製造業におけるプロジェクト管理とは? PMOを取り入れて最適なシステムで管理しよう
製造業では、余剰在庫を減らすために受注してから設計を始める個別受注生産に変更している企業が多くなってきています。個別受注生産は余剰在庫を減らすことができますが、設計・調達・組立まで一気通貫で工程管理、リソース管理をしなければ、納期遅延やリソース不足、コスト増加を引き起こしてしまいます。そのため、製造業ではプロジェクト管理が注目されています。今回は製造業におけるプロジェクト管理について解説します。
製造業の生産スタイル
プロジェクトとは、一般的には成果物を作成するための期限と予算、資源(リソース)が決まっていることを指します。プロジェクトを「進捗」「コスト」を中心に管理し、そのために必要な人員やリソース、品質を管理していくことをプロジェクト管理といいます。
製造業でよく使われる工程管理は「進捗」が中心ですが、プロジェクト管理は「進捗」と「コスト」「リソース」「品質」を統合して管理することです。
製造業の生産スタイルの種類は次の通りです。
個別受注生産型
1つ目は「個別受注生産型」です。
すべてをイチから作る場合もありますが、共通化できる部品はユニットとして製品にしておき、組み合わせながら生産していきます。具体的な個別受注生産型には、工場の生産設備の機械メーカーなどがあります。
繰返生産(量産)型
2つ目は「繰返生産(量産)型」です。
顧客であるメーカーと開発や試作を繰り返したり、自社で開発や試作を繰り返して完成させます。具体的な繰返生産(量産)型には、家電製品や自動車などがあります。
ハイブリッド生産型
3つ目は「ハイブリッド生産型」です。
個別受注生産と繰返生産を組み合わせた生産手法で、BTOモデルともいわれています。
パラメトリック生産型
4つ目は「パラメトリック生産型」です。
ハイブリッド生産型を更に進化させた生産手法です。部品表(BOM)の組合せ条件と併せて、品目ごとに1つの統合BOMを作ります。具体的な例をあげると、色や容量を指定するスマートフォン等の生産手法で採用されています。
個別に対象案件の管理をすると無駄が生じる
製造業において、多数の短納期案件を受注する企業が増えつつあります。営業・設計・資材調達・製造を効率よく行うため、進捗管理や要員管理が必要になっています。常にそれぞれの部門に状況確認し、お客様と話を行う事で短納期受注は成立します。
しかし、案件が増えていくと全案件の状況把握が困難になってきます。
なぜなら、各部門で個別に対象案件の管理を行っているからです。
製造に関わる重要な事項が部門間で共有されていないと、業務量が一時期に集中してしまったり、逆に待ち時間が発生したりと、生産活動の無駄の原因になります。
各部門で個別に管理をしていると、それぞれの部門は異なる課題を抱えます。
営業部門:案件進捗が見えにくく、顧客企業とのコミュニケーションが難しい
設計部門:案件ごとに行われる設計業務が属人化してしまい、工程の可視化が困難
資材部門:工程に合わせて調達を行いますが、手配情報が共有されておらず、必要なときに求められる材料が間に合わない
製造部門:作業のボリュームにバラつきが発生し、従業員の負担が増える
経理部門:何の案件にどれだけの工数と時間が費やされたのかが分からず、原価集計が煩雑になる
このように部門間で進捗状況が可視化されていないと、関係者から納期に関する問い合わせが増加し、対応に手間がかかってしまいます。
また、経営陣や組織マネージャーは定期会議報告で受けた情報しかないため、最新の案件進捗状況が把握できません。
PMO
そういった困難を解決するために、企業の全案件状況を確認していくためのPMO (Project Management Office) を設置する企業も出てきています。PMOは組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門や構造システムを言います。PMOにより、企業として全案件状況がわかるようにできますが、PMOがプロジェクト管理を行うためには、課題が立ちはだかります。その課題を踏まえて、全社で統一した仕組みとシステムが必要となってきます。
プロジェクト管理の課題
複数のプロジェクトをまとめて管理することを「プログラム管理」、経営戦略などによる優先度や規模、難易度などを入れて全プロジェクトを分析することを「プロジェクト・ポートフォリオ管理」といいます。
プロジェクト管理の課題は以下の通りです。
要員管理ができていない
1つ目は「人の管理ができていない」ことです。
メンバーがどのような作業やタスクを抱え、誰が忙しくて、誰が空いているのかわからない状況になってしまいます。
工数予実管理ができていない
2つ目は「工数予実管理ができていない」ことです。
1か月160時間働くための人の管理ができていないために製品の計画スケジュールもできず、材料の手配状況や計画原価はわかってもメンバー別に作業やタスクの計画工数を立てられません。結果的に160時間に収まっているのか、長時間労働になってしまうのか、月末までわからない状況になってしまいます。
進捗管理ができていない
3つ目は「進捗管理ができていない」ことです。
設計し、制作されていくまでのスケジュール管理や進捗状況がわからないため、プロジェクトの状況把握はExcelの進捗報告を信じるしかありません。そうなると、ちゃんとやっている人、やれていない人の個人的バラツキが強くなってしまいます。
PMOに必要なプロジェクト管理システム
PMOに必要なプロジェクト管理システムは以下の通りです。
・設計・資材調達・製造の細かなタスクとスケジュールを進捗管理によって一気通貫で確認できる
・全案件をまとめて管理することができる
・全社が同一の仕組みで使える
・誰が何のタスクを担当し、どの程度の負荷が生じているかを把握する要員管理ができる
・計画と実際の乖離を把握し、問題を予防・解決する予実管理ができる
上記の項目が可能であるシステムを導入すれば、PMOは計画より10日以上遅れている案件に対しマークをつけ、対象案件だけを絞り込んで毎日確認することができます。
マークをつけることで、戦略的に優先したい案件、規模や予算など企業に影響が大きいものも一覧で確認することができます。
たとえば組立で遅れが生じているためリソース負荷状況を確認してみると、組立上級スキル(リーダーレベル)の負荷が高くなっており、調整が必要な状況であるとわかります。
しっかりとしたシステムにより、PMOは全案件に対する進捗状況とリソース状況の確認や問題抽出ができるようになり、必要な対策をどこに打てばいいのかがはっきりとわかるようになります。
現場側にも役立つプロジェクト管理システム
このようなシステムは、現場側にとっても非常に役立ちます。
たとえば、調達や組立用の画面レイアウトを切り替えると、部品の発注数、入荷数、入荷率が各日程とともに一目で確認することができます。これにより各部品の入荷状況がいつでもわかるようになります。
また、設計においては、設計メンバーの稼働状況画面に切り替えると、どのメンバーがどの案件でどのくらい稼働予定なのかが一目でわかり、リソース調整が可能となります。
PMOだけでなく、現場側の欲しい情報も用意することで、企業全体のシステムや仕組みの導入、運用がスムーズになります。そうすることによって、製造業の個別受注生産におけるプロジェクト管理の仕組みができあがります。
プロジェクト管理に使うシステムツール
実際にプロジェクト管理に使われるツールは以下の通りです。
ERP
ERP(統合基幹業務)や生産管理システムで進捗管理を行う場合、販売・生産・在庫・購買・原価など、経営情報を全社的にリアルタイムで把握するのに有効です。
企業内の情報が一ヵ所に蓄積していくので、データの抜け・漏れを防ぎ、業務の正確な状況が分析可能です。ERPにおける生産管理システムは、需要予測に基づいて販売計画を立て、それを達成するための生産計画を立案します。生産計画を立てた後は、製造工程が順調に進んでいるかを把握するよう、進捗管理を行います。
生産管理システムが機能すれば、在庫管理の適正化、生産計画の短縮、業務負荷の平準化、利益率の向上といった効果が期待できます。反面、システムが大規模になり、カスタマイズが難しいという課題があります。
ガントチャート
ガントチャートは、プロジェクトの各段階を作業単位まで展開し、誰が何をいつ担当するのかを明らかにし、限られた要員・資材を使って、定められた納期を守る、期間と進捗を図示しています。
ガントチャートを使えば、作業の依存関係を知り、納期に対して最も影響がある作業の連なりを明らかにすることができます。複数のプロジェクトにまたがった全体の状況を「見える化」し、計画と実績の乖離が容易に把握できるので、追加の人員投入を含め、製造工程にまつわる問題を解決するのに役立ちます。
エクセル
製造業における工程管理は、エクセルを使っている場合もあります。規模が小さい間は、エクセルでも十分に管理が可能です。しかし、エクセルで進捗を管理すると、煩雑な手作業が多く、整合性を保つのが困難になってしまいます。多人数・多拠点でのファイル共有が困難であり、また、バージョン管理が煩雑で最新版が分からなくなりがちといった問題が指摘されています。エクセルはファイルの編集が属人化してしまい、元の作成者以外が改修できなくなるリスクがあります。
まとめ
製造業とプロジェクト管理について解説してきました。以下、まとめになります。
・プロジェクト管理は「進捗」と「コスト」「リソース」「品質」を統合して管理すること
・プロジェクト管理の課題は「人員管理」「工数予実管理」「進捗管理」
・PMOがしやすいシステムを導入することで、プロジェクト管理の課題は解決できる
製造業がやるべきプロジェクト管理は、個別受注した製品が計画通りに顧客へ納品されているかの進捗をみていくことが目標だといえます。そのために、進捗管理で各作業の進捗状況を見える化し、要員管理でメンバーのタスク、負荷状況を見てリソースの最適化を実現し、Excelなどの業務を見直し、統合を図り、各部門が連携して動くようにしましょう。