日本国内CO2排出量最多の製造業に脱炭素化は必須? 取り組み方法やメリットを知って脱炭素化へ!
世界が脱炭素化に向けて動いている中、日本国内では2021年4月に「2030年までに温室効果ガス削減目標を2013年度に比べて46%削減」と中間目標数値を大幅に引き下げました。製造業は特にCO2排出量が多く、今後どのように脱炭素化と向き合っていけばいいのでしょうか。今回は製造業と脱炭素化について解説します。
製造業が脱炭素化に取り組まなければいけない理由
環境省の「2019年度(令和元年)の温室効果ガス排出量(速報値)について」の公表データによると、CO2排出量が最も多かったのが産業部門であり、国内総排出量の内約35%を占めていました。産業部門の約94%は製造業で構成されていますので、日本の温室効果ガス削減目標達成のために脱炭素化への早急な取り組みが求められます。
また、日本経済新聞によると日経平均採用銘柄の内、4割の企業が「2050年4月末までにカーボンゼロにする」というカーボンニュートラルへの取り組み目標を掲げています。カーボンニュートラルへの取り組みは関連取引先にも広がっていく可能性は今後十分あります。大手企業だけでなく、日本自動車部品工業会などの団体も脱炭素化への取り組みを進めています。
国際競争力や国内生産、雇用維持のためにも脱炭素化実現は必須であり、製造業全体で取り組まなければいけない理由といえるでしょう。
電気自動車による脱炭素化へ向けた目標
製造業の脱炭素化で最も注目度が高いのは自動車産業の電機自動車(EV)へのシフトでしょう。現在、自動車メーカー各社はガソリン・ディーゼルエンジン車からEVへの転換に取り組んでいます。
国 |
脱炭素化へ向けた目標 |
欧州 |
・EU欧州委員会:2035年にエンジン車の新車販売を事実上禁止する包括案を提示 ・ドイツやフランスの大手メーカー:新車販売に占めるEVの比率を50~90%とする目標掲示 |
日本 |
・2035年までに新車販売を全てEVやハイブリッド車(HV)に切替え目標打ちだし ・大手自動車メーカーはEV、HV、燃料電池自動車(FCV)などの電動車の世界販売を800万台程度にする目標掲示 |
中国 |
政府に影響力がある自動車エンジニア学会が2035年までに新車の50%をEVやFCVなどに、残り50%をエンジン車からHVに切り替える計画を発表 |
EVは走行中にCO2を排出しませんが、その製造から廃棄までの一連において必ずしも脱炭素化への切り札にはなりえないという指摘もあります。そのため、自動車メーカーのみならず、製造業全体で製造工程におけるCO2削減への対応は急務といえるでしょう。
製造業が取り組むべき脱炭素化
製造業が取り組むべき脱炭素化は以下の通りです。
エネルギーの脱炭素化
1つ目は「エネルギーの脱炭素化」です。
製造業ではボイラーや工業炉などの大型熱供給機器を使用するため高温熱を必要とする工程が多いです。化石燃料を主に使用するため、安価な代わりに大量のCO2を排出してしまいます。そのため、製造過程で消費される熱エネルギーの脱炭素化は大きな課題といえるでしょう。
CO2排出量を抑えるには、電気ボイラーや電気炉など化石燃料に依存しない熱供給機器への切り替えが求められます。それに伴い再生工場の空き地に太陽光発電システムを設置して自家消費を行い、足りない分は再生可能エネルギーを購入することでエネルギーの脱炭素化へと繋げることができるでしょう。
製造工程見直しによる脱炭素化
2つ目は「製造工程見直しによる脱炭素化」です。
工程全体を見直してエネルギー消費を抑えるために、高効率ボイラーやヒートポンプなどの設備を導入する脱炭素化の動きは、高効率機器や省エネ機器、最適なエネルギーマネジメントを実現するIoT、5G、AIなどの先端技術を活用し、工場内のあらゆる機器や設備をインターネットにつないで稼働状況を管理するスマートファクトリーに通じるものがあります。
スマートファクトリーは工程見直しなどの生産性の飛躍的改善によって省電力化、CO2排出量削減に貢献するからです。
AIや産業用ロボットを活用し、人的ミスによる産業廃棄物や規格外製造などを低減させることで製造現場でのCO2削減に繋げます。
また、排出したCO2をエネルギーや素材として再利用できるカーボンリサイクルの技術開発や、製造現場のエネルギーマネジメントとしてCO2排出量を算出・可視化するクラウドサービス、エネルギー管理を行うプラットフォームを提供する企業なども現れ始めました。今後、製造業における脱炭素化の動きは加速化し、取り組みへのイノベーションが求められるでしょう。
運輸や民生部門向け製品の脱炭素化
3つ目は「運輸や民生部門向け製品の脱炭素化」です。
環境省が発表した「2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」では、CO2排出量が運輸部門18.6%、家庭部門14.4%となっており、全体の33%を占めています。日本政府が掲げる高い目標達成には、製造業の現場だけでなく、運輸や民生部門で使用される製品、それらに関連するメーカーも脱炭素化への取り組みが必要となってきます。
運輸に関連する航空機や船舶、自動車製造などは化石燃料依存から脱し、CO2排出量の少ないエンジン開発が課題となってくるでしょう。また、省エネで高効率な家電や暖房機器などを開発することで、家庭や職場での脱炭素化を促進することができるかもしれません。
製造業が脱炭素化に取り組むメリット
製造業が脱炭素化に取り組むメリットは以下の通りです。
競争力強化・顧客の確保
1つ目は「訴求力・競争力の強化と顧客確保に繋がる」ことです。
SBT(Science Based Targets)目標とは、温室効果ガス削減目標の指標です。この目標を策定している大企業は環境意識が高く、自社のCO2排出量だけでなく、原材料や部品調達、製品使用段階など、事業活動全体を含めた削減目標が求められるので、仕入先にも目標設定を求める場合があります。そのため、脱炭素化への取り組みは、環境意識が高い企業への訴求力や競争力を強化し、顧客確保へとつながるでしょう。
省エネによるコスト削減が光熱費と燃料費の削減に繋がる
2つ目は「省エネによるコスト削減が光熱費と燃料費の削減に繋がる」ことです。
脱炭素化を目指すため省エネによるコスト削減を行います。工程を見直すとエネルギーを多く消費する非効率的な工程や設備更新の必要性に気付きますので、結果的に光熱費や燃料費の削減に繋がります。また、これまで利益を出しにくかった多品種少量生産の製品なども、光熱費を大幅削減することで積極的な生産や拡販が可能になったという事例もあります。
世間による評価と認知度がアップし、顧客増加に繋がる
3つ目は「世間による評価と認知度がアップし、顧客増加に繋がる」ことです。
CO2削減に取り組み、大幅に排出量削減達成を行うなど、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な環境イニシアティブ「RE100」に加盟し、温室効果ガス排出量の第三者認証の取得や、製造拠点におけるメガソーラーの導入などを積極的に進めている大企業などは、国や自治体の表彰対象となり、新聞やテレビで取り上げられ、世間的な評価と認知度がアップするでしょう。
実際、省エネの取り組みによって自社の認知度向上に成功した企業は少なくありません。世間的に良いイメージがつくため、顧客層の取り組みも期待できます。
人材獲得と社員のモチベーション向上を促進する
4つ目は「人材獲得と社員のモチベーション向上を促進する」ことです。
地球温暖化や気候変動問題は、世界中の関心事であり、このような大きな社会課題解決に向けて前向きに取り組む企業の姿勢は、社会課題に高い意識を持つ人材に共感され、ここで働きたいと注目を集めるかもしれません。また、自分達の働いている会社はそのような志や姿勢を持っているんだという社員のモチベーション向上に繋がる可能性があります。
脱炭素化は社会課題に高い意識を持つ優秀な人材獲得と社員のモチベーション向上を促してくれるでしょう。
将来的な資金調達のため
5つ目は「将来的な資金調達のため」です。
世界的に脱炭素化への動きが高まりつつある中、CO2排出量の多い業界や分野、企業は常に国際社会や世論の的となり、金融機関からも厳しい対応をされるかもしれません。
すでに金融機関において、融資先の選定基準に温暖化対策への取り組みを加味するなど、脱炭素化経営を進める企業への融資条件を優遇する措置が開始されています。
そのため、将来的な資金調達のためにも脱炭素化は一刻も早く取り組むべきでしょう。
補助金やサポート事業を活用して脱炭素化を目指す
製造業にとって脱炭素化は重要ですが、設備更新や燃料転換にはコストがかかるためすぐに着手するのは難しいといえます。
そのため、環境省は「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」という、以下のような製造業の取り組み補助を実施しています。補助金やサポート事業を積極的に活用して、脱炭素化を目指しましょう。
工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業 |
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脱炭素化の計画策定依頼にかかる費用補助 |
支援機関による現地診断、計画策定の費用の1/2、最大100万円まで補助可能 |
設備更新に対する補助 |
設備の更新が事業場全体の15%、もしくは機器対機器で30%以上のCO2排出量削減となる場合最大1/3補助可能 |
CO2排出量の算定・取引、事例分析 |
CO2排出量の第三者機関での検証、CO2排出枠取引への参加。目標達成ができなかった場合にはCO2排出権の買い取り、大きく目標達成した場合については余ったCO2排出権を他社へ販売可能 |
まとめ
製造業と脱炭素化について解説してきました。以下、まとめとなります。
・製造業は国内のCO2排出量の約35%を占めるので脱炭素化は必須
・製造工程におけるエネルギー抑制や燃料転換、高効率な設備更新などを行うことによって脱炭素化は促進される
・環境省による補助金やサポート事業があるので、それを活用して脱炭素化を目指す
製造業において、資金調達面からも今後の脱炭素化への取り組みは必須といえます。脱炭素化に取り組めば、光熱費削減や認知度アップからの顧客増加といった利益に繋がる可能性もあります。しかし、脱炭素化への取り組みには膨大なコストがかかるため、製造業が脱炭素化に取り組むハードルは高いです。国が支援している補助金やサポート事業を活用することで効率的に製造業の脱炭素化を目指しましょう。