5Gと聞くと、スマートフォンを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。実はこの5Gは製造業においてもとても重要な役割を果たしています。5Gによって工場の無駄な工程が機械によって行われ、人にしかできない作業に人員を割くことができます。5Gを活用することによって、製造業が抱えるスマートファクトリー化は増々進展する事ができるでしょう。今回は製造業と5Gについて解説します。

5Gとは

5G(第5世代移動通信システム)は、LTEを含む4Gに置き換わる次世代のシステムです。
スマートフォンやタブレット端末のみならずIoTをはじめ、法人向けの情報機器にも利用可能な通信システムの事を指します。
5Gの特徴は次の3つです。

①超高速化:通信速度が速くなり、解像度の高い動画配信など、容量の大きなデータをストレスなく送受信可能
②超多数同時接続:一定の面積内でより多くのデバイスの同時接続が可能
③超低遅延:通信の遅延が非常に短縮可能

5Gと4Gの違い

5Gは4Gに比べ、通信速度・同時接続数・遅延速度が大幅に改善されています。

 

 

4G

5G

通信速度

1Gbps

20Gbps

同時接続数

10万台/1㎢

100万台/1㎢

遅延速度

10ms

1ms

 

5Gの通信速度は4Gの10倍、接続機器数は4Gの10倍、遅延は4Gの10分の1です。

製造業における5Gの可能性

製造業において、5G活用の具体的な可能性は次のとおりです。
・工場内のリアルタイムモニタリング
・人と生産システムのインタラクションにおける作業支援
・生産設備などの自動化

この三つによって、メンテナンス性の向上や作業環境の最適化、稼働率や生産性の向上、ノウハウのデジタル化(技能伝承)を行う事ができ、結果としてスマート工場の実現が期待できるでしょう。

ローカル5Gとは

5GはPCやスマートフォンなど、コンピューター同士の通信だけでなく、製品に通信機能を持たせることでデータの送受信やビッグデータの蓄積を可能にするIoTの普及にもつながります。

5G導入が進む一方で、5G環境整備は人口が密集した都市部から行われ、生産拠点の多い地方部までカバーするのに時間がかかります。この課題を解決するのが「ローカル5G」というネットワークシステムです。

ローカル5Gとは、通信事業者ではない法人や自治体が特定のエリアや建物・敷地の内部に専用の5Gネットワークを構築する方法です。その企業のみで帯域を利用できるため、安定した通信とセキュリティが確保できる点や、導入時期・設置場所は企業の裁量で決められる点が注目されています。ただし、特定の範囲内で利用を許可された5Gの周波数を割り当てる方式を採用しているため、利用の際には無線局免許が必要です。ローカル5Gは、特定のエリアで5Gネットワークを利用できるため、工場での活用が見込まれています。

ローカル5Gの事例としては次の通りです。
・産業機械のリアルタイムでの遠隔操作や遠隔からの保守点検
・多くの無人搬送車の活用
・工場における無線化が進行すれば、レイアウト変更がしやすくなるため、柔軟な製造ラインの構築が可能

各産業分野や地域の個別ニーズに対応し、柔軟に構築・利用が可能ですので、製造業だけでなく医療機関など、様々な場面で現場の作業支援へ期待できるでしょう。

総務省は2019年12月17日に「ローカル5G導入に向けたガイドライン」を策定し、24日にローカル5G無線局免許の申請受付を開始するなど、本格的な整備が進んでいます。

5Gとローカル5Gそれぞれを活用することで、製造業内でのIoT化はますます加速していきます。従来の製品にも通信機能を組み込み、さらに利便性の高い製品が登場するかもしれません。

Wi-Fiではなく5Gであるべき理由

工場の生産性をより高度化するために、ネットワークをWi-Fiではなく、5Gでなければならない理由は3つです。

スムーズにハンドオーバーができる

1つ目の理由はスムーズにハンドオーバーができる事です。
ハンドオーバーとは交信する基地局の切り替えのことで、ハンドオーバーがスムーズに行われなければ通信が途切れ、産業用ロボットの制御に影響が出てしまいます。
産業用ロボットは移動しながら使用するため、届くエリアが狭く複数のアクセスポイントが必要なWi-Fiよりも、少ない基地局で広いエリアカバーができる5Gの方が、基地局を切り替える必要がなく、安定したロボット制御が可能となります。

セキュリティが強い

2つ目の理由は、セキュリティが強い事です。
ローカル5Gは外部のネットワークと独立しているため、Wi-Fiよりも認証工程が多く、セキュリティが高いのです。

Wi-FiはSSIDとパスワードのみで認証が行われます。一方ローカル5GはAPN(Access Point Name)とパスワードに加え、SIMカードによる認証も行われます。SIMカードの情報は書き換えが不可能なので、どの機械が5Gに接続しているかがすぐにわかります。

Wi-Fiと帯域を分けられる

3つ目の理由は、Wi-Fiと帯域を分けられる事です。
Wi-Fiを工場内に使用している企業は、ある程度帯域を消費しているため新たにIoTやAIを導入するとシステムが停止する可能性があります。しかし、ローカル5Gであれば帯域を分ける事ができ、LANケーブルを追加しなくても新たなシステムの導入が実現できます。

製造業で5Gを活用すればより働きやすい環境へと変革できる

製造業において5Gを活用すれば、生産ラインが最適化され、人に代わって機械が業務を行える範囲が広がっていき、効率化や安全性が向上していきます。すると人手に頼るところが大きく、安全面や労働環境の課題も大きかった製造業がより就業しやすい環境へと改善されていく事が期待できます。

工場内の設備機器や人手による作業化を自動化し、IoTを活用して集めたデータを収集して分析することで、作業のムダを省き、製造した製品を素早く流通へと受け渡せるようにする仕組みをスマートファクトリーといいます。人手不足や少子化に悩まされている製造業において、このスマートファクトリー化が課題となっています。スマートファクトリーを行えば、従来人が行っていた業務を機械や通信設備に委ねることで、業務改革が可能となるでしょう。

5Gはスマートファクトリー化を加速する事ができます。
5Gは膨大な通信料量と安定した通信速度で通信規格による制限があった生産ラインのレイアウトを最適化しやすくなります。そのため、機械に作業を代行させることで無駄な作業を効率化させ、人間にしかできない業務に人手を集中させられるようになります。

また、産業用ロボットを導入した遠隔制御や自動制御、設備機器のメンテナンス時期を予測して早期に対処することができます。あるいはIoTで収集・蓄積したデータを活用してさらに利便性の高い製品やサービスを提供するなど、生産性の向上も実現できます。

インダストリー4.0

製造業界は「インダストリー4.0」に向けて世界的に動き出しています。

インダストリー4.0とは、デジタル技術の活用によって製造プロセスを変革する趣旨の新たな産業革命の事であり、ドイツ政府が発表したハイテク戦略の中のプロジェクトに由来します。日本でも総務省やさまざまな大手企業が基盤づくりに取り組んでいます。

インダストリー4.0を構築するためには、5Gの活用が不可欠とされており、すでに日本国内で企業が5Gと連携して取り組んでいる実証実験や、具体的な5G活用想定の代表的な例をご紹介します。

ハード面とソフト面の整備

1つ目は、ハード面とソフト面の整備です。

ファナック・日立製作所・NTTドコモの3社は、工場やプラント内で5Gを活用した完全無線通信化や生産効率向上を目指す共同検証を開始すると発表しています。
・NTTドコモ:通信回線を提供
・ファナック:自社工場で産業機器間の5G接続および無線制御の検証
・日立:制御ネットワークへの適用性検討や高精細映像のリアルタイム共有などによる遠隔保守作業支援の検証

この共同検証から、ハード面(産業設備)とソフト面(制御技術やITソリューション)の両方の側面から整備を進めていく重要性を読み解くことができるでしょう。

熟練者の作業を分析・活用

2つ目は、熟練者の作業を分析・活用する事です。

オムロン・ノキアソリューションズ&ネットワークス・NTTドコモの3社が発表した共同検証の一つとして、オムロンの工場内において熟練者の作業を分析・活用する実証実験が挙げられます。
・従業員の作業風景を撮影し、AIによって従業員の熟練度の違いを分析
・若く経験が浅い従業員に対して5Gを使ってリアルタイムに作業の指示を出すことで、現場の作業効率を高める

これらにより、現場に蓄積されたノウハウの伝承をAIが行い、人材育成が充実するとされています。

機械部品の異常検知

3つめは機械部品の異常検知です。

2019年12月、THK・NTTドコモ・シスコシステムス・伊藤忠テクノソリューションズの4社が開発に携わった製造業向けIoTシステム「OMNledge(オムニエッジ)」が正式に受注を開始することが発表されました。
・部品にセンサーをつけて状態を見える化する機能を提供し、独自のアルゴリズムと豊富なバックデータで異常予兆の検知
・センサーやエッジコンピューティングルーター、通信用回線、IoT基盤構築や運用支援などの複合的な要素がパッケージングされている
・ゆくゆくは5Gによる完全無線化を実現

まとめ

製造業と5Gについて解説してきました。以下、まとめになります。

・5Gは4Gに比べ、通信速度・同時接続数・遅延速度が大幅に改善されている
・5Gはスマートファクトリー化を加速する事が可能
・製造業で5Gを活用すればより働きやすい環境へと変革できる

5Gは高速大容量・低遅延・多接続を実現し、スマートファクトリー化を推し進めていくでしょう。Wi-Fiと比べて広いエリアをカバーでき、セキュリティにも強いため、ローカル5Gを工場に導入する事ができれば、更なる生産性の向上が期待できそうです。
5Gとローカル5Gをうまく使いこなすことによって、製造業はますます発展していくでしょう。