製造業において、顧客のニーズの変化に合わせて営業やマーケティング手法がデジタル化しています。その一方、デジタルマーケティングの導入や運用について「何から始めたらいいか分からない」と困っている企業は多いのではないでしょうか。何故なら、日本のマーケティングがこれまで販売促進中心だったからです。欧米において、マーケティングは「マーケティングコミュニケーション」から「顧客獲得」という新たな価値創造にシフトしています。目的が明確になることで、顧客獲得に向けたプロセスも確立され、そのためのツールとしてMAツールが活用されているのです。日本はツール導入が先行している事が多く、デジタルマーケティングは目的がはっきりしなければ、とりあえず導入しても結果はでません。今回は製造業とデジタルマーケティングについて解説します。

デジタルマーケティングとは

デジタルマーケティングとは、検索エンジンやWebサイト、SNS、メール、モバイルアプリなど、あらゆるデジタルテクノロジーを活用したマーケティングの事です。
デジタルマーケティングはユーザーがデジタルを通じて行動するあらゆる面を網羅しています。たとえば、スマホやタブレットを通じてのユーザーの行動履歴や地図アプリなどです。デジタルマーケティングを活用することで、多様なチャネルを通じて顧客と接触することが可能となります。

製造業においてデジタルマーケティングが難しい理由

製造業においてデジタルマーケティングが難しい理由は3つです。
①製品に関する検索回数の少なさ
②社内理解が進まない
③WEBサイト運用体制の乏しさ

デジタルマーケティングの進め方

デジタルマーケティングの基本的な流れは3つです。この一連の流れをMAなどのITツールを活用し一元管理します。
①リード獲得
②リード育成
③クロージング

リード獲得

リード獲得はオンラインとオフラインという方法に分ける事が出来ます。
●オンライン
自社で運営するWEBサイトで情報発信する事でユーザーへリーチし、メルマガ登録などでユーザーの個人情報を入力してもらうことでリードを獲得します。
リードを獲得する方法は以下の通りです。
・オウンドメディアの運営(WEBサイトの運用によってリード獲得)
・ソーシャルメディアの活用(Facebook広告を活用してターゲット属性に対し効率的に情報を届ける)
・メールマーケティングの活用(顧客になりそうな企業のWebサイトのコンタクトフォームへメールを送付し、リードを獲得する方法)
●オフライン
営業活動やイベント・展示会などで収集した名刺情報をデジタルデータ化することでリード獲得します。
・自社で名刺をデジタル化する(スマホがあればすぐできる名刺スキャンアプリ「Wantedly People」がおすすめ)
・名刺デジタル化を外注する(コストが安く過去の実績が高く納期が速いクラウドソーシング「クラウドワークス」を活用する)

リード育成

リード育成の目的は、リードへ定期的なコミュニケーションを取ることで関係性を向上させ、最終的に受注することです。リードには「短期的に顧客化できるリード」と「中長期的に顧客化するリード」の2種類あり、それぞれのリードにとって役立つ情報が異なるので注意しましょう。主な活動として挙げられるのは以下の通りです。
・メルマガ送付
・技術資料の提供
・技術セミナーの開催
・WEBサイトにFAQコンテンツ

「短期的に顧客化できるリード」は全体のごくわずかです。「短期的に顧客化できるリード」だけで受注量が十分であるという企業はデジタルマーケティングに取り組む必要がないと言えるでしょう。受注量を最大化させるためには、ボリュームの多い「中長期的に顧客化するリード」との関係構築が非情に重要になってきます。
「中長期的に顧客化するリード」と早い段階で接点を持ち、関係を構築できると、いざ導入段階に入って他社と比較検討する際にその関係性は優位に働き、競合他社よりも自社が選ばれる可能性が高くなるでしょう。相談レベルの問い合わせ段階から丁寧で親切な関係を築くことで、その後の受注確立を大幅に向上させるのです。

BtoB製造業のデジタルマーケティングを成功させるポイント

BtoB製造業は一般の顧客には伝わりにくく、潜在ニーズを探りにくい特徴があります。BtoB製造業の販路拡大に有効な、デジタルマーケティングを成功させるポイントは4つです。
①マーケティング部門と営業部門の連系
②デジタルを活用したリード獲得
③MAツールを用いて顧客データを整理し、営業活動を効率化
④自社サイトだけにとらわれず、外部の専門メディアを有効活用

ポイント①マーケティング部門と営業部門の連系

BtoB製造業の営業において、マーケティング戦略は欠かせないポイントです。多くの企業でマーケティング部署と営業部署の連携が取れていない事が多いのではないでしょうか。従来型の営業スタイルでは、展示会などで獲得したリードは営業の手に渡り、訪問によるフォローや商談、受注までのプロセスを営業担当者が担います。一方、デジタルマーケティングでは、展示会やWebで獲得したリードをMAツールなどで育成・選択するところまでをマーケティング部門が担当し、見込みのある案件を営業部門が担当します。するとここで「渡したリードを営業がフォローしてくれない」「案件化できない」という問題が浮上してきます。何故なら、リード選択において明確な基準がなく、マーケティング部門が定義する見込み度合いと営業のそれにギャップが生じるからです。そのため、社内のマーケティング部門と営業部門の連携を深めることを目的に業務フローや連携方法を考える必要があります。そのうえで、より効率的な業務のために必要となるデジタルツールを導入することを検討するのがいいでしょう。

ポイント②デジタルを活用したリード獲得

BtoB製造業の多くは展示会などでface to faceの営業による新規開拓を強みとしている企業が多く見られます。展示会での営業は求めている顧客が訪れるということもあり、新規開拓の絶好のチャンスと言えます。しかし、場所に制約のある展示会での営業は限界があり、新しい市場でゼロからスタートすると従来通りの方法ではうまくいきません。そこでインターネットやWEBサイト等のデジタルを活用し、より広い範囲にアプローチする事で認知度を挙げます。見込み客からの問い合わせが増え、売上向上に繋げる事ができるでしょう。

ポイント③MAツールを用いて顧客データを整理し、営業活動を効率化

インターネット上にはたくさんの情報が存在します。そのため、WEBを利用した営業活動を行う場合より工夫をしなければいけません。
・多くの顧客データを管理しきれず、営業活動に無駄がある
・上手にタイミングを得られず営業効果があがらない
上記のような悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
MA(Marketing Automation)ツールを導入すれば、顧客データを一元管理し、既存顧客と見込み顧客を整理する事ができます。
MAとは、企業のマーケティング活動において、旧来は人手で繰り返し実施していた定型的な業務や、人手では膨大なコストと時間がかかってしまう複雑な処理や大量の作業を自動化し、効率を高める仕組みのことです。
MAツールを活用する事で、リアルタイムで需要のある顧客を見つけ出し、効率的な営業が可能となるでしょう。

ポイント④自社サイトだけにとらわれず、外部の専門メディアを有効活用

自社サイト中心で実施可能な施策にとらわれず、外部のWebメディアの力を活用することで、より多くの人に中立的な視点で魅力を伝えることができます。たとえば、豊田通商は製造業専門のマッチングサイトの活用で大きな成果を出しています。最近では、大手製造業とのコラボメディアを実施するなどの動きも盛んになってきていますので、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

デジタルマーケティングの成功事例

製造業は他の業界と比べて「商品サイクルが短い」「商品点数が多い」「グローバル展開している企業が多い」といった特徴がみられます。そのため、製造業のデジタルマーケティングは課題が発生し、結果的に「コスト増加」「ロイヤリティ低下」「機会損失」といった事が生じてしまい、企業にとって損失に繋がってしまいます。この課題を解決するために、商品情報を一限管理し、様々な媒体に連携して利用できるようにする情報管理手法「PIM(Product Information Management)」を導入する必要があります。社内にある商品データベースからWEBサイトやカタログ、代理店向けのアプリケーションなど必要な情報を適切な媒体、デバイスを通してユーザーに商品情報を届けやすくします。具体的なBtoB製造業のデジタルマーケティングの成功事例を紹介します。

6ヵ月でお問い合わせが3.1倍増加した株式会社シマテック

株式会社シマテックはパーツフィーダの周辺機器や自動組み立て機などの製造販売を行っている会社であり、ブログやホームページで商品を紹介していましたが、問い合わせはあっても購入に繋がっていませんでした。パーツフィーダとは、生産ラインにおいて必要な小物やパーツを一定方向に並べ、自動的に次の生産工程に搬送する装置のことです。
何故、新規受注を得られないのか現状分析を行うと、コンテンツに課題がある事が判明しました。技術が優れているという事を一般の人にもわかりやすく知ってもらわなければいけません。また、パーツフィーダと聞いても一般の人はどんなものか想像もつかないでしょう。そのため、自社の技術力の高さと製品の製造工程の裏側や他社製品との比較など、商品情報だけでなく様々な角度から自社情報をYouTubeにわかりやすく動画で配信し、ブログにも掲載して、一般の人が見ても理解しやすいようにしました。すると6か月で問い合わせが3.1倍増加し、新規の顧客からの問い合わせや東証一部上場の大手企業からの注文が増え、売り上げも1年間で1.7倍伸び、1億円を突破しました。

マッチングシステム導入で毎年売上1.5倍になった豊田通商株式会社

豊田通商株式会社は、国内および海外約120カ国におよぶグローバルネットワークと、1,000社を超えるグループ会社を通じて、世界中のお客さまとビジネスを展開しています。
豊田通商株式会社は日本では認知度がゼロの(米国でトップシェアを誇る商品)超大型シーリングファン「ビッグアスファン」の輸入販売をスタートさせました。販促活動の反響は良いものの、実際の購入に繋がらないのが課題でした。行き詰っている時に、外部の製造業向けマッチングサイトから提案がありシステムを導入しました。

・システム導入以前:問い合わせしてきた顧客にカタログをひとつひとつ郵送し、そのフォローのため営業担当者が実際に客先まで出向く
・システム導入以降:Webサイトからカタログをダウンロードした見込み客を絞り込んで営業するなど、より効率的な販促活動に変更

その結果、毎年1.5倍ずつ売り上げをアップさせ続けることに成功しています。認知度の低い未開拓な製品はマッチングサイト導入によって、見込み客を洗い出し、直接アプローチできるようになったのです。

再生数200万回の宣伝動画を作ったコニカミノルタ

コニカミノルタは、印刷業・ヘルスケア事業をはじめ多くの独自の技術を扱っている企業です。経営者や実業家に向けたブランディングとして、子供たちが実際に夢を持てるようなプロモーションをおこないたいと考え、「想いをカタチにする(Giving Shape to Ideas)」というコンセプトのもと、「Dream Printer」プロジェクトを実施しました。
ニューヨークで撮影され、製品リリース情報は一切映し出さずに、子供たちがユニークなプリンター「Dream Printer」に夢を語り、数分後に夢が叶ったイラストを受け取るといった内容です。この動画はFacebookをはじめCM、電車内のWeb広告などに幅広く展開しました。この製品のリリース情報などではなく、ブランディングに特化した広告動画は200万回再生され、SNSを活用することで、自社のブランドイメージを上げることに成功しています。

まとめ

製造業とデジタルマーケティングについて解説してきました。以下、まとめになります。

・デジタルマーケティングとは、あらゆるデジタルテクノロジーを活用したマーケティングの事
・受注量を最大化させるためには「中長期的に顧客化するリード」との関係構築が非情に重要
・デジタルマーケティングを明確な目的を持って取り入れれば、製造業はより良い成果が出せるようになる

デジタルマーケティングにおいて、ツールはあくまで手段であり、導入が目的化していては成果はでません。今まで顧客を理解できていなかったという認識に立つことで、顧客の課題や購買プロセスの理解を深め、それに合わせたコンテンツを用意し、どのコンテンツがどれくらい響いたのかデータを検証し、次に生かすことが大切なのです。
たくさんのデジタルツールが開発されていく一方で、導入しても活用しきれていない企業が多いというのが実情でしょう。製造業の販路はターゲット層が絞られています。ツールを導入する事を目的にするのではなく、ターゲットを広げるための手段としてデジタルマーケティングを検討してみてはいかがでしょうか。