日本の製造業はこれまで品質と納期を重視してきたため、顧客満足度が高ければ多少の在庫や材料費、人件費のかさみや無理な出荷には目をつぶってきました。しかし、世界的な価格競争や消費者のモノ離れを前にそういった旧体制ではいられなくなりました。品質や納期を守りながら生産コストを下げ、経営やビジネス試算の最適化を実現する必要があります。

生産現場の管理が完璧であっても、流通や販売時点で不備があり、それが納期や価格に悪影響を及ぼしていては商品の競争力は失われてしまいます。もはや生産管理は企業全体の動きも管理しなければ成立しづらい状況になりつつあります。そのために必要なのがERPシステムです。今回は製造業とERPについて解説します。

ERPとは

ERP(Enterprise Resources Planning;企業資源計画)とは、企業内に散在する情報を統合管理し、それらを最適な配分・配置で有効活用することで効率的な経営活動を一元管理するという考え方です。「基幹系情報システム」を指すことが多く、企業の情報戦略に欠かせない仕組みとなっています。

ERPの思想を実現するツールとして開発されたのが「ERPパッケージ」です。ERPパッケージとは、企業全体の以下のような基幹情報を集約・統合し、業務や部門を横断したデータ連携やリアルタイムでの統合データ可視化により、業務効率化や迅速な経営判断が可能にする一元管理システムです。

  • 会計
  • 人事
  • 生産
  • 物流
  • 販売など

パッケージタイプや製品のカスタマイズ性によって異なりますが、以下のような複数の機能で構築されています。

  • 財務会計・管理会計
  • 販売管理
  • 人事管理
  • 労務管理
  • 原価管理
  • 生産管理
  • 在庫・倉庫管理

ERPの導入目的

EPRを導入する最大の目的は、あらゆる場面で業務の効率化や経営の合理化が可能なことであり、現在様々な業界・業種で経営管理の中枢を担うシステムとして広く導入されています。

従来の企業活動の基幹業務管理は、部門によって求められる情報や処理の方法にいろいろ違いがあるため、以下のような個別の基幹システムなどを使用し、業務フローの構築や情報管理が行なわれていました。

  • 労務管理システム
  • 販売管理システム
  • 会計ソフト

しかし、それぞれの基幹システムは特定の対象業務においては優れた性能とデータベースを備えていますが、業務間での連携部分はシステム化されていないためそれぞれの基幹システムに情報が分散してしまい、以下のような不都合が発生します。

  • 業務間での情報のやり取りやデータの加工を手作業で行う
  • 時間と労力を要す上に重複データや転記ミスも発生しやすくなり、各部門間でのデータの受け渡しに余計な手間がかかるなど

こうした業務・情報の連携課題を解決するため、ERPはバラバラに行われていた管理処理を統合し、それぞれのデータを効率よく運用していくためのシステムとして開発されました。

ERPは1970年代に製造業で普及したMRP(Material Resource Planning)を一般企業経営向けに展開したものです。MRPとは、資材所要計画のことであり、製造物に関する「必要なものを」「必要なときに」「必要なだけ」の計算だけではなく、生産にかかわる設備、人、金を含めた計画を行うことです。

ERPによって企業内データの一元管理が可能になることで以下のようなメリットを得ることができます。

  • 異なる業務間でのデータのやりとりなど、無駄を削減することで生産性が向上
  • リアルタイムで企業の経営状況が確認することができるため、的確で素早い経営判断が可能
  • システム運用管理コストの低減

ERPパッケージ開発によって導入する企業が増えつつある

従来、ERPはほとんどが大手企業の商習慣や規模感を想定して設計された汎用型システムでした。欧米で開発されたものであり、導入当初は日本の企業にフィットしにくいという問題点もありました。

また、企業の業種は様々であり、それぞれの業種環境に応じたシステム開発が必要なので日本国内でERPを導入する企業はあまり多くありませんでした。

しかし、近年は企業の経営資源の統合と有効活用というEPRの考え方に基づいた業種毎に対応したERPパッケージなどが開発されるようになり、様々な種類の国産ERPパッケージが登場しています。

基盤のシステムにオプションやアドオンを加えることで意思決定を迅速化できる環境が整えられていき、現在では多様な業種に対して素早い導入が可能となりました。そのため、ERPを導入する企業が続々と増えつつあります。

様々なERPパッケージ

現在のERPパッケージは大きくわけると以下のように分けられます。各パッケージのカスタマイズ方式や導入形式の特徴を押さえ、自社の業種や業務内容、ERPでカバーしたい業務範囲などの目的やニーズに応じて、自社に適したERPを比較検討できるようにしましょう。

  • 統合型
  • 業務特化型
  • コンポーネント型
  • クラウド型

統合型

1つ目は「統合型」です。

統合型は、企業のデータを一つに統合して管理し、異なる業務の連携などの手間を削減することで業務の効率化を図り、すべての業務一式をカバーするオールインワンタイプです。現場の状況や経営状況のデータがリアルタイムで確認でき、経営層はより迅速な判断が下せるようになります。活用する事で得られる効果は以下の通りです。

  • 企業システムの一貫性が図れる
  • どこからでも情報を取り出せる
  • 経営の見える化を向上させる
  • 経営がスピードアップするなど

業務特化型

2つ目は「業務特化型」です。

業務特化型は、管理会計システムや発注管理システムなど、以下のような特定分野業務の一元管理が行えます。

  • 製造業
  • 小売業
  • 情報サービス業など

導入すると以下のようなメリットがあります。

  • 業界特有の業務や必要なシステムを押さえて設計されている
  • 大幅なカスタマイズが不要
  • 他の導入形態よりも費用が安い
  • 導入期間が短いなど

コンポーネント型

3つ目は「コンポーネント型」です。

コンポーネント型は、既存の業務システムへ以下のようなある程度の業務単位で導入し、追加・拡張していくことができます。

  • 会計
  • 販売
  • 総務
  • 生産
  • 現場など

コンポーネント型は以下のような特徴があります。

  • 既存の業務システムとの連携が容易
  • 必要な機能をその都度追加してシステムの拡張や最適化を図ることができる
  • 一部業務にフォーカスして開発・導入を進めるため、統合型よりも低価格で短期間での導入ができるなど

クラウド型

4つ目は「クラウド型」です。

クラウド型は、クラウド上に構築されたシステムをインターネットを介して利用します。最近ではSaaS(Software as a Service)型による提供なども始まっており、SaaSを使用したクラウド型ERPを導入する企業が増え続けています。導入することで以下のようなメリットがあります。

  • 自社でERP用のサーバーを所有したり個別に構築する必要がない
  • インターネットを介してアプリケーションのみを使用できる環境を提供
  • 基本的に料金体系がサブスクリプションなので初期費用は比較的低コスト
  • 導入してすぐに利用できる
  • システムアップデートやメンテナンスといった管理はベンダー側が行う
  • トラブルが発生した際もベンダーが対応してくれるため、自社で対応しなくて良い

ただし、利用すればするほどネットワーク回線に負担がかかるため、ネットワーク障害などによる影響を大きく受けるのでご注意ください。

ERPパッケージの選び方

ERPパッケージは基本機能が同じだとしても、パッケージによって特定業界に特化、連携機能が豊富など様々な特徴があります。そのため、自社の組織構成や商習慣に合わせたカスタマイズが重要であり、導入する企業の数だけ独自の在り方や構成要素で構築されるべきだといえるでしょう。

ERPを選ぶ際には、複数企業に見積もりをもらって比較し、自社に合ったシステムを選ぶことが重要です。そのため、導入検討の際には事前に以下のことをしておきましょう。

  • 導入目的と適用する業務範囲を明確化
  • 導入目的からERPの機能要件と活用方法を検討
  • それに見合ったパッケージの見極めと細かいカスタマイズで最適化の調整など

具体的な例を以下のように主目的別に挙げます。

  • 企業の経営状況把握の場合:随所で経営判断を下すために必要な情報と部門毎のデータを引き出す形式の洗い出しを行う
  • 部門を横断した業務連携や業務効率化を図る場合:現状の業務内容・業務プロセス・業務量を部門ごとに把握し、部門同士で共有できる情報や作業フロー・削減できる無駄な業務の見直しなど、ERP導入後の統合環境も組み立てる

製造業が求めるERPとは

一般企業向けのERPをそのまま製造業に導入しても合致しないのは明白でしょう。製造業が求めるERPの機能とは「生産管理システム」です。

製造業は常にQCD(品質・コスト・納期)の基準を満たす必要があり、これらは1つでも欠かせない要素であり、最終的に顧客満足度に繋がってきます。例えば、品質と納期を満たせても、コストがかかりすぎる案件の場合、収益性の低いビジネスを継続する事になってしまいます。

ERPには既存の生産管理システムと連系することを強みにしている製品もありますが、やはり製造業において生産管理システム自体がERPに標準搭載されている製品の方がデータの連系性や業務効率性を大幅に高めてくれるでしょう。
ERPの必要性を感じている経営者には「経営及びシステム全体を見直したい」というニーズがあり、それは単に生産業務の在り方を変えたいだけではありません。
以下、製造業経営者が抱えがちな課題を挙げてみます。

  • データ管理をExcelにしたための人的ミスや無駄な作業の排除
  • 海外拠点、海外工場を含めて統合的な情報管理
  • 既存の生産管理システムとその他の機関システム間で発生している二重管理の排除
  • 無理にMRP型システムを応用しているせいで上手くシステム間連携が取れていない状況
  • あらゆる部門の情報を可視化して、経営計画や意思決定に役立てる
  • 多品種少量生産に柔軟に対応する事で、顧客の受け口を広げる

製造業が抱えている課題は非常に多く、特に生産管理システムに重点をおいたERP導入を目指す事で、経営課題を解決しつつ、生産性を大幅に向上する事が可能となります。

製造業においてEPRとMESは相性がいい

MES(Manufacturing Execution System)は製造実行システムです。主に、製造工程の可視化及び管理、作業者への支持・支援を行うための情報システムであり、製造現場の改善活動に焦点を当てています。「良い製品を、限られた資源の中から、効率よく製造する」ことを目的として現場情報を管理します。生産管理システムの一機能として組み込まれていることも多く、「工程管理」の概念に近いシステムだと言えます。

ERPとMESの違いは、以下の通りです。

  • ERP:経営層の意思決定を助けるためのツール
  • MES:QCD(品質、コスト、納期)を改善するためのシステム

最近では生産管理システムの1つとしてMESを組み込んでいるERPも存在します。
この両者を連携させることで、より高度な業務効率化を狙えます。ERPで俯瞰的に生産管理を行い、現場の業務改善にMESを活用すれば、隙のない効率化が実現するでしょう。

生産性を更に上げるPSI

PSI(Production Sales Inventory)とは「製造」「販売」「在庫」の頭文字を取ったものであり、それぞれを同時に計画するシステムを同時に連動させ、最終的に適正な在庫維持を無駄なく効率的に行なっていくことを目的としています。このPSIも生産管理に関わるシステムとして重要な要素になってきます。

販売部門から数カ月先まで月別に作成された販売計画を提示してもらい、生産能力と在庫を加味しながら、大枠となる生産量を決定します。月別→週別→日別と細分化させ、より制度の高い情報として確定していく仕組みになっています。そうすることで、販売→生産→在庫といった一連の流れで計画を立て、必要なときに必要なものを必要な分だけ供給するような製造が実現できるのです。

ただし、これらの連携は部門をまたぐため、経験則による部門独自での微調整なども行なわれ、厳格に連動させることは容易ではなく、計画通りに在庫調整できないといった問題も起こってしまいます。効率的な経営を行っていくのにPSIは必要不可欠ですが、部門横断的な計画となるため、ERPによるデータの一元管理が必須です。連携する事によって、より高い生産性をアップする事ができるでしょう。

まとめ

製造業とERPについて解説してきました。以下、まとめとなります。

  • ERPの最大の特徴は情報の一元管理
  • 製造業が求めるERPの機能とは「生産管理システム」であり、多くの経営課題を解決する
  • ERPはMESやPSIと連携する事によって、更に生産性をアップする事が可能

製造業では生産管理が業務の中心であると言えます。生産が中心である、ということは業務面で周囲にたくさん関係のある業務が存在することになります。
生産管理や経営全体に対して課題を感じている場合、まずはERPパッケージを導入し、必要に応じてMESやPSIとの連携を行い、企業全体の業務最適化を行う事で、自社にとって最適な統合管理システムの構築を目指すのが良いでしょう。