世界的な新型コロナウイルスの影響で移動規制が導入されたため、需要がサービスからモノに移行しました。その後、ワクチン接種や政府による数兆ドル規模の景気刺激策により経済活動が広範に再開しましたが、モノの需要は底堅さを保っています。需要の急増に供給が追いつかず、未完成品が積み上がったり、原材料や完成品の価格が急騰したりしており、物価上昇圧力が高まりつつあります。市場における製品の需要や取引先企業の経済状況を見極めるため、景気を見通すのに役立つPMIという指標があります。50よりもPMIの数値が上回るか下回るかによって、その時の景況感を判断し、新規事業を行うのか辞めておいた方がいいのかを判断する材料にできます。また、PMIは株価と直接連動しているわけではありませんが、ある一定の法則性もあります。今回は製造業におけるPMIについて解説していきます。

PMIとは

PMI(Purchasing Managers’ Index)とは、「購買担当者景気指数」であり、製造業における評価指数のことです。原材料や部品などの仕入れを担当している購買担当者へ新規受注や雇用、価格などのアンケートを実施し、そこから得たデータを数値化したものです。

購買担当者の考えや行動が今後の景気を見通すのに役立つと考えられています。なぜなら購買担当者には、生産計画に従って原材料を正確に調達すること、市場における製品の需要や取引先企業の経済状況見極めなど、あらゆるリスクを考慮しながら購入量を調節することが求められるからです。原材料を仕入れる時、行き当たりばったりでは過剰在庫や欠品による生産ラインの停止といった大問題に発展してしまうでしょう。

PMIは購買担当者への「良くなっている」、「同じ」、「悪くなっている」の回答から指数を算出します。アンケート調査という点では日銀短観と共通します。

短観とは、「全国企業短期経済観測調査」のことです。統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としています。全国の約1万社の企業を対象に、四半期ごとに実施しています。

短観では、「企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどうみているか」といった項目に加え、売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値など、企業活動全般に渡る項目について調査しています。

日銀短観は購買担当者が対象ではないのでPMIではありませんが、同じような指標といえるでしょう。ただし、日銀短観はゼロを分岐点とし、プラスマイナスで表します。

PMIは、景気の状況や先行きを予想するための数値として重視されています。製造業はどの国においても経済に大きな影響を及ぼすからです。また、PMIはGDPと関連性が強く、数値の動きも似ています。経済が成長を続け、景気が好転している時、PMI数値に付随するようにGDP数値も上昇傾向がみられます。
現在は世界の多くの国(地域)で調査・公表されており、発表時期が国内総生産(GDP)など他のマクロ経済指標より早いために速報性が高く、マーケットで注目されています。

中国では中国国家統計局と中国物流購入連合会が共同で調査しているものと、中国のメディアグループである財新と英国の金融情報・調査会社のIHS Markit社が独自でまとめたものの2種類があります。IHS Markit社では、アメリカや日本、中国、ユーロ圏をはじめとする30以上の国々で調査を実施し、毎月調査結果を公表しています。

PMIの見方

PMIは、基準値の上か下かで景気の先行きを判断します。
商状が前月と比較して横ばいを示す「50」がボーダーラインです。

数値が50を上回る:景気が上向きと考えている人が多い事を示す
数値が50を下回る:景気が落ち込んでいると考えている人が多い事を示す

PMIから景気が良い方向へ向かっていると判断できれば、新たなビジネスへの取り組みや、事業拡大を視野に入れることができます。新たなビジネスチャンスを掴むきっかけになるかもしれません。

逆にPMIから景気が悪い方向へ向かっていると判断できれば、ビジネスの縮小や目先の新規事業凍結などの対策を講じることができます。

PMI数値をどのように活かすかは企業により様々ですが、ビジネスにおいて重要な判断材料になることは間違いないといえるでしょう。

PMIと株価の関係

PMIと株価は完全に連動して動いている訳ではありません。
PMIが50を上回れば株価が上昇し、50を下回れば株価が下落するというほど単純ではありませんが、いくつかの法則性は認められます。

たとえば、PMIが55を超えた場合、経済環境もかなり良いということで、すぐに大きなクラッシュになる可能性は低く、早期にリバウンドする可能性が高いので買いのチャンスと言えるでしょう。

しかし、PMIが45を下回る場合、株価が安いと思ってもすぐに買うのではなく、少しマーケットを見極めてからの方が良いでしょう。少なくとも数ヶ月間は慎重に投資をする必要があります。
なぜなら、米国のPMIが45を下回るということは、想像以上に実体経済が悪化する可能性を示唆しており、株式市場も簡単にリバウンドする状況ではないと考えられるからです。
また、2000年~2002年のITバブル崩壊時のようにPMIが底からリバウンドしても、株価のリバウンドまでは一定のタイムラグがある場合もあります。

【PMIが45を下回ってから株価が底入れするまでの期間】
ITバブル崩壊時(2000年前後):1年9ヶ月
リーマンショック時(2008年):4ヶ月

PMIがリバウンドしても株価が連動しない可能性もあるので、慎重に投資を行いたい場合はPMIが50をしっかり上回るのを確認してから投資しましょう。なぜなら、PMIが底をつけて上向きとなっても、50を下回っているということは景気後退局面から脱していないことを表すからです。

PMIのデータ収集方法

PMI数値は、企業の購買担当者へのアンケートによってデータ収集されています。
IHS Markit社のPMI調査では、厳選された400以上の企業にアプローチし、前月の商況と比較し「改善」「横ばい」「悪化」の三者択一のアンケートへの回答を求めています。
アンケート内容は多岐にわたります。
・生産高
・新規受注
・製品価格
・購買価格
・購買数量
・雇用など

IHS Markit社は、購買担当者の中でも特に上級の責任者を対象としていて、膨大な集計データを精査した上で配信しています。

PMIが活用される場面

PMI指数から景気動向を読み取ることで、今後の事業計画や購買戦略を縮小するのか、拡大するのかを策定することに役立てることができます。
また、世界経済の今後予測も行えるので、グローバルな事業展開を目指す企業がPMI数値を利用しています。特に注目度が高いPMI数値はアメリカと中国の指数です。経済大国である両国の輸出動向がわかれば、世界経済の先行きも判断しやすくなるからでしょう。

各国の主なPMI

各国の主なPMIは以下の通りです。

米国PMI:ISM製造業景況感指数、ISM非製造業(サービス業)景況感指数
中国PMI①:国家統計局中国製造業購買担当者景気指数(国家統計局PMI)
中国PMI②:財新マークイット中国製造業購買担当者景気指数(財新マークイットPMI)
欧州:ユーロ圏製造業PMI、英製造業PMI
日本:日本製造業PMI(日経PMI)

この中で最も注目されるのは米国のPMIです。
米国のPMIには製造業PMIと非製造業PMIがありますが、特に重要なのが製造業PMIである「ISM製造業景況感指数」です。

PMIとISM

景況感を示す指標であり、PMIと混同しがちなISMという言葉があります。

ISMとは

ISM(Institute for Supply Management)とは、全米供給管理協会が公表している「製造業景況感指数」のことです。アメリカにおける製造業の景況感を表す指標として広く用いられています。景気サイクルの転換期を示す先行指標としての精度が高く、アメリカ市場の最重要指標の1つとされています。

ISMの見方

ISMはPMIと同じく50をボーダーラインとして判断しています。

数値が50を超える:景気が上向きになっていることを示す
数値が50を下回る:景気が落ち込んでいることを示す

ISMのデータ収集方法

ISMは300以上の企業に属する仕入れ担当者へ直接アンケートを実施し、収集した膨大なデータを元に数値を算出しています。そのため、信頼度が高いという特徴があります。
アメリカはGDPランキングトップの経済大国であるため、その景況感調査なので、アメリカだけでなく世界経済を占う重要な数値だと考えられています。

PMIとISMの違い

PMIとISMには違いはありますが、どちらも50よりも上なのか下なのかで景気動向を占う指標です。
PMIとISMの違いは、以下の通りです。

調査の実施主体が異なる

1つ目の違いは「調査の実施主体が異なる」ことです。

PMI:イギリスに拠点を構えるリサーチ企業IHS Markit社
ISM:全米供給管理協会

アンケートの数や対象、実施場所が異なる

2つ目の違いは「アンケートの数や対象、実施場所が異なる」ことです。

PMI:400以上の企業をアンケート対象とし、民間企業のみを対象に世界30以上の国々で実施
ISM:300以上の企業をアンケート対象とし、アメリカ国内の企業のみを対象

アンケートの回答方法が異なる

3つ目の違いは「アンケートの回答方法が異なる」ことです。

PMI:前月と比べて「改善した」「横ばい」「悪化した」の選択肢から選ぶ
ISM:「よくなっている」「同じ」「悪くなっている」の選択肢から選ぶ

まとめ

製造業とPMIについて解説してきました。以下、まとめになります。

・PMI(購買担当者景気指数)は企業の購買担当者にアンケート調査を行い、景況感を指数化したもの
・PMIと株価は完全に連動して動いている訳ではないが、いくつかの法則性がある
・PMIとISMには違いはあるが、どちらも50よりも上なのか下なのかで景気動向を占う指標

PMIとISMはどちらも製造業の購買担当者に他項目アンケートを実施し、現在の景況感を判断する数値を導き出すことができます。PMIとISMの数値が50より上か下かによって事業拡大をするのか否かの判断材料にすることができるでしょう。