製造業にERPは必要不可欠な理由とは?製造業がかかえる課題をERP導入で解決しよう!
製造業のビジネスモデルのDX化推進困難な理由の一つに、原材料の購入、商品の製造、販売までの各工程を管理するシステムの相違があります。この問題を解決するのが「ERP」です。
「ERP(Enterprise Resource Planning)」とは、企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を無駄なく活用することで生産効率を高めていくという考え方のことです。この考えに基づいた経営効率化システムを「ERPシステム」「ERPパッケージ」と言います。製造業の様々な工程を一括管理し、抱えている問題を解決するERPとはどのようなものなのでしょうか。今回は製造業にERPが必要不可欠な理由について解説します。
ERP日本国内市場動向
株式会社矢野経済研究所「ERP市場動向に関する調査を実施(2022年)」によると、2021年度日本国内ERPパッケージライセンス市場は、エンドユーザ渡し価格ベースで1,278億円、前年度比10.1%増でした。
2020年度は新型コロナウイルスの影響により、企業業績悪化を懸念した案件先送りが発生したため、前年比1.4%とほぼ横ばいでした。しかし、2021年度はコロナ禍の影響が小さくなったため、2020年の先送り分が追加需要として上乗せされるなど、一転して2桁成長しています。
ERPパッケージ市場は今後も回復していき、以下のようなニーズが市場の成長を支え、2022年のERPパッケージ市場は前年比5.2%増の1,345億円になると予測されています。
- クラウドERP導入
- 老朽化したレガシーシステムのリプレイス
- DXの一環としての経営基盤強化など
参照:株式会社矢野経済研究所「ERP市場動向に関する調査を実施(2022年)」(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3032)
製造業におけるERPとは
ERPは、迅速かつ的確な経営判断に役立てるために、企業内に存在する資源を一元的に管理・可視化する仕組みです。主に以下の用途として求められます。
- 受注や販売に紐づく生産計画
- 原材料の購買計画
- リードタイムや在庫の調整など
ERPに関して詳しいことは下記のリンクにて掲載していますので、併せてお読みください。
製造業において、ERPは以下のことを担当します。
- 受注・販売管理
- 在庫・購買管理
- 生産管理
- 財務・会計管理など
特に製造業の場合、生産計画や在庫調整の精度を上げるために、以下のような理由でERPが多く使われます。
- 製造業には「見込み生産」「受注生産」など複数の生産形態がある
- 各形態に合わせた生産計画・在庫調整をしなければいけない
- 生産計画や在庫調整が企業の財務にどのような影響を与えるか把握する必要がある
ERPは製造業にとって必要不可欠なツールになっていく
インターネットとモバイルデバイスの進化したことで顧客が瞬時に大量の情報を入手できる現代、顧客の嗜好は多様化していき、製品自体のライフサイクルが短縮していく傾向が見受けられます。対応策として、市場にマッチした新製品を最大限効率化してリリースし続けることが求められるようになっていくかもしれません。生産性向上の指標を実現するため、ERPは製造業にとって必要不可欠なツールになっていくでしょう。
製造業のERPに必要なおおよその機能
システムがそれぞれの管理システムで分離していると各システムへの手入力が必要になり、入力ミスによって情報の解釈違いが発生するなど、トラブルの原因になります。
ERPの機能には会計や経費精算のようにデータ連動して勝手に計算してくれるなどの強みがあり、トラブル防止対策として非常に有効です。ERPの機能は、生産管理や在庫管理、原価管理といった資源の状態を管理する機能など様々です。
その中には資材や製品がどれくらい、どのような状況にあるのかを整理するのに役立つなど、製造業に必要な機能が一定数存在します。製造業のERPに必要な機能は以下のとおりです。
需要予測機能
1つ目は「需要予測機能」です。
製造業で求められるERPの機能としての「需要予測機能」とは、複数の統計予測手法を用いて販売(受注)実績および出荷実績データなどをベースに需要を予測する機能のことです。
生産計画機能
2つ目は「生産計画機能」です。
製造業で求められるERPの機能としての「需要予測機能」とは、需要予測や所要量計算をもとに、現場での生産計画を立案する機能のことです。
- 製造指図の作成や作業実績の登録といった管理機能が内包されることもある
- 生産だけではなく受注・購買と連携しながら、リードタイムを短縮する仕組みとして「生産スケジューラ(APS)」が必要になる
- APS:保有設備や人的リソースを加味しながら、中・長期の生産計画を立てる際に役立つ機能のこと
購買管理機能
3つ目は「購買管理機能」です。
製造業で求められるERPの機能としての「購買管理機能」とは、生産計画機能によって算出された値に従って製造に必要な原材料や部品を調達する機能のことです。
在庫管理機能
4つ目は「在庫管理機能」です。
製造業で求められるERPの機能としての「在庫管理機能」とは、購買発注によって購入された原材料・部品、または生産された完成品の入庫/出庫状況を管理する機能のことです。
部品構成管理/設計変更管理機能
5つ目は「部品構成管理/設計変更管理機能」です。
製造業で求められるERPの機能としての「部品構成管理/設計変更管理機能」とは、完成品に必要な部品の数や組み合わせなどを生産する際に管理する機能のことです。
また、設計変更管理機能は、不具合の解消やクレーム対応などで変更された設計情報を管理します。
製造原価管理機能
6つ目は「製造原価管理機能」です。
製造業で求められるERPの機能としての「製造原価管理機能」とは、製造する品目ごとに原価計算を行うための機能のことです。
複数の原価計算に対応し原価同士の差異を算出し、レポートとして可視化するなどの機能が含まれます。
ERP導入による製造業のメリット・デメリット
ERP導入による製造業のメリット・デメリットは以下のとおりです。
ERP導入による製造業のメリット
- 煩雑になりがちなリソースの管理が最適化される
- データに抜け漏れがなく必要なデータを取得できる
- 適切でスピーディに計測するので経営に必要な費用や売上数値を工数をかけずに算出可能
- 海外運用に対応しているERPであれば、現地の税金や法律へ対応するために逐一調査する必要なく、税率の自動計算、法律に対応した販売など細かな点で柔軟に対応してくれる
- ERPを導入すれば営業の状況、在庫の状況、材料の購買状況、生産の状況といった幅広い情報の統合的管理が可能となり、リードタイム短縮、在庫管理の効率化・適正化、納期回答の精度向上といった生産状況をコントロールできるなど
製造業にERPを導入するデメリット
- ERP製品は多種類・広範囲機能・細かいカスタマイズが必要なので導入費用が他と比べると非常にかかる
- ERPシステムを使いこなすために従業員研修が必要なので関係部署が多い分だけ手間がかかる
- ERPを稼働しはじめると、合わないからと言ってシステムを急に変更できない
- セキュリティ、システム更新などに毎年一定の金額が発生する
- サイバー攻撃によってERPに蓄積された情報が流出する可能性があるため、こまめなシステム更新とセキュリティリスク意識が求められる
- 中途半端にERPを導入するとかえって経営効率が悪くなる可能性があるなど
ERP導入前の製造業が抱えている課題
ERPは製造業が抱えている様々な課題の解決策として期待されています。ERP導入前の製造業が抱えている課題は以下のとおりです。
競争力の確保
1つ目は「競争力の確保」です。
海外は日本国内よりも人件費を安く抑えることができるため、安価に製造が可能です。そのため、海外企業にシェアを奪われることも珍しくなく、海外に生産拠点を移転した事業も少なくありません。
特に家電製品など、機能面で成熟した領域では高品質・高価格な製品よりも必要十分な機能を持った低価格製品が求められているのでこの傾向が強くなっています。製品品質を徐々に高めることで日本企業に匹敵する信頼性を得て、市場シェアを勝ち取った海外企業は増えていっています。
このような日本国内の製造業が苦戦している環境において競争力を確保するには以下のことが必要になります。
- 品質と価格を維持する
- 付加価値の高い製品を製造すること
- 製造コストを削減すること
- 余計な在庫、材料を持たずに生産体制を最適化することなど
古いシステムからの脱却
2つ目は「古いシステムからの脱却」です。
製造業企業の中には、「レガシーシステム」という独自の生産管理、在庫管理などのために古いシステムを使用しているところも少なくありません。レガシーシステムは老朽化・複雑化が進み、サプライチェーン・エンジニアリングチェーンの双方で問題を発生させる遠因になるため、経営上大きなリスクになります。この2つのチェーンは「価値の連鎖」であると同時に「データの連鎖」でもあります。
- サプライチェーン:「受発注・生産管理・流通・販売」の連鎖
- エンジニアリングチェーン:「企画研究・製品設計・工程設計・生産」の連鎖
レガシーシステムについて、下記のリンクにて詳しく解説しております。併せてお読みください。
事業部門ごとにセグメント化・複雑化が進み、技術者の属人的な知識・スキルに支えられているレガシーシステムでは、データの連鎖がスムーズに進まず以下のような問題が発生します。
- ボトルネック部分が不明確
- 生産過程における手戻りの作業が大きくなる
- 技術者の退職によって保守運用が難しくなるなど
ERP導入は製造業が抱えている課題解決につながる
ERPを導入することで、製造業が抱えている課題を以下のように解決することができます。
不要な手間が減る
1つ目は「不要な手間が減る」ことです。
営業担当者が受注した製品情報は営業管理システムなどに登録されますが、生産管理システムには登録されません。そのため、誰かが営業管理システムのデータを生産管理システムに転記しなければいけません。そうなると、転記の手間だけでなく、後に入力ミスが発覚した場合、その確認や修正にも労力を奪われることになります。
しかし、ERPを導入すればデータはERP上に一元化されるため、そこにアクセスするだけで済み、転記作業などの不要な手間が減ります。
トレーサビリティの確保を容易にする
2つ目は「トレーサビリティの確保を容易にする」ことです。
トレーサビリティとは原材料や商品のロット番号、シリアル番号を管理し、仕入れから出荷後までトレース(追跡)することです。トレーサビリティが高いほど、不良品発生の原因究明が円滑になります。
従来の生産管理では複数のシステム上で商品の動きを把握し、確認していたためトレーサビリティの確保は困難でした。
しかし、生産までと出荷以降で分離しているシステムをERPで統合することで、全ての情報はERP上で確認できるので追跡の手間を大幅にカットすることができ、不良発生時の原因究明から、影響範囲の予測までが容易に実現可能になります。
現場でのリアルタイム管理が可能になる
3つ目は「現場でのリアルタイム管理が可能になる」ことです。
複数のシステムを使って管理をしていると、社内でリアルタイムに情報共有ができず、損失につながる可能性が高くなります。
たとえば、営業担当が生産管理とは別システムを使用している場合、在庫が増えたことを把握できません。在庫切れだった製品を製造したとしても、在庫切れという古い情報に基づいて営業活動を行うことになるため、販売機会を逃すことになるでしょう。
しかし、ERPを導入すれば各現場の状態をその場で共有できるため、すべての関連データをリアルタイムにアップデートすることができます。正確な管理が可能になることで、原材料の入庫時、生産過程時、完成時などに手入力によるミスを最小限にすることができます。
MESの支援とPSIとの連携を実現することで企業の成長を後押しする効果が見込める
4つ目は「MESの支援とPSIとの連携を実現することで企業の成長を後押しする効果が見込める」ことです。
ERP導入により製造業の生産計画・在庫管理にかかる複雑な業務を効率化し、MESの支援とPSIと連携を実現することで、納期回答の精度向上や在庫管理コストの低減など、企業の成長を後押しする効果も見込めるでしょう。
MES
MES(Manufacturing Execution System;製造実行システム)とは、現場から実績データを収集・管理し、製造プロセスの効率化と安定化を実現する仕組みです。現場から得た生産ラインの稼働率・スケジュール・人員配置・各種機器データ・在庫情報などをERPに渡すことで、リアルタイムで精緻な資源情報の構築を支援します。
PSI
PSI(Production(生産)Sales(販売)Inventory(在庫);生販在計画)とは、生産・販売・在庫計画を連携させて最適な生産量を算出する在庫の適正化に特化した仕組みです。
- 販売部門:販売計画や見込みを立てる
- 物流や調達部門:在庫計画や仕入計画を立てる
- 生産部門:販売計画や基準在庫、生産ロット数などから生産計画を立てる
部門を超えて連携させることで全体として最適化を図り、過剰在庫や欠品の抑制など生産量を最適化していきます。
ERPと連携する場合は、ERPが持つ販売計画や正確な人的資源の情報を参照しながら、精緻な生産計画・在庫適正化の実行が可能になります。
まとめ
今回は製造業にERPが必要不可欠な理由について解説してきました。以下まとめになります。
- ERPとは迅速かつ的確な経営判断に役立てるために、企業内に存在する資源を一元的に管理・可視化する仕組み
- ERPは製造業の生産性向上指標を実現するため必要不可欠なツールになっていく
- ERPは製造業が抱える問題を解決し、業務を効率化する
ERPは様々な種類や機能がありますが、導入企業専用にカスタマイズされていなければ、抱えている問題を解決できず、改善がはかれません。分散した様々な情報を一元化管理できるERPは、使いこなすことができれば企業の生産性などを向上させることができるので、ぜひこの機会に一度導入を検討してみてはいかがでしょうか。