製造業に必要不可欠なPEST分析とは? 外的要因を分析して正確な現状把握と正しい経営戦略を立てよう!
時代の変化に適応できる企業であり続けるためには、市場の動向を適切に見極めて、成果につながる事業戦略を考える必要があります。また、業種によっては競合がたくさんあるため、他社と差別化を図ることでどう生き残るかを考えることが重要となってきます。
そのためには、製造業をはじめ、経営戦略をより強固なものにしていくには自社や業界を取り巻く環境変化の把握、つまり定期的な「環境分析」をおこなう必要があります。環境分析とは、企業の内外の経営環境を分析することです。環境分析に適したフレームワークとして「PEST分析」が挙げられます。今回は製造業とPEST分析について解説します。
PEST分析とは
PEST分析とは、マクロ環境要因である4つの外部環境要因の頭文字から取った今後の経営戦略を立てるときに活かすフレームワークのことです。
マクロ環境要因とは、企業にとって統制不可能、つまり業界内の各企業とは無関係に起こっている外的要因のことを指します。これらをもとに企業が置かれている状況を客観視すれば、社会的なニーズや市場の変化を予測した戦略を考えられるようになります。PEST分析の4つの観点は以下の通りです。
Politics/Political【政治・法律的環境要因】
PはPolitics/Political【政治・法律的環境要因】です。
法律改正・政権交代・外交・裁判制度・判例など国や地方自治体レベルの決定事項が企業に及ぼす影響のことです。政治・法律的環境要因は企業では制御できないのが前提条件です。企業活動に多大な影響を与えるため、企業は常に法律や税制の改正動向を注視する必要があります。
政治の状況にも事業に関連するものとそうでないものがあるため、効率的に分析を進めるためには、関連性の高いものに絞って情報を集めることが重要です。
ただし、自社ビジネスにおける影響値の少ない政治動向についてまでキャッチアップしないようにしましょう。分析の手間が膨大なものとなり、非常に非効率になってしまいます。たとえば「受動喫煙防止条例の制定」は、JTと飲食業界以外のビジネスではほとんど影響を受けないでしょう。そのため、どの情報を収集するのか取捨選択する能力が求められます。
政権交代や新たな法律が施行された場合、その事象が市場や自社に対してどのような影響を与えるのかを事前にシミュレーションできるようにしておきましょう。
Economy/Economical【経済的環境要因】
EはEconomy/Economical【経済的環境要因】です。
GDP成長率の増減や消費の動向・失業率・日銀短観・株価・金利・為替レートの変動・鉱工業指数など、景気動向や投資環境、国の財務体質が企業に及ぼす影響のことです。
「自社が展開している事業領域においてはどうなのか」という点に着目して景気、雇用、賃金、消費動向を注目すると情報収集の効率が良くなります。
経済的環境要因の定義は幅広く、情報を収集するには、人材採用や派遣をしている企業の場合、厚生労働省が発表している「若年者雇用実態調査」、日用品を販売している企業の場合は、総務省が提示している「消費動向指数」といったデータを用いると良いでしょう。
Society/Social/Cultural【社会的環境要因】
SはSociety/Social/Cultural【社会的環境要因】です。
文化の変遷・人口動態・教育・宗教・世間の関心など、社会環境や消費者のライフスタイルの変化が企業に及ぼす影響のことです。
少子高齢化やリモートワークの推進といった変化が起こると、需要が変化して新たな事業展開が求められたり、既存事業の撤退が必要になったりするケースがあります。タイムリーに社会の動向に対応することで、市場で有利な立ち位置を獲得しやすくなります。
しかし、その事象が「自社にとって」どんな影響があるのか、そしてそれを踏まえてどう対策を立てるのかまで考えなければ、PEST分析を行う意味がないといえるでしょう。
Technology/Technological【技術的環境要因】
TはTechnology/Technological【技術的環境要因】です。
製造工程・製品技術や広告手法などが技術革新によって変化し、企業に及ぼす影響のことです。
新しいテクノロジーは、今後の消費者の生活や事業の進め方に大きく影響する部分といえますので、この領域は特に着目すべきです。
デジタル化、クラウド化、AI、ドローンなどの新しいテクノロジーを実際の事業に活用する際には、どれだけの現実性があるのか、一過性の流行ではないのかを見極めることが必要となります。すでにある技術、市場を攻めるほうが確実性は高いので、冷静な判断による最新技術の調査・想定・分析・テストをして、自社のマーケティング戦略に組み込んでいく必要性が求められます。
PEST分析が必要とされる場面
PEST分析をおこなえば、コントロールが難しい外部環境の分析ができるため、企業が受ける影響や市場の変化を考えつつ取り組むべき施策を考えることができます。そのため、PEST分析は「適切な経営戦略の策定」に最も適しているといえます。
自社が置かれている現状を正確に把握し、正しい経営戦略を立てる際に効果を発揮するため、特に会社設立時や新しいビジネスの立ち上げ、既存事業の方針を大きく変えるなどの転換期に必要といえるでしょう。
マクロ環境は企業へ与える影響が大きく、PEST分析は今後のビジネスモデルを定めていくためには必要不可欠といえるでしょう。
成長機会やリスクの見極めに失敗しないように、PEST分析を行う事で世の中の変化を見つめ、トレンドを味方につけ、先手を打ったシミュレーションを常に行うようにしましょう。
また、企業の都合でPEST分析をするのではなく、法改正や社会経済に影響を与える出来事の発生など、「社会のトレンドが変化するタイミング」で分析することも大切です。
時代の流れに応じてタイムリーな分析ができれば、外部環境の変化に合わせて柔軟に事業方針を転換できるようになるでしょう。
PEST分析で大事なこと
PEST分析を行うにあたって大事なことは以下の通りです。
客観的な事業の分析 一般的な環境を分析するのではなく、自社に関わる環境を見る
現在と未来の分析 頻繁な事業戦略の変更はブランドイメージが固定しづらく無駄な動きが生じるため、現在だけではなく何年か先の未来を予想する
分析がゴールではない 環境を分析・理解するだけでは効果は出ないので、環境に対して何をすれば効果的なのか、事業に対しての戦略を練り実行する
実施後の改善 戦略を実施したら定期的に効果を検証し、予想した効果が期待できない場合は何が問題なのか抽出し、新たな改善案を考察し実施する。
また、期待通りになってもそこから改善し、さらに利益を追求しなければ経営とはいえない
製造業におけるPEST分析
製造業界は常に激しく変化し続け、内部環境はもちろんさまざまな外的要因から影響を受ける業種です。製造業におけるPEST分析を具体例として自動車業界で解説します。
・現在のトレンドと課題を網羅的に考える
・現在起こっていることから、起こりうる未来を描き、自社の戦略を再検討していく
上記の点に気を付けて、外的要因を挙げていきます。
PEST 外的要因
Politics(政治) ・2018年にエコカー減税が見直され、今までは減税の対象だった車も対象外になるなど縮小幅が大きくなり、軽自動車やコンパクトカー、ハイブリッド車の売り上げは減少傾向
・経済産業省がかかげるEV普及目標
・飲酒運転の厳罰化が進み、今後さらに厳罰化予想
・国土交通省に「自動運転戦略本部」が設置され、警察庁でも自動運転が検討化
Economy(経済) ・半導体不足
・新型コロナウイルス感染再拡大による部品供給の停滞継続
・失業率増加
Society(社会) ・若者の車離れが進んでいる
・所有よりも「シェア」の需要が伸びるかもしれない
Technology(技術) ・自動運転技術の開発が進んでいる
・自動運転の法的な整備進行から、各自動車メーカーが自動運転技術に注力するのではないかと予想
・国内主要自動車メーカーも独自の方針を発表するなど、電気自動車の開発競争激化と予想
・IT技術の向上により、C to Cのカーシェアリングがより簡単に行なえるのではないかと予想
この分析結果からわかることは以下の通りです。
①自動車産業としては、今後扱う自動車は軽自動車以外の乗用車に重点を置くべきなのかと、検討することができる
②採用率が低く失業率が高くなれば車などの大きな買い物への出費には消極的になり、国内での販売量が低下することで、グローバル生産を強化するなど販売チャネルを見直す機会になる
③若者の車離れが進んでいることから新たな移動手段確立が求められているなど、現状の分析とトレンドを知ることで、マネタイズの方法や今後市場に投下する車種やデザインに反映することができる
④電気自動車開発競争激化には、経済産業省がかかげるEV普及目標などの政治的要因や、グローバル生産や貿易といった経済的要因なども関係していることがわかる
⑤電気自動車の開発競争激化から、カーシェアリング導入に力を入れる、新たな移動サービス開発に力を入れるといった戦略を考えることができる
⑥カーシェアリングを導入することで、自動車を維持・管理するコストを抑える必要が求められてくる
まとめ
製造業とPEST分析について解説してきました。以下、まとめになります。
・PEST分析とは、マクロ環境要因である4つの外部環境要因の頭文字から取った今後の経営戦略を立てるときに活かすフレームワークのこと
・PEST分析は、正確に現状把握し、正しい経営戦略を立てる際に効果を発揮するため、会社設立時や既存事業の方針を大きく変えるなどの転換期に必要
・PESTの各領域は、まったく分離しているわけではなく、複数の領域で関連しあいながら進んでいる
複数の領域で関連し合いながら進行していく外的要因をPEST分析するということは、各領域を有機的に捉え、そこから取るべき道を選択することが求められるといえるでしょう。製造業は特に外的要因から影響を受ける業種です。そのためPEST分析を使って、社会情勢や世の中の動きを敏感に察知し、収集する情報を取捨選択し、新しい企画を立ち上げる時や業界内で大きな出来事や変化があったときに役立てましょう。