製造業は実物の製品確認や輸送などがほぼ必須なため、テレワーク導入は難しいのが現状です。しかし、製造設備や製品にふれる職種以外は、製造業でも導入の仕方次第でテレワーク化が可能となります。製造業をテレワーク化させることでどのような効果があるのでしょうか。今回は製造業とテレワークについて解説します。

テレワークとは

テレワークとは、離れたところで(Tele)働く(Work)という造語です。インターネットなどの情報通信技術(ICT)を活用することで、自宅や外出先などで仕事をするなど、時間や場所を有効活用できる柔軟な働き方を可能にします。主なテレワークの形態は以下のとおりです。

在宅勤務

1つ目は「在宅勤務」です。

在宅勤務とは、自宅を就業場所とする勤務形態です。通勤負担が軽減され、時間を有効活用でき、BCP対策としても有効とされています。

モバイル勤務

2つ目は「モバイル勤務」です。

モバイル勤務とは、外出先や移動中にカフェなどを就業場所とする働き方です。わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなくなるので、移動時間を有効活用することができます。

サテライトオフィス勤務

3つ目は「サテライトオフィス勤務」です。

サテライトオフィス勤務とは、所属するオフィス以外の遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方です。環境を確保できれば、通勤時間を削減できます。

東京都全体テレワーク実施率

2022年06月14日、産業料同局は5月の東京都内企業テレワーク実施状況を調査し、以下のような結果を発表しました。

新型コロナの感染者数が多く、かつテレワーク支援制度が比較的充実している「東京都」でのテレワーク実施率は56.7%であり、週3日以上実施が47.6%、テレワークを実施した社員の割合は45.3%です。

  • 従業員30人以上都内企業(271社):テレワーク実施率は48.7%
  • 従業員100人以上都内企業(109社):テレワーク実施率は62.4%
  • 従業員300人以上都内企業(66社):テレワーク実施率は80.3%

参照: 産業労働局「テレワーク実施率調査結果をお知らせします!5月の調査結果」(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/06/14/07.html)

上記の結果から以下のことがわかります。

  • 半数以上の東京都企業がテレワークを実施している
  • テレワークは従業員が多く、大規模な企業のほう実施率が高くなる傾向にある

製造業のテレワーク実施率

2022年2月14日に株式会社帝国データバンクが調査したテレワーク実施結果は以下のとおりです。

  • 製造業:26%
  • 非製造業:33.5%

製造業企業から、「業務の中で実物の確認や輸送などがほぼ必須なため、テレワークが導入不可」といった声があり、テレワーク導入は難しいのが現状です。

参照:株式会社帝国データバンク「企業がテレワークで感じたメリット・デメリットに関するアンケート」(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220204.pdf)

テレワークができない製造業の職種

製造業の職種は企画・研究・開発・設計・生産技術・品質保証・調達・営業など様々です。以下のような製品の組み立てや品質管理など設備のない社外での作業が困難な職種はテレワークができません。

  • 研究施設や試験設備が必要な研究や開発
  • 加工や組立など、実際に工場内で物を作る職種
  • 製造された製品を扱う品質管理や倉庫管理など
  • 設備の保守・管理など

また、フロントオフィス業務(営業・販売・接客など)も常時顧客や取引先と対面する必要があるため、テレワーク対応が難しいとされています。

テレワークができる製造業の職種

製造設備や製品にふれる職種以外のバックオフィス業務(人事・経理・総務など)は、以下を実施することで実験協力者とのコミュニケーションといった一部業務をテレワークに切り替えることができそうです。

  • 出社が必要な業務を選別
  • オンラインによる工場とのコミュニケーション体制
  • 情報漏洩リスクを防ぐルールの徹底化など

この場合、テレワーク化できる業務内容は以下のとおりです。

  • 実験データの解析
  • 報告書の作成
  • 実験協力者とのコミュニケーションなど

製造業のメリットとデメリット

製造業のメリットとデメリットは以下のとおりです。

製造業のメリット

  • スケジュール調整が難しい開発や工場、品質保証の担当者がオンライン会議ツールで参加することで、以前なら1週間以上を要していたトラブル対応の打ち合わせが大幅短縮
  • 3D-CADの「SolidWorks」や電気と熱流体を解析する「Ansys SIwave」などをテレワークで使いこなすことで、基板や回路設計はほとんどテレワークでできるようになった
  • 個人から個人に体験的に伝えられていた熟練技能が、ドキュメント化されて組織内で伝わるようになった
  • オンライン会議の導入によって、本社の営業担当者や技術者とマザー工場の関係者などとの打ち合わせを素早く実施できるようになり、製品の立ち上げが早くなった
  • 分からないとすぐに質問していた人が一旦自分で調べるに変化し、負担が減った

製造業のデメリット

  • 試作品や材料など実物を触れない
  • 生産ラインで起こっているトラブルについて、現地で現物の確認ができない
  • 納入した製品のQ&A対応で、現物を見ながら話をしたいのにもかかわらず、顧客の生産現場では機密保持のためカメラでの撮影が禁じられており、Q&Aの対応が困難
  • テレワークでスムーズに作業するには、通信速度が1Gbps以上の大容量・高速通信が可能な通信環境や、住宅内にテレワークスペースが必要になる

デジタルワークスペース

デジタルワークスペースとは、会社にいるのと同じような環境を仮想空間上に構築するツールのことです。Meta社が立ち上げた「Horizon Workrooms」やMicrosoft社の「Mesh for Microsoft Teams」などが有名です。

ZoomなどのWeb会議のように、顔を映しながらの通話ではなく、仮想空間に従業員のアバターが配置され、実際のオフィスにいるかのようにボディランゲージや表情などでコミュニケーションを取ることができます。

製造業でテレワークを導入するポイント

製造業でテレワーク導入をするポイントは以下のとおりです。

いきなりテレワーク化しようとせず、手順を踏む

1つ目は「いきなりテレワーク化しようとせず、手順を踏む」ことです。

製造業は現場で対応すべき作業が多いので、テレワーク導入が難しい業種です。さらに、営業、開発・設計、生産技術、生産管理、品質管理、製造などの様々な職種が存在し、いきなりテレワーク化をしようとしてもうまくいきません。

各部署の業務フローを見える化し、テレワークに向く業務、向かない業務を識別し、できるところから進めましょう。

コミュニケーションがすぐに取れる安全税の高いツールを選ぶ

2つ目は「コミュニケーションがすぐに取れる安全税の高いツールを選ぶ」ことです。

製造業において、製品を完成させて出荷するためには営業~製造まで担当者間のコミュニケーションが重要となります。そのため、スムーズにテレワークを進めるためには、円滑なコミュニケーションツールと操作しやすくセキュリティが高いツールが必要です。離れていてもすぐにコミュニケーションが取れるように、安全性の高いツールを選びましょう。

テレワークに合わせたシステム転換と労働環境を整える

3つ目は「テレワークに合わせたシステム転換と労働環境を整える」ことです。

テレワークの運用ルールを明確に決めておき、必要であれば就業規則の変更を行うなど、テレワークに合わせたシステムへ転換してから、従業員の意向をもとに労働環境を整えましょう。バックオフィス業務体制を転換し、労働環境を整えるのに必要な方法は以下のとおりです。

  • 経理業務をすべて電子化し、クラウドを構築したデータのやり取り
  • 業務部門を越えてワークフローをシステム化
  • どこでも仕事ができてしまうので、働きすぎる可能性があるので、適切な業務計画を立て、業務管理をするセルフマネジメント能力育成など

システム導入・転換、労働環境面整備にはそれなりの費用がかかるため、中小零細企業ではバックオフィス業務のテレワーク化を進めるのは難しいかもしれません。

補助金を利用する

テレワーク化に費用がかけられない場合、政府が行っている補助金などを利用しましょう。

経済産業省では主に中小企業や小規模事業者を対象とした、生産性向上やビジネスモデル(テレワークの導入など)の取り組みを助けるITツールを導入する際、コストの一部を支給してくれる「IT導入補助金」制度を行っています。2022年3月31日から申請受付を開始していますので、ぜひ検討してみてください。

ただし、IT導入補助金は事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均1.5%以上の増加目標が達成できていない場合は、補助金の全部の返還を求める場合があるなど、様々な条件があるのでご注意ください。

参照:IT導入金2022(https://www.it-hojo.jp/r03/doc/pdf/r3_application_guidelines.pdf)

東京都が実施した製造業のテレワーク導入事例

2018年に東京都が中堅・中小企業を対象に実施した「テレワークの活用促進に向けたモデル実証事業」では、複数の製造業者が参加しており、製造業のテレワーク導入事例も掲載されています。

事業の参加期間中、これら企業では「在宅勤務」を実施したほか、一部企業では「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」も導入しています。

製造業の化粧品メーカーのテレワーク導入事例は以下のとおりです。

選定

  • 本社の複数の部署から育児による時間の制約がある6名の社員
  • 2名は在宅勤務(始業時間を1時間早める)
  • 4名は在宅勤務とサテライトオフィス勤務を併用

導入概要

  • 利用頻度の低い部署でも円滑なコミュニケーションができるように働きかけるなど、全社員を対象にチャットツールの利用喚起
  • 商談先から次の商談先に向かう間などのスキマ時間で資料作成等ができるよう、サテライトオフィス設置
  • データを安全に運用できるようセキュリティが強固なVPNでサーバーにアクセスする仕組みの取り入れ

導入効果とわかったこと

  • 在宅で勤務したことで、家族との過ごす時間が増え、モチベーションがアップ。集中できたので作業効率向上にもつながった
  • サテライトオフィス活用によって時間の有効活用ができた
  • 商品の製造を行う工場勤務者のテレワークは難しくても、管理を行う部署や本社従業員などの場合、部署ごとに最適な導入方法を検討することで、テレワーク化の余地がある

参考:東京都産業労働局「都内企業に学ぶテレワーク実践事例集」(https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/telework/telework_30jirei.pdf)

まとめ

製造業のテレワークについて解説してきました。以下まとめになります。

  • 製造業をテレワーク化させることで、モチベーション向上や集中による作業効率化やweb会議ツール使用の打ち合わせにより問い合わせ短縮、設計ならソフトがあれば在宅可能、通勤や人間関係によるストレス軽減などの効果が得られる
  • 製造業のテレワーク化によるメリットは多いが、導入にはシステム転換や従業員の環境整備など費用や時間がかかる
  • 製造業のテレワーク導入は、工場勤務者は難しくても、管理部署や本社従業員などの場合、部署ごとに最適な導入方法を検討することで余地がある

製造業はどうしても現場で製造物を確認するなど、完全なテレワーク化は難しいですが、バックオフィス業務やツールを使った設計などは、家でできることは家で、オフィスでできることはオフィスでと選別するなど、導入方法次第でテレワーク化は可能になります。

そのためには既存のシステムと従業員の環境を転換、整備する必要ですが、一気にやってしまうのではなく、できるところからやるようにしましょう。

導入してみたいが費用が不安な場合は、国による補助金を利用してみるのもオススメです。ぜひこの機会にテレワーク化を検討してみてはいかがでしょうか。