2022年はコロナ融資倒産が増える?製造業の廃業・倒産件数の原因とは!
新型コロナウイルス感染症により、2019年から2022年にかけて日本の中小企業の倒産件数や休廃業・解散件数、負債総額は大きく影響を受け、政府は事業復活支援金やコロナ融資(無利子・無担保融資や資本性劣後ローン)などの支援金対策を行いました。
製造業も影響を受けましたが、件数は前年よりもそれほど多く減少していません。これは、製造業において倒産原因が複数あるからでしょう。製造業の倒産件数の原因とは一体何なのでしょうか。今回は2020年から2022年における製造業の倒産件数の原因について解説します。
2020年から2021年にかけての製造業倒産件数の原因
2016年から2021年にかけての製造業の「倒産件数」「負債総額」「休廃業・解散件数」の推移は以下のとおりです。
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倒産件数 |
負債総額(百万円) |
休廃業・解散件数 |
2016年 |
1,115 |
720,680 |
3,192 |
2017年 |
1,037 |
1,758,456 |
3,173 |
2018年 |
984 |
344,131 |
3,008 |
2019年 |
1,059 |
217,028 |
3,112 |
2020年 |
824 |
228,095 |
3081 |
2021年 |
646 |
160,899 |
2,882 |
参照:東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/year/index.html)
2020年に新型コロナウイルスの影響をすべての業界が受けたにも関わらず、2020年と2021年における製造業の負債総額や倒産件数、休廃業・解散件数は、前年よりもそれほど多く減少していません。これは、製造業において倒産の要因になるものが複数あるからだと考えられます。2020年から2021年にかけての製造業倒産件数の原因として考えられるものは以下のとおりです。
新型コロナウイルスによる影響
1つ目は「新型コロナウイルスによる影響」です。
新型コロナウイルスによる経済的な影響は、製造業だけでなく他の業種にも大ダメージを与えました。特に飲食業界の中小企業は失業者の数が多く、その次に失業者数の割合が多かったのが製造業でした。2020年の新型コロナウイルスによる製造業への影響は以下のとおりです。
- 商談数の減少や展示会の延期・中止、新商品発売の延期や製品開発の見直しなど、全体的な営業・販促活動の縮小傾向
- 自動車などの部品や原材料の調達を海外依存していた企業は、生産ラインなどに多大な影響が生じたため、海外からの供給が滞り、サプライチェーンそのものが分断される事態へ
- 需要と生産のタイムラグが生じることで過剰共有が発生し、生産供給が追い付かなくなった
これらの問題を解決するためには、全体最適化の視点を取り入れた生産性向上が重要です。
特定の取引先に依存するやり方
2つ目は「特定の取引先に依存するやり方による業績悪化」です。
製造業の基本戦略はグローバル・サプライチェーンです。
グローバル・サプライチェーンとは、国内と海外で生産・販売の関係者が情報を共有することで、製品の原料調達から消費活動までに至るサプライチェーン全体を、国内だけではなく海外拠点も含めて常に最新の状態へと最適化する仕組みのことです。
国内外に需要に対して利用可能なリソースを分散させることで、制約があったとしても複数の選択肢から最適な条件を選択することが可能です。
日本の製造業は海外からの安い部品供給を優先しています。しかし、特定の取引先に依存するようなやり方では、原油価格高騰や新型コロナウイルスによる都市部ロックダウンなど、世界情勢が強く影響し、サプライチェーンそのものが分断されたような事態へと繋がってしまいます。
今後、製造業が生き残るためには、取引先を複数に多様化させリスク分散を行うなど、グローバル・サプライチェーンのあり方自体を見直す必要があるといえるでしょう。
後継者不足による廃業
3つめは「後継者不足による廃業」です。
製造業における倒産件数の大部分は中小企業であり、その理由は業績悪化だけでなく、高齢の経営者が後継者を見つけられず廃業になる「後継者不足」も大きな割合を占めています。これは製造業だけでなく、他の業種でもいえることです。
2019年の製造業後継者不在率は48.3%と50%を下回っていましたが、2020年では50.7%(後継者あり:19,042、無し:19,648)でした。
コロナ禍でビジネスモデルや労務管理変革を求められている流れの中、このまま経営者が高齢化していき、後継者不在を解消できなければ、日本を支える高度な技術力を保有する中小企業は後継者不足による廃業への道を辿っていく可能性が高くなります。
そうならないために、早めの事業承継計画と事業継続判断、ビジネスモデルと労務管理の変革とその将来性、承継後の支援のあり方などを見極める必要があるといえるでしょう。
参照:東京商工リサーチ「2020年「後継者不在率」調査」(https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201113_01.html)
事業復活支援金
新型コロナウイルスによる倒産企業数を抑えるために、政府は様々な対策を打ち立てています。そのうちのひとつが「事業復活支援金」です。
事業復活支援金とは、新型コロナウイルス感染症による大きな影響を受け、自らの事業判断によらず売上が大きく減少している中小法人など・個人事業者などに対して、事業の継続および立て直しのための取組を支援する給付金のことです。
事業復活支援金給付対象者
給付対象は以下の条件を満たした中小法人・個人事業者です。
- 新型コロナウイルス感染症の影響を受けて売上が減少している事業者
- 2021年11月~2022年3月のいずれかの月のうち、基準期間の同月と比較して売上が50%以上または30%以上50%未満減少した事業者
基準月とは「2018年11月~2019年3月」「2019年11月~2020年3月」「2020年11月~2021年3月」のいずれかの期間のうち、対象月を判断するため、売上高の比較に用いた月(基準月)のことを指し、基準月を含む期間のことを基準月期間といいます。
対象月とは、2021年11月~2022年3月のいずれかの月のうち、基準期間の同月と比較して売上が50%以上または30%以上50%未満減少した月で、申請に用いる月のことを指します。
事業復活支援金給付額
給付額は、(基準月期間の売上高−対象期間の売上高)×5ヶ月分によって算出されます。
売上高減少率
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個人
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法人 | ||
年間売上高 1億円以下 |
年間売上高 1億円以上~5億円以下 |
年間売上高 5億円以上 |
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売上50% 以上減少 |
一律50万円 | 100万円 | 150万円 | 250万円 |
売上30% 以上50% 未満の減少 |
一律30万円 | 60万円 | 90万円 | 150万円 |
この場合の年間売上高とは、基準月を含む事業年度の年間売上高を指します。
事業復活支援金申請期間
- 申請期間は2022年1月31日(月)~6月17日(金)(延長決定!)
- 申請前に必要な「登録確認機関による事前確認」の実施は、6月14日(火)まで
- 申請に必要な申請IDの発行は、5月31日(火)で終了済(ネットオークションなどによる売買で申請IDを入手し申請した場合は給付対象外となる)
事業復活支援金差額給付の申請期間
事業復活支援金の給付の申請、および給付受給は申請者が異なる屋号・雅号を用いて複数の事業を行っている場合を含む同一の申請者に対してそれぞれ一度に限ります。しかし、以下に当てはまる方は、差額給付の申請対象者となります。差額給付の申請期間は2022年6月1日(水)~6月30日(木)です。
- 2022年3月までに、売上高減少率30%以上50%未満で申請し、給付を受けた
- ①の対象月より後の月で、①の申請をした月から2022年3月までのいずれかの月の月間事業収入等が、基準月の月間事業収入等と比較して50%以上減少している
- ②の月間事業収入等の減少が、①の申請時点では予見されなかった新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことにより、自らの事業判断によらないで生じたものであることなど
事業復活支援金申請の流れ
申請の流れは以下のとおりです。
- 申請者と登録確認期間が事業復活支援金事務局にアカウントの申請登録
- 売上高の証明書類など、必要書類を準備し事前予約
- TV会議・対面・電話などで新型コロナウイルス感染症の影響を受けているかなどの事前確認(一時支援金または月次支援金の既受給者は①~③のプロセスを省略可能)
- 書類添付し本申請
- 審査
- 事業復活支援金支給
事業復活支援金申請に必要な書類
必要書類は以下のとおりです。
- 法人は謄本(履歴事項全部証明書)、個人は本人確認書類(免許証、住民票、マイナンバーカード、健康保険証)
- 確定申告書の控え(収受日付印のついた2019年度、2020年度および選択する基準期間を全て含む)
- 対象月の売上台帳
- 振込先の通帳
- 代表者の宣誓と同意書
- 基準月の売上台帳
- 基準月の売上に係る1取引分の請求書または領収証など
- 基準月の売上に係る通帳等(取引が確認可能ページ)
「コロナ融資後倒産」により企業倒産が増加へ転じる可能性がある
帝国データバンクによると、2022年1月から3月にかけて休廃業・解散した個人事業主含む企業は13,251(前年同期比4.2%減)でした。
事業復活支援金やコロナ融資(無利子・無担保融資や資本性劣後ローン)など、政府による支援金対策は、中小企業の資金繰りを助ける命綱としての役目を果たし、倒産の急増を強く抑制できたからです。
しかし、資産が負債を上回る割合と利益が資産超過の健全企業が占める割合は前年同期を下回る水準が続いています。これはコロナ禍以降減少を続けてきた企業倒産が「コロナ融資後倒産」により増加へ転じる可能性を表しています。
慢性的な経営不振により収益力が戻らず、返済原資確保ができないと「ギブアップ」することを「コロナ融資後倒産」といいます。
2020年7月から2022年5月までに判明しているコロナ融資後倒産数は累計323件であり、約2年間で300件を突破しました。コロナ融資総額は推計で197億300万円にのぼり、負債総額のおよそ 1 割を占めています。
コロナ融資を運転資金などで使い切ったものの業績立て直しがままならず、返済期限が迫っている企業は増えつつあります。返済原資確保や金融機関による追加融資など、資金繰りにも行き詰まってしまい、事業承継を諦め、廃業に至るようです。
2022年の製造業の倒産原因は「コロナ融資後倒産」になる可能性が高い
業種別に見ると、コロナ融資後倒産した323件の内、最も多いのが製造業(67件)です。
【コロナ融資後倒産業種別累計】
- 製造業(67件)出版・印刷業(10件)
- 卸売業(65件)アパレル産業(10件)
- 建設業(61件)住宅建築など幅広い業種
- 小売業(60件)飲食店(22件)
- サービス業(42件)パチンコホールなどの娯楽業、旅館・ホテ ルなどの宿泊業(9件)
参照:帝国データバンク(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220604.pdf)
2022年の夏ごろから返済が本格化すると見込まれていますが、慢性的な経営不振により収益力が戻らず、返済原資確保ができないと「ギブアップ」する「コロナ融資後倒産」企業数は増加していくでしょう。
まとめ
2020年から2022年における製造業の倒産件数の原因や事業復活支援金などについて解説してきました。以下まとめになります。
- 事業復活支援金や無利子・無担保融資など、支援金政策は新型コロナウイルスに影響を受けた中小企業の倒産・廃業件数の抑止力となったが、「コロナ融資後倒産」という新たな問題も発生しつつある
- 製造業の倒産・廃業の原因は日本国内だけでなく世界情勢も関わってくる
- 2022年の製造業の倒産・廃業の原因は「コロナ融資後倒産」になる可能性が高い
融資金のおかげで倒産や休廃業件数が一時期減少したとしても、その後の返済で困窮し廃業や倒産になってしまう「コロナ融資後倒産」が増えるようでは、完全に回復に向かっているとは言い難いです。製造業の倒産件数の原因は様々ですが、改善には今までのやり方や考え方そのものを見つめ直す必要があるといえるでしょう。