製造業におけるDX事例!多様化する時代に備えてDX導入で課題解決しよう
製造業において、少子高齢化による人材確保や技術継承が大きな課題となっています。さらに顧客の消費行動が多様化する時代を迎え、それに対応しきれていないことも大きな問題といえるでしょう。そうした製造業が抱えている課題の解決策として注目されているのがデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)です。DXとはデジタル技術でビジネスを変革し、価値を創出することです。 DXにより、これまで人手で収集・分析を行ってきた多くの活動の準備や運用作業を自動化することが可能になります。
DXにとって、ITツール導入や書類管理をデジタル化するなどは、製品・サービス・ビジネスモデルの変革をするための手段に過ぎません。
たとえば、紙帳票をデジタル化するだけなら、DXとは言えません。デジタル化したデータを分析して新しい製品を生み出し、工場の生産性をアップさせ、コストダウンやリードタイムを縮小する仕組みが構築されてはじめてDXと言えるでしょう。
DXは世界的なトレンドであり、先進的な企業の中には、AIやIoT、ビッグデータといったIT技術を活用して革新的な製品・サービス・ビジネスモデルを生み出し、大きな成長を遂げる企業も現れてきています。
製造業だけでなく、今後の企業・国家としての生存戦略を考える上で、DXは避けて通ることが出来ない要件と言えるでしょう。
DXが注目を集める理由
DXが注目を集めている理由は3つあります。
① IT技術活用により業務の効率化や自動化を実現し、少ない人員で大きな利益を得られるので、生産性が向上する
② 多岐に変化する顧客ニーズの変化に合わせて柔軟な対応をすれば顧客満足度が向上し、結果として企業としての価値が向上する
③IT人材の引退やサポート終了によるリスクが高まり、最大年間12兆円の損失になる可能性がある「2025年の崖」など、現状維持を選択した場合に起こるリスクを回避
「2025年の崖」の損失は大きく、国力が更に低下してしまうかもしれません。そのため、製造業だけでなく、全ての企業において早急にDXを推進し、リスクに対応しなければいけません。
製造業におけるDX化のトレンド
製造業におけるDX化のトレンドは3つです。
①サービス化
②プラットフォーム化
③スマートファクトリー
①サービス化
製品を提供するだけでなく、その製品を使ったサービスまで提供するビジネスモデルへと変革させる事です。
事例として、建設機械メーカー小松製作所が提供する機械稼働管理システム「KOMTRAX」があります。KOMTRAXは建設機械にIoTセンサーを取り付けることで、機械の位置情報や稼働状況、故障情報、燃料や部品の消耗度合いといった様々なデータを取得し、点検・修理サービスの質向上に役立てるというものです。更に収集したデータを分析し、燃費向上のためのアドバイスなどを顧客に提供する事まで行っています。
顧客にとってメリットが大きく、提供しているコマツにとっても世界中の建設機械の稼働状況に関するデータを収集・分析することで、商品企画や経営判断に役立てることができるので、これは非常に優れたビジネスモデルと言えるでしょう。
②プラットフォーム化
IT技術によってプラットフォームを構築し、受発注や部品調達の領域で新しい価値を生み出す事ができます。
たとえば、株式会社ミスミの「meviy」というプラットフォームは、3DCADデータをアップロードするだけで最短3秒で見積もりや最短即日出荷可能な発注ができるため、金型部品や工具、消耗品などのミスを無くすことができます。meviyにより2D図面を作成する手間も見積もり待ちの時間も削減できるので、短納期で部品調達を行うことが可能です。
部品調達は手間と時間がかかります。しかし、この業務を効率化する事によって、顧客満足度の高いビジネスモデルになっていると言えるでしょう。
スマートファクトリー
スマートファクトリーは、インターネットに接続し、工場内のあらゆる機器や設備をIT技術による自動化や最適化で生産性を高める工場を指します。
生産設備やIoT機器から収集したデータの見える化と、収集したデータを基にしたロボットの自動化ラインの制御が、スマートファクトリーの基本となります。これにより、多岐に渡る顧客ニーズに合わせた多品種少量生産や、需要変動に応じた柔軟な生産が実現可能であり、競争力を高める事ができます。
たとえば、工作機械メーカーであるヤマザキマザックは受注から加工、組立、最終検査までの全工程をデジタルデータ化して、基幹システムと連携するスマートファクトリーへの取り組みを進めています。こうする事によって全体の最適化を実現しています。
製造業のDX事例
DXのデジタル技術の中でも、技術的な発展によって精度をあげたAIは多くの業務に応用されています。また企業の変革に欠かせないツールとしてPRA(Robotic Process Automation)にも注目度が高まっています。
RPAとはPCを用いて行っている事務作業一連を自動化できる「ソフトウェアロボット」のことです。人間に比べ、正確で、作業スピードが圧倒的に早く、休みなく働き続けることができます。しかし、あらかじめ命令されたことしかできないため、アクシデントや例外処理に弱く、(アクシデントや例外処理に)遭遇した場合に作業が止まってしまいます。複雑な事を実行させるには、タスク分解された多工程の命令を与えなければいけません。そのため、RPAは「知識の浅い新入社員」に例えられる事が多いようです。人間が判断を下してRPAが作業をする「人との協働作業」によって真価を発揮します。
DXで大事な事はデジタル技術を用いて課題解決や新しい価値の創造に繋げ、現場の課題に対して技術をあくまで手段として適用させる事です。つまり、DXにおいてAIもRPAも先にある未来のための手段にすぎません。実際に製造業で活用されている例を紹介します。
SaaS型のERPソリューション
NTTデータグローバルソリューションズの支援を受け、株式会社スノーピークはIT基盤にSaaS型ERPソリューションを採用しました。
ERP(Enterprise Resources Planning)とは、企業経営の基本となるヒト・モノ・カネ・情報を適切に分配し有効活用する考え方を意味します。現在では、「基幹系情報システム」を指すことが多く、企業の情報戦略に欠かせない重要な位置を占めています。
ERPのメリットは「情報の一元管理」にあります。点在している企業情報を一箇所に集め、その情報を元に企業の状況を正確かつタイムリーに把握し、経営戦略や戦術を決定していきます。さらに、ITを活用して「業務の効率化」をはかる、他のシステムとの連携によりスピード化を実現する、といった目的の導入も増えています。
海外進出を行っているスノーピークはIT基盤が統一されておらず、事業横断的な活用ができない課題がありました。そのため、英国と米国進出の際にSaaS型ERPソリューションを導入したため、日本から海外の子会社をマネジメントしやすくなりました。
基幹システムとCRMと「Salesforce」の連携
トヨタ自動車は顧客情報を横断的に活用できるよう、オンプレ基幹システムとクラウド型CRMを「Salesforce」と連携させました。
CRM(Customer Relationship Management)とは「顧客関係管理」や「顧客管理」という意味であり、顧客を中心に考えてビジネスを展開し、利益の最大化と顧客と良好な関係を構築することを目的とした営業マネジメントです。
連携させる事よって、トヨタ自動車は販売会社の営業活動効率化を狙っています。
PRAソフトウェア
電気機器メーカーであるコニカミノルタ株式会社は、相場情報に関するレポート作成や商品化計画の配信、受注登録、販売実績集約にオートメーション・エニウェア・ジャパン株式会社のRPAソフトウェアを導入しました。これにより、約24,000時間もの業務時間削減を実現しました。
プロセス参照モデル
「プロセス参照モデル」は、株式会社今野製作所が活用した自社の業務プロセスや、エンジニアリングプロセスにおける社内連携体制を可視化したものです。
今野製作所は事業スタイルをオーダーメイド型に移行し、高付加価値化へのシフトを検討していましたが、(事業規模が小さいにもかかわらず多様な生産形態が混在したまま生産しているため)業務プロセスが複雑化している事、個別受注への対応力不足、負荷集中、納期遅れなどの問題が立ちはだかりました。
複雑化した業務プロセス全体をフロー図化することで、不足する人材や改善すべきポイントを明確化し、デジタル技術活用における具体的な取り組みにつなげる事に成功しました。
オムロン株式会社 「i-BELT」
FA機器などのメーカーとして培った工程設計や生産についてのノウハウを活かし、オムロン株式会社は4つの切り口における現場データ活用サービス「i-BELT」を提供しています。
・生産管理
・品質管理
・設備効率
・エネルギー
これにより、オムロンは取り組む目的や経営指標の提示など「トップダウン」で推進する部分と、効果が見え、効率化を実感できる取り組みなどの「ボトムアップ」で推進する部分の連携強化を支援しています。
・顧客企業内部の様々な技術や知見の棚卸をして現状把握し、何をデジタル化する事が最も有意義なのかを見極める
・コア技術を明確化し、データの流れや業務プロセスを可視化し、構造化する
・デジタル化によってその企業の価値を最大化できる部分に対してデータ化や最適化を提案
・課題共有、診断、導入、継続強化のステップでサービス展開
株式会社オムロンはグローバルなものづくりを行っており、全体最適の視点の重要性を感じたため、既存ツール導入ではなく、製造工程の構造化や目指す状態の明確化に時間をかけ、デジタル化・グローバルスタンダード化しやすい状態の構築を重視しています。
「i-BELT」の活用により、製造現場の作業効率の安定化、工具の摩擦量削減、加工時間削減を実現しました。他社へサービスを展開した事により日本企業のデジタル化推進に貢献していると言えるでしょう。
まとめ
製造業のDXの事例について解説してきました。以下、まとめとなります。
・これからの製造業においてDXは避けては通れない
・製造業はもの作りだけでなく、「もの作り+データ分析」が必要となってくる
・自社で開発したサービスを他社に提供する事によって、日本企業のデジタル化促進に貢献している企業もある
製造業現場において、ノウハウのデジタル化など、あらゆる変革が求められています。デジタル化によって従業員個人が培ってきたノウハウを従業員全員が共有することで、リードタイム短縮、生産性向上、品質向上に活かすことが可能となるでしょう。
製造業におけるDXとは、ただAIを現場に導入して終わりではありません。全ての製造工程や出荷後のデータを一元管理し、現場にフィードバックすることにより、生産性と安全性を高め、製造コストを低く、クライアントに満足してもらえるモノづくりができるようにする。それが今後の製造業に求められる有り方でしょう。
DXへの取り組みは、製造業だけでなく全ての業種において加速していくと予想されています。まだ自分達には早いし、よくわからないと避けるのではなく、DXの成功事例などを参考に取り組んでみてはいかがでしょうか。