海外に比べ、日本でのデジタルトランスフォーメーション(DX)は遅れをとっており、経済産業省によりDX推進を急速に求められています。特に日本において海外から優秀だと注目されている製造業の分野では、デジタル技術を取り入れる事を要求されています。製造業のDX化を実現するために、スタートアップと連携を行っている企業も多いようです。
今回は、DXとは一体何か、そして製造業のDX化のためにスタートアップはどのような役割を果たすのかを解説していきます。製造業とスタートアップが協業をし、実績を挙げた実例も紹介します。

デジタルトランスフォーメーションとは

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用して、業務や社会を変革させることです。人々の生活をより良いものへと変え、既存の価値観や枠組みを根底から覆し、新たな事業を展開することでコスト削減を行い、競争社会で事業を継続的に優位に立てるよう働き方や社会そのものを改革しようとする施策です。
DXは2004年にスウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマン氏が述べた概念であり、元は「進化し続けるテクノロジーが生活を良くしていく」というものでした。

たとえば、昔の音楽ビジネスは生演奏やレコード販売だけでした。しかし、デジタル技術の発展によりCDなど物販が主流となり、その後、スマートフォンやネット回線の発展でダウンロード販売やアイポッドが主流となりました。これは音楽のビジネスモデル全体がデジタル化したと言えます。現在は個人制作の楽曲がネット配信され、サブスクリプションサービスが当たり前となりつつあり、社会全体でDXが進んでいると言えるでしょう。

日本企業のIT投資の内8割は既存システムの維持管理に向けられており、新規開発に消極的です。そのため、日本企業のDXは海外に大きく後れを取っています。
デジタル技術導入の重要性を認識しているものの、明確なビジョンが持てず、現場で推進する人材も不足しています。特に製造業は環境の変化に対応しきれない企業が多く、多くの課題を抱えているのが現状と言えるでしょう。

DXを取り入れるメリットと未導入によるリスク

DXを取り入れるメリットは3つです。

・業務の生産性が向上する
・消費行動の変化に対応したビジネスにつながる
・BCP(事業継続計画)の充実につながる

逆に導入しないと発生するリスクは以下の3つです。

・既存システムの保守費が高額になる(2025年の崖)
・市場の変化に対応できなくなる
・データの喪失や自社の財産を失うリスク

2025年の崖

経済産業省はDXの必要を訴え、ペーパーレス化や電子サインの導入に取り組んでDXを進めている組織です。経済産業省は2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」をまとめています。ガイドラインでは、デジタル技術をあらゆる産業で利用したビジネスモデル展開をする新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつあると指摘した上で、企業は競争力の維持や強化のためにDXを速やかに進める事が課題であるとしています。経済産業省は、もしDXが進まなければ「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警告し、そのためには国の支援が必要であると強調しています。2025年にシステムの刷新が行えず、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、国際競争への遅れや我が国の経済の停滞などが起こると想定しています。これを「2025年の壁」と呼び、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了などによるリスクの高まりなどがこの停滞を引き起こすとされています。

製造業に新しい風を吹き込むスタートアップ

製造業は近年、IoT(モノのインターネット化)やAIなどのテクノロジーが進化し、競争環境が変化しつつあります。しかし、革新的な技術やアイディアを持つ企業は少なく、デジタル技術を導入して生産性を向上させるには思うように普及が進んでいないのが現状です。
製造業は古いシステムが定着しており、急激な変化に対応するのは難しいのが大きな要因の一つです。特に中小企業では、新しいシステム導入にはコストがかかると導入に消極的という理由もあります。
そのため、革新的な技術で世界に挑戦する「スタートアップ」は製造業に新しい風を吹き込み、技術開発や新規事業開拓を加速する存在として注目されつつあります。

スタートアップとは

スタートアップとは、イノベーションや新たなビジネスモデルの構築、新たな市場の開拓を短期間で目指す動き、または概念です。一般的な解釈として、法人(会社)そのものを指すものではなく、「起業」や「新規事業の立ち上げ」を指し、「イノベーション」に賭けている会社と言っていいでしょう。イノベーションとは、創造的活動による新製品開発、新生産方法、新しいマーケットの開拓など、人々の生活に大きく影響を与え、変革をするものです。元々、アメリカ・シリコンバレーにおいて多くみられる現象でしたが、日本においても注目されつつあります。スタートアップには、イノベーションのきっかけとなるプロダクトがつきものであり、短期間でそれをつくることができるエンジニアや、然るべき投資を行うベンチャーキャピタルがついてまわります。
IT・インターネット業界など、人的・時間的コストを削減しやすい業界の立ち上げが多い傾向があり、一定程度の成果を出すことで、個人投資家やVCから資金調達を行い、本格的なサービスの構築やビジネス活動の拡大、収益向上などの流れとなっています。
スタートアップは、世の中の潜在的なニーズや需要をいち早く感じ取り、社会貢献する方法として選ばれる事が多いため、収益先行ではなく、純粋に「誰もが幸せになる社会を実現したい」という社会貢献を軸としています。

スタートアップの前に立ちはだかる「量産化」の壁

ここ数年、IoTの進展でソフトとハードの垣根が低くなり、ベンチャー企業がソフトウェアやサービスだけでなく、ハードウェア等の独自のプロダクトを作り始めています。ハードウェア等のプロダクトを市場に送り出すためには、「量産」が必要であり、多くの資金、長く複雑な工程をマネジメントする必要性、特別なノウハウが必要です。

そのため、スタートアップの多くが設計や試作の段階で頓挫してしまい、ハードルが高いです。量産を行うためには、試作や検証を繰り返し、部品を調達して組立のラインを確保するなど、経験の少ないスタートアップには容易とは言えないでしょう。原理試作ができても、量産化試作以降は生産技術や生産設備を持つ製造事業者との連携が必要となってきます。そのため、製造事業者の探し方がわからない、候補はあるが製造事業者との交渉が上手くいかないといった課題が立ちはだかっています。

しかし、スタートアップによるイノベーションを推進するためにはハードルを下げる必要があります。量産のための施策や設計をワンストップで支援する機能を強化し、量産化の前に立ちはだかる壁を突破しやすい環境を構築する拠点「Startup Factory」、構築を支援する事業「Startup Factory構築事業」が今春始動します。

スタートアップと製造業の連携事例

デジタル化に後れを取っているとわかっていながらも、古いシステムを変革できない現状を打破するためには、外部からの改革を取り入れる必要があります。DXの推進を加速させるため、新しい価値を生み出すスタートアップとの協業は変革の契機となるでしょう。

スタートアップと企業が協業した例は数多く、これまでたくさんのデジタル化を成功させてきました。
たとえば、製造業とスタートアップの連携は、作業の効率化や自社の持つ技術から新しい価値を生み出すことに成功しています。

TRINUS

「TRINUS」はものづくりや商品開発をDXするスタートアップです。世界中に登録する4,000人以上のクリエイターから独創的で型破りなデザインを集め、技術・素材・知財など企業に眠るリソースを自社サイトに公開する事で、アナログだった商品開発プロセスをデジタルに推進する事を可能とします。

廃棄古紙が主原料の技術を持つ企業と連携した場合、プロジェクトを募集して、アイディアを収集した結果、「花色鉛筆」という商品が製品化されました。サクラや桔梗(ききょう)などの花の色と形を持ち、削るとまるで花弁のようになるという他にはない商品であり、現在全世界で販売されているヒット商品です。

キャディ

イノベーションの進まない部品調達の分野から、製造業のDXを推進するスタートアップを「キャディ」といいます。メーカーの持つ図面データを解析して瞬時に見積もり提供できるシステムであり、特注加工品の発注者と全国の加工工事をテクノロジーで繋ぐ日本初の受発注サービスとして開発されました。

スタートアップと協業し、キャディで成功させた企業は多いです。例えば株式会社ヒガシヤマはシステム改革で年間900万円以上の利益改善を達成しました。また、株式会社MAは取引を複数業界に分散し、理想的なポートフォリオを実現可能としています。

まとめ

製造業とスタートアップが協業する事により、DX化を進める事を解説してきました。以下、まとめとなります。

・DX化はこれから先、全企業に求められる
・製造業とスタートアップの組み合わせはDX化を進める事ができる
・スタートアップと企業が協業した例は数多く、これまでたくさんのデジタル化を成功させてきた

テクノロジーの進化にともなうDXはあらゆる分野で進んでいきます。
製造業だけでなく、どの業界の企業も変化に対応しなければいけない時代です。競争社会に生き残り、自社を優位的に存続させるためには、DXは必要不可欠であるという事を理解しなければいけません。
DXの推奨は急がれています。経産省が警告する「2025年の崖」まで時間は限られています。激しく変化する社会の波を乗り切り、古い体制に縛られず製造業が変革するために、スタートアップと連携し、DX化を推し進めていくのが良いでしょう。