曲げ加工は、板金加工において製品形状を決定する重要な加工です。材料をプレスし、V形、L形、Z形など、製品に最適な形状に曲げます。
ヘミング曲げは、主に板金の端部に施される曲げ加工であり、安全面の強化や補強のために重要な役割を担う加工です。ヘミング工程中に材料の変形が発生すると、部品の寸法誤差やその他の欠陥に繋がります。そのため、ヘミング工程の精度は表面の外観や表面品質に影響を与えるため非常に重要になってきます。しかし、エッジを処理する方法として最適なものを選定できるように特徴をよく理解しておきましょう。今回は板金加工とヘミングについて解説します。

ヘミングとは

ヘミング(折り返し曲げ)とは、シートのエッジを曲げる、また他の部品上に折り重ねることで部品をしっかりとはめる成形工程です。ヘミングは端部の強化や安全対策のため、手などが触れた時になめらかなタッチとなるようにしたい場合に使用します。
絞りやトリム工程の完了後、ヘミング金型によってフランジが成形される成形工程の結果を意味します。フランジとは、一般的に円筒形や部材からはみ出すように出っ張った部分を示します。工業用語では2つの配管を接続する継ぎ手部分などを指す言葉として使われています。
接合手段として使うこともあり、接合すると部品の外観が良くなり、部品のエッジを補強できます。

ヘミング工程の種類

ヘミング工程には、さまざまな種類があります。

ダイ・ヘミング

1つ目は「ダイ・ヘミング」です。

ダイ・ヘミングは大量生産に適しており、ヘミング金型を使ってフランジをその長さ全体に折り曲げます。ダイ・ヘミングの生産工場は非常に高価ですが、サイクル時間は非常に短いです。

ロール・ヘミング

2つ目は「ロール・ヘミング」です。

ロール・ヘミングは産業用ロボットの誘導によって、ヘミング・ローラーを使って徐々にフランジを成形する方法です。
ロール・ヘミング工程は、プリヘミングや最終ヘミング等、複数の工程ステップへ分割できます。ダイ・ヘミングより非常に柔軟性が高く、金型コストも大幅に低くなります。しかし、ヘミング・ローラーを使い、定義されたパスに沿って実行しなければいけないのでサイクル時間は長くなります。

ヘミング曲げ

ヘミング曲げとは、ベンダーマシンで鋭角に曲げた後、人が触れる部分のエッジを無くすために、さらに圧力をかけ、板の端部を180度折り曲げて平らに押しつぶす加工のことです。
アザ折り(あざ折り)、潰し曲げ(つぶし曲げ)とも呼ばれます。

抗張力が高い被加工材(SUS材や表面処理鋼板など)および前工程の鋭角曲げの角度が甘い場合は被加工材がすべりやすくなり、機械・金型の前後方向にかかるスラスト荷重が発生します。
そのため、鋭角曲げはパンチ先端30°のパンチを使用し、できるだけ30°に近い状態まで曲げてからヘミング加工を行ってください。

ヘミング曲げは、曲げとしては厳しい内容です。そのため、材料の板厚減少は板厚の30%程度になります。

ヘミング曲げにより、精密板金部品の強度向上・見栄えの良さ・材料端面のバリによる配線の損傷防止及び怪我の防止などが実現可能になるでしょう。

ヘミング曲げに使う金型

ヘミング曲げで使われる金型には「金型交換タイプ」と「ダブルデッキタイプ」の2種類があります。

・金型交換タイプ:第1工程用と第2工程用の二種類の金型を用意し、途中で金型を交換
・ダブルデッキタイプ:第1工程で180°曲げ実行、金型交換不要なので加工時間短縮可能

ヘミング曲げ加工可能寸法

ヘミング曲げ加工可能寸法は以下の通りですが、加工条件や内容によって加工可能寸法が変わる場合があります。

材質

板厚

加工可能寸法(mm)(折り返し寸法)

SS(一般構造用圧延鋼材)

1.6~2.3

10

SPCC(冷間圧延鋼板)

0.8~2.3

10

SUS(ステンレス鋼板)

0.5~1.5

10

AL(アルミニウム合金)

1~1.5

10

 

ヘミング曲げの種類

ヘミング曲げの種類は大まかに分けると以下の通りです。

板と板の隙間を空けた曲げの「オープンヘミング」、隙間を空けずに押しつぶした曲げの「タイトヘミング」や他に「コーナーヘミング」「分割ヘミング」があります。

ヘミング曲げのメリット

ヘミング曲げのメリットは以下の通りです。

バリ取りやC面取りよりも安全性が高くなる

1つ目は「バリ取りやC面取りよりも安全性が高くなる」ことです。

ステンレスなど薄い板金の場合、切り口をそのままにしておくとカミソリのように鋭利になります。そのままにしておくとケガをする場合があり、非常に危険です。
ヘミング曲げは切り口を内側に折るため、曲げ部分が曲線になります。鋭利な切り口に直接触れずに済みますので、ケガの危険性がなく、バリ取りやC面取りよりも安全性が高くなります。

ヘミング曲げ部分の補強(強度が増す)

2つ目は「ヘミング曲げ部分の補強(強度が増す)」ことです。

板金の端部は、ほかのものに触れる機会が多いため、傷や変形がしやすいです。
しかし、ヘミング曲げをすることにより、折り曲げた部分の板厚が倍になって補強されますので、傷や変形を防ぐことができます。
ヘミング曲げは、主に板厚が薄い板金に施されます。

見栄えが良くなる

3つ目は「見栄えが良くなる」ことです。

ヘミング曲げをすると、切断面が内側を向くので板金の端が切りっぱなしの状態ではなくなり、曲げ部分がなめらかな曲線になるので見た目も美しくなります。また、曲げ部分が曲線になることで手触りもよくなります。
製品の機能として見栄えや手触りはそれほど重要ではないかもしれませんが、他の製品との差別化をはかれます。

ヘミング曲げのデメリット

ヘミング曲げのデメリットは以下の通りです。

工程が増えるため結果的に価格が上がる

1つ目は「工程が増えるため結果的に価格が上がる」ことです。

ヘミング曲げをする場合、材料を鋭角に曲げる、曲げた部分を押しつぶすという工程が増えます。工程の数は、一度でどこまで加工するかによって変わります。
ヘミング曲げでもっとも標準的な加工工程は次の通りです。

①L曲げ
②斜面を持ったパンチでL曲げした部分を135度に曲げ込む
③上下方向から平潰しして180度に曲げて密着

平潰し工程では、かなり強圧しないと、先端部分にすきまが残ります。
ヘミング曲げをする分の工程が増えると加工に時間がかかり、人件費もかかるため、製品そのものの価格が上がってしまいます。

材料が変形すると表面の外観・品質に影響を与え様々な欠陥に繋がる

2つ目は「材料が変形すると表面の外観・品質に影響を与え様々な欠陥に繋がる」ことです。

ヘミング工程中に材料の変形が発生すると、部品の寸法誤差やその他の欠陥に繋がります。そのため、ヘミング工程の精度は表面の外観や表面品質に影響を与えるため非常に重要になってきます。
よくある不具合として、フランジの割れやしわ、材料の各部分のオーバーラップ、材料の巻き込みなどです。不具合を起こさないためには、シミュレーションツールを使ってヘミング工程を深く理解し、トライアウトや生産における試行錯誤を大幅に削減することが重要となってきます。

ヘミング曲げの危険性と注意点

ヘミング曲げは大きな加圧力を必要とする曲げですので、人身事故や金型、機械に損傷が発生する危険があるため注意が必要です。

ヘミング曲げで発生する可能性がある危険性

ヘミング曲げで発生する可能性がある危険性は以下の通りです。

・パンチおよび中間板の取り付け部に過大な荷重がかかり、取り付け部およびパンチが破損し飛散することがある
・加圧点を誤ると被加工材が移動してすべり、作業者側へ飛び出すことがある
・ダブルデッキタイプの金型を使用する場合、前工程の鋭角曲げと後工程のつぶし曲げのデプスデータ(D値:深さ)を変更しないと金型が割れて飛散し、人身事故に繋がることがある
・過大なスラスト荷重は金型や中間板および機械を破損し怪我につながることがある

ヘミング曲げで注意すべき点

ヘミング曲げで注意すべき点は以下の通りです。

・スラスト荷重によりパンチがあおられ、パンチ取り付け部が破損し怪我につながることがあるため、パンチの裏側取りつけは禁止であり、必ず中間板の前側に取り付ける
・スラスト荷重を軽減するために、被加工材の加圧点を金型の芯にあわせて曲げ、潰す時はD値を変化させ、数回に分けて被加工材をずらしながら徐々に加圧する
・スラスト荷重を軽減するために、ヘミング加工する前にスローダウン(速度切換え)機能を有効にして、ゆっくりとつぶす
・被加工材の手前部分(作業者側)が浮き上がったり、すべり出したりした場合は、被加工材が前へ飛び出し怪我につながることがあるため、ただちに作業を中止する
・鋭角曲げされた被加工材のアール部付近を、パンチまたはダブルデッキタイプつぶし部のエッジで加圧しない

まとめ

板金加工とヘミングについて解説してきました。以下、まとめになります。

・ヘミング曲げとは、鋭角に曲げた後、圧力をかけて板の端部を180度折り曲げ、平らに押しつぶす加工のこと
・ヘミング曲げは安全対策や接合部分のエッジ補強に使われ、部品の外観が良くなるメリットがあるが、工程が増えるため結果的に価格が上がる
・ヘミング曲げは精度が表面の外観・品質に影響を与え、様々な欠陥に繋がるなどのデメリットもある
・ヘミング曲げは大きな加圧力を必要とする曲げなので、人身事故や金型、機械に損傷が発生する危険があるため注意が必要

曲げ加工は板金加工においてとても重要です。
ヘミング曲げは板金加工において、見栄えや安全性・補強力の高さがありますが、人身事故や破損などに繋がる危険性があるため、使用時には注意が必要です。特徴やメリット・デメリット、危険性を理解し、注意点を守りながら使用しましょう。