製造業を変革させる3Dプリンター! 経営に多くの選択肢とメリットをもたしてくれるツール
製造現場ではコスト削減や品質向上が求められる一方、複雑化する生産工程や多品種少量生産等の理由で、生産プロセスの改善による大きな効果は得られにくくなっています。
3Dプリンターは製造業において納期短縮や効率化、コストダウンだけでなく、製造プロセスをも変革させるものとして期待されつつ誕生しました。これまで外注に頼っていた工程を内製化することによって製造コストの削減を実現し、製造現場だけでなく企業全体の経営に波及するような価値が生まれています。
3Dプリンターは自動車、家電、消費財などのモノづくり業界だけでなく、映画での小道具や衣装、博物館のレプリカなど、活用の場はどんどん広がっていっています。
さらに人体に影響のない医療用素材でも出力が可能になり、血管や骨の手術への実用化も研究が進められ、実際に補聴器や歯型、義手・義足など医療用途でも導入がスタートしています。あらゆる工程に3Dプリンターは使われ始めているといってもいいでしょう。今回は製造業と3Dプリンターについて解説します。
3Dプリンターとは
従来、プリンターといえばインクジェット式やレーザー式など図形や文字を紙に平面でプリントアウトするものでした。しかし、3Dプリンターは3つの次元(縦・横・奥行)を表現しながら、コピー元と同じ立体物を造形する事が出来ます。
造形は3DCADや3DGCなどの3次元データをPCなどで作成してから行われます。
3Dプリンターの基本構造は「レイヤーバイレイヤー」と呼ばれる積層技術にあります。従来、モノを作り出すには「切削・掘削」という形成方法を行っていましたが、積み上げる「積層」方法にシフトすることで、加工形状への制限がなくなりました。これにより、従来不可能だった中空形状、複雑な内部サポート形状といった「一体造形」が可能になり、設計プロセスの飛躍的な改善が期待できるようになりました。
プラスチックやゴムなどの樹脂素材からチタン・銅といった金属素材など、造形方式によりますが、様々な素材を扱うことができます。よって、試作品やモックアップ作成だけでなく、金型・治具・最終品の製造など、幅広い用途に対応可能です。
3Dプリンターの主な造形方式は様々であり、その特徴と活用方法を説明します。
粉末焼結積層造形方式(SLS法)
1つ目は、粉末焼結積層造形方式です。SLS(Selective Laser Sintering)法とも呼ばれます。
ステージ上にある粉末にレーザー光線を照射して焼結する方法です。
できあがった造形物は、表面に粉末特有のざらざらした質感が残るものの、優れた耐久性を持ちます。金属素材を使用して造形できるという特徴があります。複雑な形も簡単に作れますので、表面の質感が気にならないようでしたら、最終品の製造にも利用することができます。基本的には試作品や大量生産の前段階のテスト製造に用いられます。
2014年2月に特許が切れていますので、現在ではこの方式の廉価版が続々登場しています。
光造形方式(STL法)
2つ目は光造形方式です。STL(Stereo lithography)法とも呼ばれます。
光硬化性樹脂に紫外線を照射して立体物を出力します。
樹脂は液状のため、粉末焼結積層造形方式にあった表面のざらざら感もありません。精度が高いため、形が複雑な立体物を造形する場合に活用されています。
また、大きな模型が作れるため、自動車のモックアップを実寸で出力する事もできます。ただし、日光が当たる場所に置くと硬化が進みますので、長期使用には耐久力が弱い造形方式です。
古くから用いられている造形法であり、日本人の手によって編み出されました。
インクジェット方式
3つ目がインクジェット方式です。
インクジェットプリンターの原理を応用した造形方式です。光硬化性樹脂をインクジェットヘッドから噴射して紫外線を照射しながら積層していきます。複数の素材を任意の配合率で混合することにより、カラーや物性の選択肢が飛躍的に増加し、積層厚16ミクロン(0.016mm)の高精度で滑らかな表面をもった(最終製品に限りなく迫る)リアルなプロトタイプの造形が可能です。
液体樹脂を使用していますので、光造形方式同様、非常に高精度な模型を出力できるうえ、1,000種類以上の物性とカラーを再現できるモデルもあり、デザイン検証に最適です。インクジェット特有の高解像な試作品ができあがります。
【造形の仕組み】
インクジェットプリンターに似た構造を持ちます。
ノズルから光硬化性の液体フォトポリマーを噴出し、即座にUVライトで硬化させモデルを造形。
噴出する粒子が非常に細かいため、表面の質感が滑らかで、小さく複雑な形状を得意とします。
熱溶解積層方式(FDM法)
4つ目は熱溶解積層方式です。FDM(Fused Deposition Modeling)法とも呼ばれます。
ABSやポリカーボネートなどの固形の熱可塑性樹脂をヒーター部で半液状に溶かし、CNC制御された3次元座標上に出力し積層していきます。化学薬品や粉末状物質を使わないため、環境にやさしくオフィスでも使いやすい特徴があります。
溶かした素材を利用するため、断層部分が目立つため、表面は滑らかとはいえません。しかし、素材が安価ですので、コストパフォーマンスは高くなります。
2009年に特許が切れたため、一般消費者向けの安価な3Dプリンターで主流の方式となっています。
粉末接着方式
5つ目は粉末接着方式です。
粉末と接着剤を交互に吹き付けて層を積み上げることで立体を造形します。
石膏粉末を使用しているため非常に壊れやすいです。しかし、仕上げに硬化剤を塗布すれば、ある程度の強度を保つことができます。接着剤に着色インクを混ぜれば、発色させることも可能です。そのため、フルカラーの建築モデルやフィギュアなどの造形に適しているといえるでしょう。
3Dプリンター導入のメリット
3Dプリンターを導入する事で様々なメリットがあります。導入する事で発生するメリットは次のようになります。
コスト削減
導入による1つ目のメリットはコスト削減です。
製造業の量産プロセスにおいて直前の金型の作り直しはコストが非常にかかるため、絶対に避けたいトラブルといえるでしょう。
3Dプリンターを導入すれば、最終品と同等の試作品を作って確認することができ、図面や設計図からはわからなかった問題点や課題に気付けるため、金型の再製作コストを減らすことができます。
また、3Dプリンターは複雑な形状でも再現できるため、最終品の製造においてパーツや部品点数の削減が可能となります。従来20種類もの金属パーツを組み合わせなくてはならないものも、ひとつの部品として造形することができるのです。つまり、金属パーツ20個分のコスト削減だけでなく、軽量化も実現することができます。
品質の向上
導入による2つ目のメリットは品質の向上です。
部品同士の組み付けや分解手順を図面や仕様書だけから考えるのは非常に難易度が高く、ミスが出やすくなります。しかし、3Dプリンターで造形した立体物を使って組み付けや分解手順を確認すれば、図面では気付けない問題点も洗い出すことができます。そのため、製品の品質向上に繋げる事ができます。
また、手作業によるパーツ組立はどうしても品質が安定しない原因となっています。特にパーツや部品点数が多い製品の組立は、作業補助するための治具も多いです。設計変更が生じた場合、治具の再製作まで手が回らず、古い治具を使わなければいけないという状況が多発していました。しかし、3Dプリンターを製造工程に組み込めば、人為的なミスや誤差を抑える事ができ、治具も簡単に手直しして作ることができるため、製品の品質を安定させることができるでしょう。
開発期間の短縮
導入による3つ目のメリットは開発期間の短縮です。
試作品を製作するためには外注し、何週間も仕上がりを待たなければいけませんでした。金型も製造プロセスには何段階も工数があり、非常に時間がかかります。しかし、3Dプリンターがあれば、気軽にデータを改良して試作品を製作する事ができるので、試作品に不具合が見つかっても最小限の追加工数で試作品の再製作ができます。そのため、試作品製作時間も大幅にカットされ、全体的に開発期間の短縮化が可能です。
在庫管理が容易に
導入による4つ目のメリットは在庫管理が容易になることです。
製造現場において、各パーツが故障した場合に備えてスペアパーツを用意しておく必要がありました。しかし、3Dプリンターを使えば、3Dデータからいつでもスペアパーツを作り出すことができるため、スペアパーツ分の在庫管理が不要となります。各パーツを改良したい場合も、3Dデータを変更するだけですので、改良前のパーツの在庫数を気にすることなく改良を行えます。つまり、3Dプリンターがあればパーツをモノではなくデータとして管理できるのです。これにより、パーツの保管スペース削減だけでなく、世界各国の生産拠点間でデータ共有をして造形すれば、外国からの輸送も不要になります。
経営戦略のひとつになる
導入による4つ目のメリットは経営戦略のひとつになることです。
従来、土木・建築といった大型建造物のモックアップを作る時、細部まで再現するのはコスト的にも時間的にも困難でした。しかし、樹脂型3Dプリンターを使えば詳細なモックアップを低予算、短時間で作製可能です。微細まで再現できたモックアップでプレゼンテーションを行えば、商談先との意思疎通を効率よく行うことが可能であり、商談のスピードアップにも繋がります。
また家電メーカーの場合、試作品製造に費やすコストやリードタイムは3Dプリンター導入により削減、短縮効果が絶大です。
製造業での3Dプリンターの活用事例
製造業で実際に3Dプリンターが活用されている事例を5つの業種別に紹介します。
自動車分野
1つ目は自動車分野です。
自動車分野では部品製造の一部を3Dプリンターに置き換えることで、次世代型の自動車開発を目指す動きがみられています。
・3Dプリンターでクラシックカー用部品を製造(トヨタ)
・3Dプリンターで量産用アルミダイカスト金型を製造(日産)
・3Dプリンターでシリンダーヘッド試作品を制作(ホンダ)
航空・宇宙分野
2つ目は航空・宇宙分野です。
航空・宇宙分野は気圧や温度といった過酷な条件に対応するため、破損など「絶対にミスが許されない設計」が求められます。
・ボーイング777Xの機体に300個の3Dプリント部品を備えた新型エンジン「GE9X」を搭載し、初飛行(2020年1月25日)(ボーイング)
・火星探査機「ローバー」の部品を3Dプリンターで製造(NASA)
・客室内部品やパイロンに金属3Dプリンティングによる部品を導入(エアバス)
・東京天王洲アイルに3Dプリンターなどのイノベーション体験ができる施設「JAL INNOVATION lab」を新設(JAL)
ロボティクス分野
3つ目はロボティクス分野です。
ロボティクス分野では、パーツ制作での活用が広がっています。3Dプリンターは設計データがあれば製造できるので、ロボットのカスタマイズにも柔軟に対応可能です。
・現場のニーズに合わせた保守用ロボット開発(株式会社イクシスリサーチ)
産業機器分野
4つ目は産業機器分野です。
産業機器分野では、無人搬送機、クレーン、ベルトコンベア、プレス機といった産業機器のパーツ製作に3Dプリンターが活用されています。小型の試作品であれば数時間で製造できるので、試作品開発のスピードを大幅に向上させることができるでしょう。
コンシューマー製品分野
5つ目はコンシューマー製品分野です。
コンシューマー製品分野では、フィギュアやアンティークなどを始めとした活用事例が豊富です。スピーディーな試作品開発のために3Dプリンターを活用している傾向が強いです。
・3Dスキャンで足の計測を行い、3Dプリンターで試作品を製作(アシックス)
・3DCADで魔法ビンを設計し、3Dプリンターで試作品を製作(サーモス)
・3DCADでパチンコ台の部品を設計し、3Dプリンターで試作品を製作(豊丸産業)
まとめ
製造業と3Dプリンターについて解説してきました。以下、まとめとなります。
・3Dプリンターは製造業において、モノづくりを変革する
・3Dプリンターで作られた製品は、試作品だけでなく実用もされている
・3Dプリンターは、ものづくりの幅を広げてくれるだけでなく、経営に多くの選択肢とメリットをもたしてくれるツール
3Dプリンターは使える素材が多様化したことによって、複雑な形の造形物まで出力可能となりました。製造業において、幅広い用途に活用が進んでいる3Dプリンターは、製造プロセス全体を変革する事が可能といえるでしょう。
3Dプリンターの導入費用は、プリンター本体だけで数百万円かかります。金属3Dプリンターに至っては、購入に数千万円以上、年間の保守費用は数百万円に上ります。機械は大型ですので、設置場所への配慮も必要です。導入を検討する際には3Dプリンターの価値や事例を確認し、コストや製品がどの方式に合っているかをよく精査して計画を立てる事が重要です。これを機会に導入を検討してみては如何でしょうか。