製造業現場にAIやIoTを適用する動きが加速化しています。しかし、工場など多くの製造業現場では口頭での指示や紙での記録など、人の手による作業に頼る形で運営され、今一歩IT化に踏み込めないでいるのが現状です。この解決策としてペーパーレス化をオススメします。ペーパーレス化とは紙をなくし、あらゆる情報をデータ化して管理する方法です。今回は製造業のペーパーレス化について解説します。

ペーパーレス化における工場のメリット

工場にペーパーレス化を導入すべき理由として、そのメリットをご紹介します。

時間・資源・場所が節約できる

1つ目は「時間・資源・場所が節約できる」ことです。

工場内の情報を電子管理できるようになると、紙に使われる資源や印刷にかかる用紙代やインク代の節約ができます。書類を保管している棚が遠い場所にあると、移動するだけで時間を使ってしまいます。しかしデータにしてしまえば、手元の電子デバイスで確認することができ、時間の節約ができます。それにより、従来は見過ごされていた品質問題を起因とする無駄やコストを劇的に削減し、詳細なレベルで情報の齟齬を発見し、生産性を向上させることができます。
また、書類を保管している棚も撤去できるので、工場を広々と使う事ができ、場所も節約できます。取引先が同じシステムを使っていれば、郵送せずに情報を共有できるため、ペーパーレス化はあらゆるコスト削減を可能とします。

人手不足をカバーできる

2つ目は「人手不足をカバーできる」ことです。

少子高齢化により、工場では人手不足が深刻化すると予測されていますが、ペーパーレス化は労働力不足の解決策になります。
工場だけでなく、企業ではこういった無駄や問題が生じることがあります。

・紙へ記入された情報をパソコンのシステムに打ち込む作業
・過去の書類から必要な情報を探し出す作業
・発注ミス

ペーパーレス化は上記のような属人化した業務を削減し、不必要な労働力を削減することで人手不足をカバーできるでしょう。

欲しい情報をどこでも確認できる

3つ目は「欲しい情報をどこでも確認できる」ことです。

ペーパーレス化すれば、外出先でも取引先でも商談中でも、欲しいデータをすぐに取り出すことができます。キーワード検索もできるので、どこに資料があるのか探し回る必要や分厚い書類を捲って情報を探す必要もありません。書類をペーパーレス化し、検索性を高めておけば「探す」という行為を効率化することが出来るとともに、許可が必要な書類に関しても閲覧環境に対して制限を掛けることで、複数人の時間を効率化することが可能になります。稟議書や経費申請の承認作業も外出先で迅速に行うことができれば、社内全体の意思決定スピードも早くなるでしょう。

安心のセキュリティ

4つ目は「安心のセキュリティ」です。

ペーパーレス化により電子化してしまうと、該当ファイルの閲覧権限の設定、閲覧履歴の記録、確認といったことが可能になり、人的ミスもなく、セキュリティを高めることが可能です。

ペーパーレス化における工場のデメリット

ペーパーレス化における工場のデメリットは以下のようになります。

・充電が切れて使えず、閲覧したくてもできない
・電子デバイスの起動に時間がかかる
・紙媒体に親しみをもつスタッフが多い
・複数枚同時に資料を参照することが困難
・資料を閲覧するモニターによっては文字が小さくて見づらい
・手書きでメモが取れないことに不自由さを感じる
・電子化が認められていない書面も一部ある
・工場内にネットワークをひくのが困難
・油によるIT機器の故障への危惧
・営業から調達、製造、出荷とプロセスが長い

ペーパーレス化の導入前に確認しておきたいポイント

工場のペーパーレス化のメリットは大きいですが、無計画で導入するとコストが余計にかかってしまい、紙の使用量が変わらない状態になってしまいます。そうならないために、導入前に確認しておきたいポイントを紹介します。

導入コストの見積もりをしておく

1つ目は「導入コストの見積もりをしておく」ことです。

ペーパーレスの導入にはパソコンやセキュリティソフトにかかる金銭的なコストだけでなく、新しく導入するシステムの使い方を従業員に指導する時間が必要となってきます。
更に、紙媒体で蓄積していた情報をデータ化する時間も必要です。労力と人的コストをよく考えて、データ化により削減できるコストと比較して効果はどうか考え、見積もりをしておきましょう。

システム障害や機器の故障に対応できるかマニュアルを作っておく

2つ目は「システム障害や機器の故障に対応できるかマニュアルを作っておく」ことです。

電子機器はバックアップを常に取っておけば問題ありませんが、ネットの動作不良でクラウドにアクセスできず作業が止まってしまう可能性もあります。
予期せぬトラブルに対応できる社員を育てる、または外部へ委託する場合でもシステム障害や電子機器の物理的故障にどう対応するかマニュアルを作っておくと安心できます。

PCに不慣れな従業員対策

3つ目は「PCに不慣れな従業員対策」です。

パソコンに不慣れな従業員が多い場合、ペーパーレス化はむしろ作業効率の低下につながる場合があります。その結果、通信・ネットワーク・セキュリティなど、ITに紐付く要素を理解する能力、操作する能力(ITリテラシー)が低い社員によって外部へ情報が漏洩してしまったり、それぞれが資料の印刷をするため、会社に保管されていく紙は減っても消費される紙は減らず、結局のところ紙で情報管理をしている可能性があります。そうならないために、ペーパーレス導入の前に意見交換会を開き、意見を交わすことで従業員にとって使いやすいシステムを目指しましょう。

ペーパーレス化を導入する手順

ペーパーレス化を導入する手順を大きく3つに分けて紹介します。

業務フローの可視化

1つ目は「業務フローの可視化」です。

最初に工場での作業工程を書き出し、紙で管理している仕事で電子化できる業務がないか確認します。

ペーパーレス化できる部分をひとつひとつ確認し、できそうな業務はどのように変えていくかを検討し、業務フローの可視化を行います。

優先順位の高い工程から順番にペーパーレスへ移行

2つ目は「優先順位の高い工程から順番にペーパーレスへ移行」することです。

紙媒体から一気に電子機器へ移行するとなるとハードルが高く、操作不良・トラブルが発生する可能性が高くなります。まずは優先順位の高い工程から順番にペーパーレス化を行いましょう。その間に、従業員へペーパーレス化の必要性を理解してもらうための説明会を開くとなおいいでしょう。

従業員全員が使えるように操作教育

3つ目は「従業員全員が使えるように操作教育」することです。

今まで手書きで対応していた部分を急に電子化すると、PCが苦手な従業員によっては使い方がわからず作業スピードが落ちてしまう可能性があります。そうならないために、従業員のITリテラシーに応じた研修会や説明会を行い、全員が使えるように教育を行いましょう。

ペーパーレス化を実現するツール

実際に製造業現場のペーパーレス化を実現するツールを紹介します。

ConMas i-Reporter

1つ目は「ConMas i-Reporter」です。

ConMas i-Reporterは、帳票類をタブレットで記録・報告・閲覧することができます。帳票のフォーマットは日頃使い慣れた帳票をそのまま使用することもできます。また、既定のフォーマットだけでなく、タブレットの特徴を活かして、手書きのメモや現場の写真を合わせた帳票を作成することができます。

EXtelligence EDIFAS

2つ目は「EXtelligence EDIFAS」です。

EXtelligence EDIFASは、次のような企業間取引の情報をペーパーレス化できるクラウド型EDI(Electronic Data Interchange;企業間電子データ交換)サービスです。

・受発注
・見積もり
・出荷
・仕入検収
・支給

EXtelligence EDIFAS上にある帳票作成機能で発注データを送ると同時に、日頃使い慣れたフォーマットの注文書をPDFで送信することもできます。

kintone

3つ目は「kintone」です。

kintoneは業務アプリ作成ソリューションであり、業務に合わせたアプリをプログラミングの知識なしで作成できます。サンプルのアプリも用意されており、日報や経費申請、顧客情報と紐づけた案件管理など、業務に合わせたアプリを自由自在に作成可能です。

まとめ

製造業とペーパーレスについて解説してきました。以下、まとめになります。

・ペーパーレス化はあらゆるコストを削減し、欲しい情報をどこでも見る事ができる
・ペーパーレス化はどの業務に対して行うのかフローを可視化し、優先順位をつけて順次行うのがポイント
・ペーパーレス化を全従業員が使いこなせるように研修などを行う必要性がある

ペーパーレス化はコスト削減、生産性向上、業務効率化、セキュリティの向上と多くのメリットがあり、働き方改革の第一歩といえるでしょう。製造業でペーパーレス化がなかなか進まないのは営業から生産、納品までのプロセスが長く複雑だからです。また、それぞれのプロセスやデータが複雑かつシリアスに関係しており、一部分だけのデジタル化が難しいという実情もあります。ペーパーレス化を成功させるためには、業務の中で比較的データ化しやすい業務を探し、優先順位をつけてデータ移行していくのがいいでしょう。どんなに良いシステムを導入しても、実際に働く従業員が使いこなせなければ意味がありません。そのため、電子化した情報を従業員全員が使えるよう研修などを行いましょう。