多く、片側公差よりも安価になります。
板金加工の公差の種類
板金加工の公差の種類は以下の通りです。
一般公差(普通公差)
一般公差(普通公差)とは、個々の寸法を一括して指定する許容差のことです。JISによって加工方法や材料の大きさによりだいたいこれくらいが標準といわれる誤差の範囲内と定められています。一般公差は、以下のような要素で数値が変化します。
- 加工の種類:切削加工よりも曲げ加工の方が誤差が大きくなるなど
- 加工予定部品の大きさ:3mの材料を切る場合1mmの誤差はあまり気にならないなど
なので、一般的に材料が大きくなればなるほど、誤差の値も大きくなっていきます。
また、一般公差には級があり、級と適用される製品、製品の関係は以下の通りです。
- 精級(f): 精密機械の金属部品など
- 中級(m):一般的な金属部品など
- 粗級(c):一般的な樹脂成形部品など
図面では全ての寸法に公差をいれる必要があります。しかし、特に狙っている精度がない場合などは、一般公差を使用し「指示なき部位は一般公差に従う」などとまとめて指示することが可能となります。
寸法公差
寸法公差とは、図面の中で指示される長さ、距離、位置、角度、大きさの寸法に適用される公差です。
たとえば、プラス方向の誤差は大きめでも良いが、マイナス方向の誤差は厳しくしたい場合など、一般公差とは異なる許容差を指示したい場合に使用します。
加工方法などにより実現可能な範囲がありますが明確な基準はなく、設計者の任意の数値を指定することができます。
幾何公差
幾何公差とは、以下のような寸法だけでは定義できない公差を定めるものであり、図面上に寸法などと併せて記載します。
形状
- 真直度:正しい直線に対する誤差範囲
- 平面度:正しい平面から最も低い位置と最も高い位置の誤差範囲
- 真円度:正しい円に対するズレの誤差範囲
- 円筒度:正しい円筒に対し、円筒両端の円サイズの誤差範囲
輪郭
- 線の輪郭度:理論的に正しい輪郭からの実際の形状の誤差範囲
- 面の輪郭度:理論的に正しい輪郭からの実際の面の誤差範囲
姿勢
- 平行度:基準の直線または平面に対し平行であるべき線や面の誤差範囲
- 直角度:基準に対して直角であるべき面や直線の誤差範囲
- 傾斜度:基準に対して指定された角度の誤差範囲
位置
- 位置度:基準に対する位置の誤差範囲
同軸度
- 同芯度:2つの円筒軸の誤差範囲
- 対称度:基準に対して対称であることの誤差範囲
振れ
- 円周振れ:正しい軸で回転させたときに表面が変位する範囲
- 全振れ:正しい軸で回転させたときに円筒全体が変位する範囲
はめあい公差
はめあい公差とは、金属板をネジやボルトで固定するなど、棒を穴にはめ込むときに適用される特別な公差のことです。
はめあい公差は、穴や軸の径、公差域記号と等級によって決まります。常用される範囲では、H(h)が基準の寸法であり、穴を基準にみる場合は大文字を、軸を基準にみる場小文字を使うため、公差域はC(c)からX(x)で表記されます。
アルファベットの順番が若いほど、ゆるいはめあいになります。アルファベットの後ろに記される等級の数字は、常用範囲では5~9です。板金加工公差のJIS規格一覧表にある公差領域と等級、穴や軸の径から、該当する公差を調べることができます。
効率の良い設計を行いたいのならば、頻繁に使われる限定的な公差領域や等級を覚えておき、はめあい公差の種類によって使い分けるようにしましょう。はめあい公差は主に以下の通りに分類されます。
すきまばめ
- 軸と穴の間にすき間がある関係
- かんたんに外せたり、軸が穴の中をスライドしたりする場合に用いられる
しまりばめ
- 穴の径よりも軸の径の方がほんの少し大きい関係
- 一度はめたものは、基本的に分解できない
- 軸受ブッシュや継手のような、駆動部まわりの動かない場所などに用いられる
中間ばめ
- すきまばめとしまりばめの中間であり、ガタつきのない精密な関係
- 歯車と歯車を支える軸などに用いられる
板金加工における公差の許容限界
加工方法によって公差の許容限界は以下のように異なります。
曲げ加工
- 基準穴中心から曲げの根本までの寸法公差は±0.15程度が許容限界
- 曲げの角度は、およそ±0.5°程度の公差が必要
- 曲げの深さによって曲げの先端までの寸法公差が変化するので要注意
レーザー加工で穴あけ
- 穴径は0~+0.05程度が許容限界
- 穴と穴の中心間距離は±0.05程度まで精度を持つことが可能
切削加工
- 条件によるが軸の直径の許容限界は±0.01程度
- 部品の長手方向寸法は±0.03程度が許容限度
- 一般的な精度はφ10程度の材料であれば直径方向で±0.03程度
- 加工のスピードや削る材料の硬さにより精度が変わる
公差の数値はJIS規格によって定められる
板金加工の公差の数字は許される誤差として適切な範囲で数値を設定する必要があるため、自由に指定できるものではありません。日本の場合、工業規格であるJIS(Japanese Industrial Standards)規格に準拠して公差の適正値が定められます。
JIS規格は、板金加工のみならず自動車や電化製品、ITのプログラムに至るまで幅広く用いられています。等級がA・B・Cと有り、公差表記のない図面では通常普通公差と呼ばれる B級(JIS B 0408の普通寸法公差)が適用されます。
JIS規格における板金加工の公差には様々な定義方法があり、よく使われるJIS規格における板金加工の公差は以下の通りです。
JIS B 0408
JIS B 0408は、ターレットパンチプレスやプレスブレーキなどのプレス加工機を使って鉄板を打ち抜き加工、絞り・曲げ工程をする際に発生する許容差を、プレス加工品の普通寸法公差として設定されています。
JIS B 0410
JIS B 0410は、シャーリングマシンで金属板をせん断加工する際に発生する許容差を、金属板せん断加工品の普通公差として設定されています。
JIS B 0405
JIS B 0405は、板金加工全行程で発生する個々に公差指示がない長さ寸法および角度寸法に対する許容差を、板金加工全行程の普通公差として設定されています。
最も一般的であり、その図面上に書かれている事柄全てにおいて適用される公差といえます。
JIS B 0419
JIS B 0419は、板金加工全行程で発生する個々に公差指示がない真円度や直角度対象度などの形態に対する許容差を、板金加工全行程の幾何公差として設定されています。
「JIS B 0405」と同じく、その図面上に書かれている事柄全てにおいて適用される公差といえます。
板金加工の寸法公差を見直すだけで大幅にコストダウンができる
板金加工の公差には、通常「JIS B 0408」の普通寸法公差が適用されます。しかし、コストダウンのために機械加工から板金加工へ変更する場合、要求寸法が機械加工のままだったり、JIS B級ではなくA級などの公差指示になっている場合があります。
板金加工は切断、曲げ、溶接を基本とします。曲げ加工の寸法、角度のバラつきや切断や溶接によるソリや歪みは加工特性上避ける事はできません。そのため、JIS B級に訂正されていない公差を維持するには、調整や修正、作り直しなど多大な工数がかかり、コストが高くなる可能性が高くなります。
板金加工は機械加工のように百分台の公差達成は非常に難しく、できる限り可能な精度範囲で寸法指示をすることで、一般的な板金部品の加工コストに抑えることができ、加工時間短縮などにもつながります。
たとえば、複数回の曲げ加工がある板金加工に「±0.05」「±0.1」のような穴ピッチの寸法公差の指示をしたとします。
この場合、曲げ加工などの寸法バラつきが出る箇所の公差は「±0.15」「±0.2」程度に指示します。すると、製品サイズや曲げ回数により条件は変わりますが、問題なければ調整や修正などの加工時間短縮が可能となり、加工コストを抑えることができるのです。
まとめ
板金加工の公差について解説してきました。以下まとめになります。
- 公差は、加工時に発生する誤差に対する許容範囲
- 公差は目的や加工、形状などに合わせて複数の種類があり、数値はJIS規格によってそれぞれ定義されている
- 公差を見直せば製造コストや検査コストを抑え、加工時間短縮などにもつながる
公差は誤差をなくすように限界まで精度を上げるとなると、製造コストや検査コスト、手間がかかってしまいます。そのため、公差の設定は非常に重要な要素であり、本当にその場所に高い精度が必要なのか良く考え、正しく見極めてから行いましょう。