製造業がAIを導入すれば抱えている課題を解決可能?成功事例も紹介
現在、製造業は様々な問題を抱えています。人手不足や従業員の高齢化、次世代を担う若手の減少などにより、工場の安全性やベテランが蓄積してきた技術力やノウハウを次世代や外国人を含めた多様な人材に継承していくことが課題となってきています。限られた人数でいかに安全性、効率、コストを意識した事業運営ができるかを製造業界全体が問われていると言ってもいいでしょう。
例えば、作業ミスが発生している現場では、よりチェックや指導体制を強化しなければいけません。しかし、人材不足のためその体制が十分に機能していない場合、競争の激化によって複雑な業務プロセスでの稼働を増やしたとしても、ミスが多発していては結果として生産性の低下を招くことになります。この場合、早急な業務改革が望まれるでしょう。
このような製造業の現場で普及が拡大し、更に今後も活躍を期待されているのがAI技術です。AI(Artificial Intelligence/人工知能)技術導入により、生産性の向上や安全性の確保といった具体的な成果を挙げ、IoT(モノのインターネット化)との相乗効果により、様々な成功事例が挙げられています。
何故、製造業にAI導入なのか
生産性の向上はどの企業にも当てはまるテーマです。製造業においても収益性や成長性を改善するためにAIが着目されるようになってきました。AIが得意とするのはデータに基づき途切れなく作業する事であり、製造業は一定の品質保持と連続作業が生産性や収益性に大きく関わるため、AIとの親和性が高いからでしょう。
しかし、製造業のAI活用度合いはまだ低く、「知見がない」ことと「負担が大きい」ことの2大ハードルが立ちはだかり、導入を踏みとどまっている企業が非常に多い状況です。知見がない、という事はどのような技術を採用するのが最適なのかがわからないという不安の現れでしょう。
AI導入において、どういった技術や手法を選ぶかは非常に重要なポイントです。AIの導入効果をより確実にするためには、技術に知見のあるプロの力を借りるのが得策でしょう。プロの技術をAIに学習させることによって、その技術を他の人にナビゲーションしたり、実行する事が可能となります。
製造業においてAIを利用するメリット
製造業でAIを活用する場合、業務の効率化、生産性の向上が目的となります。そのうえで、AIを利用するメリットは4つです。
①人に頼らず生産計画ができるから労働力不足を解消し、熟練の技を継承可能にする
②製造工程のデータを蓄積することで、様々な生産体制に対応・改善できる
③需要と供給に対して、在庫の自動的な判断を行えるので生産性の向上・コスト削減・適正な人材配置が可能
④設備の予防保全
AIの大きな特徴は、「新たな事象を次々と学習して、精度や対応力を向上させること」にあります。決められた作業を反復するプログラムと違い、学ぶことで状況に応じた判断ができるようになり、短期間で熟練工並みの能力を持つことも可能とします。
AI技術を導入して解決できる製造業界の課題
AI技術を導入する事により、製造業界が抱えている課題に対して以下のような解決方法が考えられます。
①不良品の発生や異物混入を防ぐ
②品質の一貫性を保てる
③手間を大幅削減し、安定したクオリティで検品を高速処理できる
④安全な環境づくりに貢献してくれる
⑤過去のデータ分析を行い、最適な方法で業務効率・作業品質を向上
⑥言語の壁を乗り越え、的確な意思コミュニケーションを可能とする
①不良品の発生や異物混入を防ぐ
製造業の内、特に工場現場は人による作業が多くあります。マニュアルを改善、一人一人の意識を徹底的に教育することでミスを防ぐ取り組みを行っています。しかし、人が作業を行う以上、ヒューマンエラーは避けられません。ミスを完全になくすことは難しく、ミスを防ぐ仕組みづくりが必要となってきます。
AI技術を導入すると、作業員の様子を常時モニタリングし、定められた手順と異なる動作をすれば異常と検知し、アラートを鳴らしてくれます。これにより、作業漏れや手順の謝りを確実に防止する事が可能であり、不良品の発生を抑える事ができます。製造トラブルが発生した場合も作業状況を記録しているため、原因分析ができます。それだけでなく、異物混入なども監視するので、事故の発生リスクを未然に検知してくれるのです。
②品質の一貫性を保てる
工場のラインでは経験年数もスキルも異なるたくさんの人が検査業務や組立業務にあたっているため、品質の一貫性を保つのがとても難しいです。作業員の人的作業に頼ることが多いため、体調不良などによる作業能率が変動するリスクが生じ、品質にばらつきが生じしてしまう可能性があります。
AI技術を導入すると、品質の一貫性を保つことが可能となります。たとえば、人の目で確認してきた良品・不良品チェックをAIが代行することで、人間のように疲労してパフォーマンスが低下したり、作業員の熟練度によって基準がばらついたりしません。また、AIが代行する事により大幅な人員削減も期待できます。
③手間を大幅削減し、安定したクオリティで検品を高速処理できる
製造業において、検品作業は欠かせません。何故なら、不良品や製品の部品が不足した状態で出荷し、市場に出回ると、回収や再発送に手間と費用がかかるだけでなく、信頼を大きく損なうからです。それを防ぐために検品作業は欠かせないのですが、人による目視検査の場合、膨大な作業負担が発生するだけでなく、ヒューマンエラーの危険性は消えないでしょう。
AIの画像診断技術を導入すれば、手間のかかる複雑な検品作業であっても高速に処理できます。セット製品を対象とした複雑な検品であっても、あらかじめ学習させておくことで瞬時にチェック完了です。それにより品番の相違や商品点数の違い、附属品の同梱忘れ等を防ぐことが可能となります。
④安全な環境づくりに貢献してくれる
製造業現場において、作業車の怪我や死亡に繋がる危険は様々な所に潜んでいます。たとえば、ベルトコンベアやプレス機といった大型機械、フォークリフトなどの動力運搬機など、扱い方を誤ったり、注意が散漫になった状態で取り扱うと重大な事故に発展する可能性があるのです。
AIは常時工場をモニタリング可能なので、危険区域への立ち入りや不適切な運転を察知すると警告を発してくれます。また、深層学習により危険予知の精度を向上する事ができ、表示の見落としなどのうっかりミスを未然に防ぎ、安全な環境づくりを可能にしてくれるのです。
⑤過去のデータ分析を行い、最適な方法で業務効率・作業品質を向上
製造業の現場では、時には建設機械のような大がかりなものを扱う工程もあります。その場合、熟練した作業員ならスムーズに運用できますが、慣れていない作業員では非効率となってしまい、時間もコストも余計に浪費してしまいます。
AIは機械学習によって蓄積された過去のデータを分析し、最も効率的な稼働方法を予測します。機械オペレーションの自動化、製造機器の最適条件の予測、故障予知によるメンテナンス時期の最適化、マシンのダウンタイムの削減等、熟練でなくても、過去のデータを元に複雑な方法を再現する事が可能であり、業務効率のアップや作業品質の安定化を向上させてくれます。
⑥言語の壁を乗り越え、的確な意思コミュニケーションを可能とする
製造業では人手不足による外国人労働者の採用増加、更に企業の海外展開を考えると言語の壁を乗り越える対策が求められています。
AIは大量の音声データを処理する事で、方言や言い間違いなども正しく認識・翻訳します。そして、過去のデータを元に学習し、高性能な翻訳能力を提供してくれるので、外国人従業員とのコミュニケーションをサポートし、円滑なやりとりを実現してくれます。専門用語や感覚的で言語化しにくい作業のコツであっても自動で学習してくれるので、高精度な翻訳によってタイムラグなく的確に意図を伝える事ができるのです。そのため、作業効率の向上や良好な人間関係を築くことが可能です。
AI導入により成功した事例
ICT(情報通信技術)の進展などにより、製造業をはじめとして日本企業に強く求められているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。その中でも特に鍵を握ると言われているのがAIです。しかし、AIの導入はハードルが高く、製造業はAIの活用に意欲的ではありますが、要件定義や開発・導入の難しさ、AI人材や予算不足もあり、効果的な取り組みを進められていない企業が多いという現状です。
そんな中、生産工程の見える化だけでなく、データを活用したマーケティングなど、製造業でAI活用にうまくいった事例を紹介します。
事例①アウディ社の活用事例(プレス工場の品質管理をAIで自動化)
アウディ社はドイツの大手自動車メーカーです。プレス工場で製造する部品に発生するひび割れ(クラック)検査に対して、AI活用を取り組んでいます。
導入前は従業員による目視と画像認識ソフトウェアによる内視鏡撮影画像判定で検査をしていました。この2つは大きな手間や時間がかかり、光の当たり方によっては誤判定を起こすといった課題がありました。
そのため、数百万枚におよぶサンプル画像をピクセル単位で確認し、微細なひび割れをマーク。それを学習素材としてAIに学習させた結果、ひび割れを正確に検知し、わずか数秒で検査を完了できるシステム開発に成功しました。
現在、ドイツのインゴルシュタットにあるプレス工場においてシステムの試験を実施し、この検査が全てのプレス工場に展開されれば、製造コストの大幅削減が可能となるでしょう。
事例②サントリー社での活用事例(AIが立案した最適な生産計画)
サントリーは国内大手飲料メーカーです。サントリーは生産と販売の最適化により利益向上とキャッシュフロー改善実現のためにAIを活用しています。
導入前まで、サントリーは経験豊富な複数の従業員による生産計画の立案・変更という人手に頼った方法で気候変化や消費者動向に対応してきました。更に、エリア単位で生産計画を立案してきたため、エリアごとの個別最適にとどまっており、全体最適化した生産計画の立案にまで到達していませんでした。
そのため、サントリーは日立製作所と共同で生産計画立案システムを開発しました。「欠品」「品薄」「過剰」などの在庫状況を自動抽出してAIがタイムリーに生産計画を立案・変更する事で、今まで複数名の従業員が週平均40時間費やしていた生産計画変更作業を約1時間に短縮する事を可能としたのです。
まとめ
・AIを導入すれば人手不足に困らず、技の継承や生産性の向上、安全な職場づくりができる
・AIを導入すれば、製造業の課題を解決できる可能性が広がる
・AIを取り入れた製造業の成功事例はどんどん増えつつあるので、どのAIを取り入れるかきちんと計画を立てたうえで導入すべき
AIは製造業が抱えるあらゆる問題を解決してくれます。AI技術は今後さらなる発展が期待できる分野なので、これから導入を検討する際は過去の導入事例などを参考にして、自社に合った方法を取り入れるのがいいでしょう。