製造業だけでなく、事業はコロナウイルス蔓延や戦争による経済的措置など、その時の世界情勢によって売上成績は左右されることが多いです。企業の状況がうまくいっているかの目安は、利益率を可視化することで可能となります。利益率は売上よりも重要視されることもある指標であり、会社経営する上で非常に重要なものです。利益率には様々な種類があり、それぞれ計算方法や目安も異なります。今回は製造業の利益率について解説します。

 

利益とは

利益とは、収益から費用を差し引いた残額のことであり、会社の利益を表す書類を「損益計算書」には、以下のような利益が記載されています。

売上総利益(粗利)

売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いた、商品やサービスそのものの成績を表す利益のことであり、企業の儲けの源泉です。売上原価とは、商品の仕入代金や商品を製造するためにかかる費用、サービスを提供する従業員の給与など、売上のために直接的にかかる費用を指します。

営業利益

営業利益とは、売上総利益から営業活動に関連するコスト(販売費および一般管理費)を差し引いた、経費を支払った後のビジネスとしての営業活動を通じた利益のことです。営業活動全体のサービスや主力の商品の成績を表します。

  • 販売費:商品を販売するためにかかる人件費や広告宣伝費、店舗の家賃など
  • 一般管理費:会社を管理するためにかかる人件費や消耗品費など

経常利益

経常利益とは営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いた、本業以外も含む継続的な企業経営全体での利益のことです。事業としての活動成績を表します。

  • 営業外収益:貸付金の受取利息、雑収入、株式の配当金など
  • 営業外費用:借入金の支払利息、売上割引、支払手数料、為替差損、貸倒損失、有価証券売却損など

税引前当期純利益

税引前当期純利益とは、経常利益に臨時的な特別利益を加え、特別損失を差し引いた、税金を支払う前の利益のことです。

  • 特別利益:不動産売却利益、臨時的補助金など
  • 特別損失:不動産を売却して出た損失、通常では予測不可能な災害による損失など

当期純利益

当期純利益とは、一会計期間に会社が活動した結果の全収益から、全ての費用、法人税、法人税などの調整額などを差し引いた最終的な経営利益のことです。

本業で十分利益が出ている会社でも特別な要因によって当期純利益がマイナスである可能性もあります。そのため、当期純利益金額がマイナスであっても儲かっていない会社とは断定できないため、計算過程や関係ある数値を使った指標などを見ることが大切です。

利益率とは

利益率とは売上高、または資本に対する利益の割合であり、収益力を測定する尺度として利益計画の設定や業績評価を行う際に使用されます。利益率は次のように区分されます。

  • 総資本利益率(ROA)
  • 自己資本利益率(ROE)
  • 売上高利益率(売上高総利益率・売上高営業利益率・売上高経常利益率・売上高当期純利益率)

 

総資産利益率(ROA)

総資産利益率とは、事業のために投下した利益に対して資産がどれだけ効率よく利益に貢献し、事業活動に繋がっているのか測る指標であり、資本に対する収益性を表します。

総資産利益率は自己資本だけではなく負債も含まれます。そのため、負債が多くても効率よく利益を出していれば利益率は高くなります。総資産利益率を確認することで、企業資産で利益をどのように出しているのか判断可能です。

総資産利益率の計算式

総資産利益率を計算する場合、どんな利益を使うかによって考え方が異なってきます。事業の効率性や収益性を考え、一般的に当期純利益がよく使用されます。
当期純利益を使った計算により、企業の純粋な利益に対する資産の貢献度がわかります。総資産利益率を求める計算式は以下の通りです。

総資産利益率=利益額÷総資産額(総資本額)×100

たとえば、2020年実績の製造業総資産当期純利益率を求める場合、以下のようになります。

総資産当期純利益率=982.1(当期純利益)÷28904.7 (総資本額)×100=3.4%

総資産利益率の目安

総資産利益率の目安・平均値は社会情勢や経済状況によって変化するため、他業種で同じレベルの企業と比べてどうか比較していくことが重要ですが、一般的に10%であれば非常に優良、5%で良い、1~2%で普通と判断されています。

総資産利益率を改善する方法

総資産利益率の改善方法は以下の通りです。

収益の額を増やす

収益の額を増やすには以下の事が必要となります。

  • 売上を伸ばして営業利益を上げる
  • 変動費の中から無駄な費用を削って営業利益を上げる
  • マーケティング能力を磨くなど販売力の向上といった会社の経営努力

総資産額を減らす

総資産額を減らすには、利益を生み出していない資産を徹底的に洗い出し、行動へ移す実行力が必要となります。総資産額を減らす具体的な方法は以下の通りです。

  • 活用していない不動産処分またはレンタルオフィスにする
  • 不要在庫の整理処分
  • 回収が難しい売掛金などの債権を整理して貸倒損失にする
  • 費用処理できる繰延資産は資産計上ではなく全額費用処理するなど

 

自己資本利益率(ROE)

自己資本利益率とは、限られた自己資本(純資産)に対してどれだけ効率よく当期純利益を上げることができたかを示す、投資家にとって最も重要視される財務指標のことです。

自己資本とは負債を除いた資本であり、純資産から新株予約権と少数株主持ち分を差し引くことで求めることができます。
株主資本利益率とも言われており、株主たちはこのデータを投資効率の指標としています。自己資本利益率の計算式は以下のとおりです。

自己資本利益率=当期純利益÷自己資本(純資産)×100

上記の式は、株主が投下した資本(=純資産)に対していくら利益を稼げているかということを示しています。
たとえば、2020年実績の製造業自己資本利益率を求める場合、以下のようになります。

982.1(当期純利益)÷14606.7(自己資本(純資産))×100=6.7%

業種別自己資本利益率

自己資本利益率の目安・平均値は社会情勢や経済状況によって変化するため、他業種で同じレベルの企業と比べてどうか比較していくことが重要ですが、一般的に8~10%であれば非常に優良と判断されています。

 

売上高利益率

売上高利益率とは、売上高のうち何%を利益として残すことができたのかを示す指標のことです。一般的に会社全体の収益力を測る指標としてよく利用され、数値が高ければ高いほど良いとされています。

売上高利益率の計算式

売上高利益率の計算式は以下の通りです。

売上高利益率=利益額÷売上高×100

総資産利益率と同様、「利益額」の部分にそれぞれの利益を代入する事で、利益が純資産の増加にどの程度結びついたかを様々な角度で分析可能です。
たとえば、2020年実績の製造業売上高当期純利益率を求める場合、以下のようになります。

売上高当期純利益率=982.1(当期純利益)÷20494.7(売上高)=4.8%

財務分析への利用方法

売上高経常利益率は、損益計算書のデータがあれば比較的容易に計算できるので、財務分析への利用がオススメです。
自社と業界平均を比較する際、売上高経常利益率が前期と同じでも他の利益率が大きく変動している可能性があるので、売上高経常利益率だけに頼り分析をしないように注意しましょう。

売上高利益率の目安

売上高営業利益率の目安は0~5%で一般的、5~10%で優良、10~15%が超優良なっています。
売上高経常利益は会社の業種・業態などによって目安が大きく異なります。また、経常利益は営業利益など、他の利益にも関連してきます。

  1. 経常利益と営業利益がマイナス:本業活動不調、本業以外の利益が赤字
  2. 経常利益がマイナスで営業利益がプラス:本業は好調で、借入金返済や資産運用がうまくいっていないなど、本業以外の活動で損失が出ている
  3. 経常利益がプラスで営業利益がマイナス:自社サービスや商品が売れていないなど、本業での赤字を本業以外の活動利益でまかなっている状態。黒字に見えるが、企業存続に影響するため早急な対処が必要
  4. 経常利益と営業利益がプラス:事業全体が順調で理想的状況

売上高利益率を改善する方法

営業利益の金額が十分にある場合は、営業利益率が低くても問題ないかもしれません。しかし、そうでない場合は以下の方法で営業利益率を改善しましょう。

売上高を増加させる

販売数量が十分に確保できている場合は、変動費を固定費にするなど、販売数量に比例する費用の金額を販売数量に関係なく一定に維持しつつ可能な限り売上高を増加させましょう。

売上高・売上原価・販売費および一般管理費を単独的または複合的にアプローチ

売上高・売上原価・販売費および一般管理費を以下のように単独的または複合的にアプローチしましょう。

  • 売上高:販売数量や価格見直し
  • 売上原価:質を落とさない程度の費用削減、高付加価値販売
  • 販売費および一般管理費:費用がほとんどかからないネット販売戦略など

 

2020年度製造業実績からわかること

2020年度製造業実績をまとめると以下のようになります。

2020年

製造業

一企業当たり

2019年比

一企業当たり比

 

(百万円単位)

(%)

総資本

28,904.7

27,794.4

↑8.3

↑4.0

純資産

14,606.7

11,546.9

↑7.4

↑26.5

売上高

20,494.7

23,216.2

↓5.7

↓11.7

売上総利益

3,924.9

4,526.1

↓4.4

↓13.3

売上原価

16,569.8

18,690.1

↓6.0

↓11.3

営業利益

700.1

734.1

↓11.0

↓4.6

経常利益

1,336.3

1,162.7

↑1.9

↑14.9

当期純利益

982.1

802.0

↑35.4

↑22.5

 

 

 

 

 

自己資本比率

50.5

41.5

↓0.4

↑9.0

総資本当期利益率

3.4

2.9

↑0.7

↑0.5

自己資本当期利益率

6.7

6.9

↑1.4

↓0.2

売上高総利益率

19.2

19.5

↑0.3

↓0.3

売上高営業利益率

3.4

3.2

↓0.2

↑0.2

売上高経常利益率

6.5

5.0

↑0.5

↑1.5

売上高当期純利益率

4.8

3.5

↑1.5

↑1.3

参照:経済産業省 2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/2021sokuho.html

2020年の製造業実績は、2019年に比べると売上高、売上総利益・原価、営業利益は下がっていますが、営業利益からその他費用を引いた経常利益は1.9%、会社に最終的に残る当期純利益は35.4%も上昇しています。

また、営業利益率は下がっているが、自己資本当期利益率と売上高総利益率、売上高経常利益率、売上高当期純利益率が上がっており、資産を去年より効率よく運用し、負債や金融機関への返済など営業活動費以外の費用が減少していることがわかります。
一企業当たりの数値と比べてみても数値は高く、総資本当期利益率の目安(1~2%で普通)と比べても普通と良いの間だといえるでしょう。

2020年の製造業は売上高の金額は前年と比べ下がってしまいましたが、利益率は上昇しており、2019年に比べ全体的に良い方向に向かっていたといえるのではないでしょうか。

 

まとめ

製造業と利益率について解説してきました。以下まとめになります。

  • 利益率とは企業の収益力を測定する尺度であり、利益計画の設定や業績評価を行う際に使用される
  • 総資産利益率は負債も含む企業資産に対する収益力、自己資本利益率は株主が投下した資本(=純資産)に対する収益力、売上高利益率は会社全体の収益力を測る指標
  • 利益率はお互い関連し合っているので、一つの利益率だけを見るのではなく、全体的に見てその数値になった過程を考え、改善点へとつなげていく

製造業だけでなく、自社の利益がデータ化され、可視化されることで自社はどれだけ稼いでいるのかがわかります。問題を放置せず改善を行うことが重要であり、その際自社のデータだけを見るのではなく、他社のデータとも照らし合わせましょう。

利益率を求める際に必要な売上高や売上原価などの数値は、事業の規模や内容によって異なります。そのため、自社と内容や企業規模が近い、似ている企業を選ぶのが良いでしょう。この機会にぜひ利益率を集計し、経営改善に繋げてみてはいかがでしょうか。