サブスクリプションとは、料金を支払うことで、製品やサービスを一定期間利用することができる形式のビジネスモデルのことを指します。サブスクリプションはプロダクト販売(買い切り)に比べてユーザー需要と使用量によって価格が変動し、ユーザーのニーズに合わせてアップグレードするため、ユーザーとの信頼関係が大切となります。音楽や動画配信といったデジタルコンテンツでよく耳にする単語だと思います。他にもソフトウェアコンテンツでいうと、Adobe社の「Creative Cloud」やマイクロソフト社の「Office 365」が有名です。近年、家電や家具、車など製造業においてもサブスクリプションのビジネスモデルを導入する企業は増えつつあります。今回は製造業のサブスクリプションや事例について解説していきます。

何故サブスクリプションなのか

「必要なモノを必要な時にだけ利用する」ことを望む消費者は増えつつあります。
まだネットがそれほど普及されておらず、情報が少ない時代では、一方的に発信された情報を元に消費者が商品を選択するというのが主流でした。

情報が少ない時代では、少数の事業者が市場を独占し、一方的に発信する情報をもとに、消費者が商品を狭い選択肢の中から選ぶという流れでした。しかし、パソコンが普及されると、消費者は自分で情報を集めて商品の選択肢を増やす事が可能となりました。供給する側の技術も進歩し、質を維持したまま低価格で商品を製造、模倣することが用意になりました。

消費者のニーズは多様化していく一方、商品の差別化は難しくなっていき、ただ良質な商品を作るだけでは製造業の生き残りが難しくなってしまいました。そこで従来の売り切りモデルから新たなサブスクリプションビジネスへのモデル転換が迫られたのです。

サブスクリプションは顧客満足度が大事

プロダクト販売モデルは良いプロダクトを作って売るまでが勝負でした。しかし、サブスクリプションモデルは製品を製造・販売して終わりではありません。顧客に飽きさせないための価値を提供し、満足させ続けなければ成立しないからです。製造業では性能やコストで競争しても優位性が生まれにくくなり、「モノの価値を保有させる」売り方から「モノの価値を気軽に利用できる」売り方への転換が求められています。大切なのは「製品そのものを売るのではなく、「結果を売る」という考え方を常にする事です。何故なら、顧客は製品を通じて提供される付加価値に対してお金を支払うからです。良い製品を作りつつ、顧客にどのような価値提供ができるのかを重要視し、「製品志向」から「顧客志向」へと顧客の本質的なニーズを満たしていかなければいけません。

顧客志向で大事なのは「顧客のあらゆる体験(Customer Experience)」(CX)です。サブスクリプションで継続した利益を得るには、契約してからが勝負です。顧客との関係性構築が重要となり、ユーザーからフィードバックをもらい、顧客のニーズを常にくみ取り、変化に反応する事で常に顧客満足度を高い水準で維持します。
たとえば、市販されているお菓子は添加物が入っているなどヘルシーではありません。そのため、ヘルシーでかつおいしいお菓子を提供しようと会社を設立したとします。マーケットリサーチは行わず、申し込みがあると箱にお菓子を詰めて送り、どのお菓子が好きか、嫌いか、何故好きなのかといったアンケートを徹底的に取ります。それを数か月繰り返していくと、顧客の好みがわかってくるので、こういうのも好きかもしれないと仮説を立てて、いつもと違うお菓子を詰める試みをします。すると、顧客からすると自分が今まで購入しなかったタイプであり、食べてみると自分が好きなお菓子であったと新しい発見があり、お菓子が届く待ち遠しさやワクワクに繋がっていきます。会社の価値はCXの提供であり、そこから継続購買に繋がっていくのです。
リサーチする必要もない、在庫を持つ必要もないこのビジネスモデルを「DtoC」
(Direct to Consumer)と呼びます。

サブスクリプションを成功させるためには

サブスクリプションを従来のプロダクト販売モデルの延長線上として捉え、課金形態を月額課金に変えるのみにとどまっているだけでは、サブスクリプションをうまく使いこなせていないといえるでしょう。サブスクリプションを単なる課金形態の変更ではなく、全く新しいビジネスモデルだと理解しなければいけません。今までなら1個いくらと値段を決めていましたが、サブスクリプションでは定額制や従量課金、更に従量課金の階層型だったり、定額制にアドオンといってオプションを付けたり、定額制でも松竹梅のプランという収益化のデザインを描く必要があります。

サブスクリプションを成功させるには、契約期間と金額の掛け算で出される「顧客生涯価値(LTV)の最大化」が重要となってきます。契約期間を伸ばすためには顧客を引き付ける必要があります。アップグレードやオプションの追加といった「単価を上げる施策」と、休止やダウングレードなど、「金額を下げてでも顧客に使われ続ける提案」の使い分けが重要です。たとえば、あなたが容量10GBのストレージサービスを契約していたとします。あなたは数カ月間5GBしか使用していません。そうなるともったいないから解約しようとなってしまいますよね。解約を阻止するために、10GBではなく5GBプランを提案されたら、また使ってみようと思うかもしれません。このように、ダウングレードの提案ができれば解約を阻止し、長期間サービスを利用してもらう事に繋がります。
アップグレードとダウングレードの他にも、1カ月無料で使ってもらうフリートライアルや、100あるコンテンツのうち10までは無料で、それを超えて利用する場合は有償にアップグレードしなければいけないフリーミアムもあります。定額制も月払い、年払いのプランがあり、こういうものをうまく組み合わせながら、ユーザーが登録しやすい価格設定を組み立てなければいけません。ユーザーのニーズは常に変化するため、そのニーズに対応した最適なサブスクリプションの提供がLTVの最大化には必要不可欠だと言えるでしょう。

ニーズは時間と共に変化し続けます。それに対応し続けるには、固定的なサービスではなく、サービスを進化させながら、価値を提供し続ける必要があります。顧客のニーズを満たすことができれば、顧客と価値ある関係を結ぶことができ、顧客が今何を求めているのかが見えてくるでしょう。

サブスクリプションのメリット

メリット①顧客ごとのニーズに合わせられる

 
顧客のニーズはインターネットの高速化と接続するデバイスの普及によって加速し、多様化しています。サブスクリプションは従来のように製品をモノとして販売するよりも顧客ごとのニーズに合わせたプランを提案できます。プランをニーズに合わせて柔軟に多様化させ、オプションを多数用意する事でカスタマイズ性を高め、それぞれのニーズに合致したサービスを展開する事によってより多くの顧客にアプロ―チできます。

メリット②顧客と継続的に接点が持てる

従来のやり方では、企業と顧客の接点は購入したら終了でした。しかし、これからのビジネスモデルであるサブスクリプションは企業側のアプローチに顧客が反応してくれるかどうかの接点によって左右されるでしょう。顧客と継続的な接点を持つことができれば、製品に対する顧客視点での情報やフィードバックを得る事ができ、製品改善に繋げる事ができます。

③成長を前提としたモデル

プロダクト販売モデルでは、1月の締めが終わると2月の売上はまたゼロからのスタートです。サブスクリプションモデルは毎月定額が入ってくるので、2月の売上は1月の売上に2月の新規分を積み上げ、ここから解約分を差し引いて計算します。つまり、基本的にはどんどん積みあがっていく事になるので、成長を前提としたモデルといえるのです。

サブスクリプションのデメリット

サブスクリプションには大きな落とし穴があります。それは、単価が下がる一方で、アップグレードしたい、追加したいという要望が顧客から出てくるのでトランザクションが増えます。単価が下がって、更にトランザクションが増えると、小さい金額で時間を取られるため、売り上げが上がらなくなるのです。

サブスクリプションは月初、月中、月末に売るとそれぞれ日割りで入る金額が変動します。その事も考慮した上で見積もりを立てなければいけないため、売ってもお金にならない、手間がかかるだけだから誰も売らないという事になってしまいます。そのため、売るための仕組みをまず考える必要性があり、営業マンに対する評価の指標も変えていかなければいけません。サブスクリプションはプロダクト販売と異なり、一度訪問して一回契約したら終わりではなく、契約期間内はずっと変更管理をしなければいけないのです。
そのため、サブスクリプションに必要な「収益のデザイン」「見積もり」「販売」「契約管理」「請求」といったプロセスは全て一つのプラットフォームで対応した方がいいでしょう。

製造業におけるサブスクリプションの事例

製造業におけるサブスクリプションの事例を3つ紹介します。

トヨタ「KINTO」

トヨタは車のサブスクリプションサービスで、マイカーを保有する事なく、その時乗りたい車に乗り換える事を可能にしました。頭金や登録費用などの初期費用が不要であり、メンテナンスや任意保険の手続きなども定額サービスに含まれています。最も手軽なKINTO ONEは3年契約にて月額3万2,780円から契約できます。更に契約は店頭、またはネットのみで完結しますので、契約者は好きな車を自由に選んで気軽に楽しめるサービスとなっています。

パナソニック「安心バリュープラン」

パナソニックは最新テレビを定額制で提供しています。3年もしくは5年後に安心バリュープランを利用して新商品に買い替える事を条件に、商品ごとに決まっている買い替え保証金額を差し引いた金額を分割払いするクレジットプランです。

コマツ「スマートコントラクション」

建設機械会社コマツ(小松製作所)はスマートコントラクションという、建設現場の環境、機器、資材、労働力などをITネットワークでつないで管理するサービスを推奨しています。「KomConnect(コムコネクト)」というクラウド上でスマートコンストラクションの情報はすべて管理され、スマートフォンやタブレットから必要な情報を確認できます。スマートコントラクションは工事自体が正確かつ適切なコストで実施できるサービスであり、建機は施工のためのツールの1つでしかありません。この建機と設計/施工管理を組み合わせたサービス事業を拡大するため、コマツは2016年11月までに、製品そのもののサブスクリプションではなく、ドローン、測量機、建機、車両などから得られる建設現場に関する情報を一元管理するKomConnectをサブスクリプションで提供できるように仕組みを整えました。サブスクリプションにした事で、スマートコントラクション事業の成長戦略を支える重要要素となり、将来的にはスマートコントラクションのサブスクリプション化を中心としたビジネスが、建設機械の製造やメンテナンスと並ぶ収益の柱になると予測されています。

まとめ

製造業のサブスクリプションや事例について解説してきました。以下、まとめとなります。

・モノを売るだけで終わりのプロダクトモデルから、必要なものを必要な時にだけ顧客のニーズに合わせてサービスとして売るサブスクリプションが時代の流れとして求められている
・サブスクリプションで大事なのは、顧客のニーズを満たす顧客満足度と購入する事によって更なる価値を顧客に期待させ購買継続を促す事
・サブスクリプションは製造業を成長へと導く新しいビジネスモデルになるかもしれない

「販売数を増やす」「コストを下げる」「価格を上げる」従来のプロダクト販売による成長はこの3つしかありませんでした。一方、サブスクリプションは「販売数」ではなくて「顧客数を増やす」「増えた顧客を減らさない」「単価を上げる」という流れになっています。価値を上げることによってアップグレードやオプションを追加して貰い単価を増やすのです。

トヨタのKINTOも2019年11月のリリースから数ヶ月は数百件の契約数と苦戦を強いられたそうです。
しかし、時代が顧客のニーズと多様化による「モノ」の売り方の変革を求めている背景を鑑みると、リリース後に試行錯誤を繰り返しながら、PDCAを回すことで、売れるサービスを展開しています。どんな製品にもサービス化の可能性は秘められているので、この機会にぜひ自社製品を「所有するモノ」として売るのではなく、「利用するモノ」として売るサブスクリプションを取り入れてみてはいかがでしょうか。