板金加工にはルールがある! 設計と板金加工基本の曲げ加工におけるルールと注意点とは?
板金加工を行う際、様々なルールが存在します。特に、珍しい形状の金型を設計する場合、設計ルールの原理・原則に立ち返って設計を行わなければいけません。今回は板金加工のルールについて解説します。
板金加工の設計ルール
板金設計とは、1枚の板を曲げたり切ったりして製品を作成します。そのため、設計データは、展開した時に1枚の板にならなければいけません。展開時に材料同士がぶつかっているなど、データ上では問題なくても物理的に破綻している形状では製作不可となってしまいます。
たとえば、3Dではなんとなく成立しているような気がしても、展開してみると真ん中に突き出た部分があるとします。そうなると、この部品は展開しても1枚の板になりませんので、実際に作る事はできません。
曲げのルールなど加工上の制限を守る
展開した時に1枚の板になっていればどんな形状でも製作できるわけではありません。機械を使って金属板を加工していく以上、加工上の制限やルールが存在します。
加工上の制限
試作では、レーザーカット、ブレーキプレス、タレットパンチプレスなどで板金製品を製作します。
レーザーカットとは、レーザー光を照射して金属などの材料を求める形状に切断したり、穴をあけたりする加工方法です。
ブレーキプレスとは、ステンレスや鋼板・アルミなど、薄い板金素材を曲げる板金機械です。
タレットパンチプレスは丸形や四角形の金型を使ってアルミやステンレスを打ち抜く板金機械です。
量産ではプレス金型などを用意して製作しますが、これらの加工機で問題なく作れる形状にしあげなければいけません。
曲げのルール
板金の曲げ半径は最も内側部分の半径であり、曲げる時には曲げの内側は圧縮されるので最小となります。曲げ部分外側の寸法は曲げ加工によって引き延ばされるため、曲げ加工前の寸法に比べて長くなってしまいます。
よって、部品を並べて組み立てる場合などには曲げ部分外側のふくらみを考慮して設計する必要があります。具体的には、板厚の約15%がふくらみにより増える寸法の目安とされています。
また、穴が曲げに近すぎると一緒に変形してしまいます。曲げ部と穴の距離は次の方程式が最低基準とされています。
曲げ部と穴の距離=板厚×1.5+曲げ半径r
これ以上近くなると穴が変形してしまいますので、公差の穴の場合は特に+1.0開けておくと安全です。
上級になるとこのルールから外れた設計もありますが、これらのルールに注意し守るようにすれば大きな問題は起きないでしょう。
板金加工の種類
板金加工のルールを守るためには、板金加工の種類を知っておくといいでしょう。板金加工は、工場板金技能士・建築板金技能士の区分に従うと、以下のように分類できます。
建築板金
1つ目は「建築板金」です。
建築板金は、建築構造物を板金加工で作成します。主に手で加工し、内外装板金、ダクト板金があります。内外装板金は以下の通りです。
・外部部材…屋根、外壁、雨樋、外装など
・内部部材…ダクト、キッチンのシンクなど
たとえばダクトの場合、建築板金は空調経路を構築する配管などの施行に利用されます。油汚れの多い厨房などは、ステンレスを用いることで、清掃がしやすく錆びにくい美観を保つことができます。主に薄い亜鉛鋼板を使用し、接合に溶接を用いることはほとんどなく、シーミング(ハゼ組)という手法を用います。シーミングとは、材料の縁を曲げて絡ませながら接合させる技術です。
主に使用する材料は以下の通りであり、厚さ1mm以下の板材が利用され、施工後に塗装が行われることはありません。
・ガルバリウム鋼板:アルミ55%、亜鉛43.4%、シリコン1.6%の合金層を重ねた鋼板。耐熱性、耐食性、加工性が高い
・亜鉛めっき鋼板:亜鉛めっき加工された鋼板。亜鉛鉄板、トタン板とも呼ばれる。サビや変色に強く、亜鉛が鉄の腐食を防ぐ
・ステンレス鋼板:鉄中にクロムを12%以上添加した高合金鋼。耐食性、耐熱性、デザイン性、強度が高く、加工・メンテナンスがしやすい
曲線や円形といった複雑な形状にも対応できるため、住宅などの小規模な建築物から美術館やドームなど大スパンを必要とする大型建築物など、様々な建築において建築板金が使われています。
工場板金
2つ目は「工場板金」です。
工場板金は、さまざまな工業製品に使われる製品・部品を、板金加工で作成します。
工場板金の代表的な製品は、工場内部の機械カバーです。単品生産なので、図面や展開図の作成は個別に行います。板金加工では、金属板を折り曲げて製品の形状にするため、展開図を描かなければいけません。
三次元形状を作る場合、手加工と機械板金に分かれます。主に利用されている製品は以下の通りです。
・手加工:モーターショーなどに展示されるコンセプトカーの外板や、列車の先頭部分など
・機械板金:スチール家具や書棚などの量産品
手加工は曲げ板金や打ち出し板金などです。
機械板金は機械で数値制御で加工を行うため、精度に優れ、大量生産が可能となります。板厚1mm以上の鋼板が利用されることが多く、加工後に塗装や接合などの処理を行います。
板金加工の本質
板金作業の基本的な工程とは、薄い板状の金属材料を平面で切断し、立体形状へ曲げていきます。加工の際、治具の間に挟んだ板金材料を、人間の腕の力や、機械の力によって変形させます。
【一般的な板金加工の流れ】
①板材
②シャーリング加工(板金の素材を任意のサイズに切断する方法)
③タレパン加工(タレットパンチプレスの略称で、金属の板を撃ち抜いて加工する方法)
④ブレーキプレス(圧力をかけて金属の板を曲げる加工方法)
⑤スポット溶接(溶接したい2片の金属母材を上下から電極で挟み込み接触部を電極で加圧する方法)
⑥穴開け・研磨
⑦洗浄・塗装
建築板金や工場板金など、用途や加工特徴を表現しただけであり、基本的な工程は同じです。材料や道具が異なるだけで加工現象には多くの共通点があります。
板金加工とは、目的を満足に果たすための機能を持った製品を作るための手段です。しかし、形を作り上げただけではそのような製品は作ることができません。
どのように材料を変形させ、それが材料や製品形状にどのような影響を及ぼすか確認することで、目的に沿った製品を作り上げることができるからです。
狭い範囲にこだわるのではなく板金加工全体に目を向け、本質を理解する必要性があります。そうすれば、ルールを守った製品設計のアイディアにも繋がるでしょう。
板金加工の曲げ加工ルール
板金加工において曲げ加工は、板金製品や部品を形作るうえで最も基本的で重要な加工法です。
曲げ加工は基本的にベンダーという曲げ加工機を用いてプレス加工します。
ベンダーはダイとパンチから成り立っています。
・ダイ:金型を上下に分類した場合、下の金型に当たるもの
・パンチ:ダイに対して圧力を加える部分で、上側の金型
ダイの上に板金を設置し、そこへ上からパンチで圧力を加えることによって板金を曲げます。そのため、加工対象がダイの両端に載らない場合など、曲げ加工ができない形状があります。
パンチの形状によって曲げ部分の形状や曲げRに影響を及ぼします。
曲げRとは、曲げ加工の時に曲げた位置にかかる半径Rのことです。曲げRが小さいということは、曲げ部分の角がより鋭利になり、大きいと曲げ部分が丸味を帯びます。
曲げ加工は単純な加工法ではありません。曲げ加工の品質・精度を高めるためには曲げる際に、最小曲げ半径、展開時の寸法(展開長)、曲げ部と穴の距離以外にも、いくつか注意点やルールがあります。
無理な加工を行わず、左右の板金材料の大きさのバランスを取る
1つ目は「無理な加工を行わず、左右の板金材料の大きさのバランスを取る」ことです。
せん断後に曲げ加工を行うと曲げによる板厚方向への圧縮も加わり、異なる応力状態が境界線なく隣接した状態になります。
また、せん断された部分には引張力が残り、加工硬化も生じます。そのため、複雑な応力状態と加工硬化により曲げ線をせん断線上に配置すると割れ・ずれが生じます。
さらに、曲げ線の左右で板金材料の大きさが極端に異なると、大きい方の部品に曲げ線が引きずられてしまい、曲げ線がずれやすくなっています。
この場合解決策は以下の通りです。
・異なる応力状態を隣接させない(無理な加工はしない)
・左右の板金材料の大きさのバランスを取ること
スプリングバックは曲げの精度・品質を保つ上で非常に重要
2つ目は「スプリングバックは曲げの精度・品質を保つ上で非常に重要」なことです。
スプリングバックとは、金属の弾性力によって曲げ角度がベンダーの金型に比べて小さくなってしまう現象を指します。何故なら、曲げ加工によりパンチに圧力を加えられた板金は、パンチが離れた後、弾性力によってわずかに戻るため、曲げ角度がベンダーの金型よりも大きくなってしまうからです。
スプリングバックによる板金のはね戻りは、わずかな曲げ角度や寸法の差が、板金加工製品においては非常に大きな差になるため、製品や部品の完成時の寸法に影響を与えます。
スプリングバックに対する解決策は以下の通りです。
・80~90度の間で曲げ、その後、一旦圧を緩めて意図的にスプリングバックを起こした後、パンチを上げず再度加圧する
・ストライキングというパンチでくぼみ部分を材料に食い込ませる
・加工材にV字のくぼみをつけ、曲げ位置と直角度を安定させる
・曲げ線の上や根本にリブ(三角状の補強部材)を付け曲げ強度をアップさせる
まとめ
板金加工のルールについて解説してきました。以下、まとめになります。
・板金加工設計は、展開時に1枚の板状になる必要があり、データでは出きているように見えても実際に物理的破綻形状では製作不可になる
・本質を理解することで、ルールを守った製品設計のアイディアに繋がる
・曲げ加工は板金加工において基本であり、重要加工方法なので様々なルールや注意点がある
板金加工は1枚の板であればどんな形状でも製作できるわけではなく、板金加工には加工上の制限やルールが存在します。
トラブルを起こさないためには、板金加工の種類を把握し、ルールに注意し守るようにしましょう。