地球温暖化に伴う気候変動に対する危機感は年々高まりつつあります。2018年、国際機関IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べ1.5℃より大きく超えないようにするためには「世界全体の人為起源の二酸化炭素(CO2)の正味排出量を、2030年までに2010年水準から約45%減少し、2050年前後に正味ゼロにしなければならない」と発表しました。
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル(炭素中立)、脱炭素社会の実現を2050年までに目指すことを宣言しました。
日本で発電所に次いで多くCO2を排出しているのが、製造業の工場などです。工場から排出されるCO2をいかに抑えられるかが課題となってきます。今回は製造業のカーボンニュートラルについて解説します。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラル(carbon neutral)とは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを指します。

温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするとは、排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、排出せざるを得なかった分については同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロを目指すことです。

吸収:植林を進めて光合成に使われる大気中のCO2の吸収量を増やすことなど
除去:CO2を他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する(CCS)など

つまり、植物や植物由来の燃料を燃焼してCO2が発生しても、その植物は成長過程でCO2を吸収しており、ライフサイクル全体でみると大気中のCO2を増加させず、CO2排出量の収支は実質ゼロになるという考え方です。

カーボンニュートラルはSDGsの次の目標に相当します。

目標 7:すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代エネルギーへのアクセスを確保する。
目標13:気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる。

カーボンニュートラルの実現に向けて行われているポイント

カーボンニュートラルの実現に向けて行われているポイントは以下の通りです。

イノベーションの推進

1つ目のポイントは「イノベーションの推進」です。

次世代型太陽電池やカーボンリサイクルなどによる、革新的なイノベーションの推進が「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略」において打ち出されています。
問題を一つひとつ解決し、バランスよく成長、新たな考え方を続けていくことが、脱炭素社会実現を達成する上で重要となります。

<電気自動車の場合:良い点>
・太陽電池や水素をエネルギーとして走行する自動車の実用化によって温室効果ガス削減
・産業構造の変革を起点とし、経済成長を牽引する役割を担う
<電気自動車の場合:問題点>
・ただし単にガソリン車から代替しただけでは十分な対策とはいえない
・電気自動車が生産時に排出する温室効果ガスはガソリン車よりも多い

グリーンファイナンスの推進

2つ目のポイントは「グリーンファイナンスの推進」です。

グリーンファイナンスとは、空気や水・土の汚染除去、温室効果ガス排出量削減、エネルギー効率改善、再生可能エネルギー事業への投資など、環境に良い効果を与える投資への資金提供を意味します。脱炭素社会の場合、温室効果ガス排出削減など、環境によい効果をもたらすファイナンスへの資金提供を指し、脱炭素社会に貢献する企業の取り組みを支援すべく、十分な資金循環が行われるような仕組み作りがグリーンファイナンスの目的となります。

2013年に設立された一般社団法人グリーンファイナンス推進機構では、環境省の事業として次のようなものを取り扱っています。
・グリーンファンド(投資ファンド)
・グリーンボンド(債券)

ビジネス主導の国際展開・国際協力

3つ目のポイントは「ビジネス主導の国際展開・国際協力」です。

ビジネス主導の国際展開・国際協力での代表的な取り組みとして、二国間クレジット制度(JCM)が挙げられます。

二国間クレジット制度とは、先進国が途上国に温室効果ガス削減の技術や資金を提供し、削減の成果を二国で分け合う制度です。日本は、2021年2月現在、17ヵ国と二国間クレジット制度を締結しています。

地球温暖化の主な原因は温室効果ガスの増加

温室効果ガスとは、太陽からの熱を封じ込めて地表を暖める作用をもたらす大気中のガスのことです。温室効果ガスの種類は以下の通りです。

・二酸化炭素(CO2)
・メタン
・一酸化二窒素
・フロンガス

この中でも、CO2は最も地球温暖化に影響を与えているとされています。そのため、地球環境を守るためにはCO2排出量を可能な限り削減し、実質的にゼロの状態を目指すことが重要となってきます。

CO2排出量を増加させている主な要因は、石炭や石油といった化石燃料を燃やしてエネルギーを消費することです。
二酸化炭素排出量の部門別の推移では、製造業の工場等は2番目に多く、工場のCO2排出量は全体の約25%にあたります。

製造業による環境負荷

脱炭素社会を目指す中で、製造業の脱炭素への方針転換が求められます。
製造業による環境負荷は2つの過程によって分ける事ができます。

使用過程

1つ目は使用過程(製品が顧客の手に渡った後)です。

使用過程の場合、電化製品など製品使用時に電力を使う時にCO2が発生します。また、製品が使用できなくなった時にごみとなり、廃棄処分に対してエネルギーが環境負荷となります。

生産過程

2つ目は生産過程です。

生産過程の場合、製品を製造する過程において、多くの環境負荷がかかります。

・廃材や排出ガス、排水などの工場廃棄物が発生
・電気やガス、石油などのエネルギーを使用する際に発生するCO2が問題
・大気汚染や水質汚染、騒音などの公害を発生させるおそれもあり

実際に行われている工場のサステナブルな取り組み

サステナブルな工場の取り組みとは、環境を壊さず、限りある資源を使い切らないよう、将来にわたって持続していける取り組みのことです。実際に行われているサステナブルな工場の取り組みを紹介します。

CO2排出量の削減

1つ目は「CO2排出量の削減」です。

ヴェストレ社

ノルウェーのヴェストレ社はノルウェー東部の森の中に家具工場を建設しました。この工場では地元で取れた木材やリサイクルされた鉄筋を材料に用い、屋上に1,200枚の太陽電池パネルを設置して再生可能エネルギーを活用することでCO2排出量の削減を行っています。

Palsgaard

2018年、デンマークの食品メーカー「Palsgaard」は2020年までにカーボンオフセットに関する目標を発表しました。

カーボンオフセットとは、人間の経済活動や生活などを通して排出された二酸化炭素などの温室効果ガスについて、努力をしても削減できない分の全部または一部を、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)などで埋め合わせすることです。

Palsgaardは再生可能エネルギーを導入することでカーボンオフセットを100%達成し、CO2排出量の削減を行っています。

大和ハウス工業株式会社

大和ハウス工業株式会社は2020年10月から全国の9工場のうち、まずは4工場(新潟工場、中部工場、三重工場、奈良工場)で使用する電力を、自社施設で発電した再生可能エネルギーに順次切り替えていくことを発表しました。
4工場での切り替え電力量は約15,000MWh/年となり、CO2排出量を約7,400t/年削減できる見込みです。
大和ハウス工業株式会社は2055年までに環境負荷「ゼロ」に挑戦する環境長期ビジョン「Challenge ZERO 2055」を策定しており、すでに2020年4月には自社の全国の事務所・施工現場・住宅展示場に再生可能エネルギー由来の電力の本格導入を開始し、CO2削減に取り組んでいます。

廃棄物削減

2つ目は「廃棄物削減」です。

サカタインクス株式会社

サカタインクス株式会社は廃棄物の削減に継続的に取り組んでいます。東京工場、大阪工場、滋賀工場、羽生工場でリサイクル率が99.8%となり、ゼロエミッション(リサイクル率99.5%以上)を達成しました。

ゼロエミッションとは1994年に国連大学が提唱した考え方で、あらゆる廃棄物を原材料などとして有効活用することにより、廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システムです。簡単にいうと、生産活動から出る廃棄物のうち最終処分(埋め立て処分)する量をゼロにすることです。生産工程での原材料に対する製品の比率を上げて廃棄物の発生量を減らし、廃棄物を徹底的にリサイクルすることを目指しています。

サカタインクス株式会社が行った取り組みは以下の通りです。
・使用済みドラム缶などのリユース
・購入原材料の容器を繰り返し使える容器に変更
・廃溶剤回収
・廃インキを燃料として再利用
・金属くずを製鉄原料として再利用

株式会社ブリヂストン

株式会社ブリヂストンの横浜工場で分別ミスなどをなくすために行った取り組みは以下の通りです。

・社内に環境専門従事者という資格を設け、廃棄物置場に廃棄物を搬入できる人を制限
・環境専門従事者は各職場に1~2 名配置
・環境専門従事者は、廃棄物の運搬のほか、各職場の廃棄物発生抑制、分別の徹底、再利用の提案を行う

廃棄物管理体制の強化や分別の徹底が行われたことにより、2012年の横浜工場の産業廃棄物排出量は、2008年と比較して約54%削減となりました。

プラスチック削減

3つ目は「プラスチック削減」です。

プリマハム株式会社

プリマハム株式会社は廃プラスチックの廃棄量低減に関する目標を定め、目標を達成できたか否かをホームページ上で公開しています。
プリマハム株式会社が行った取り組みは以下の通りです。

・原材料の包装資材として使われるプラスチックの余りを、リサイクルできるものとそうでないものに選別
・リサイクルできるプラスチックを売却することでプラスチックの廃棄量削減
・包装不良や包装のやり直しの低減など、プラスチックの使用量削減対策

アディダス

アディダスは海岸から回収したプラスチックごみを再生・再繊維化して運動シューズとして販売し、500万足売り上げるヒットを生み出しています。2018年から事務所、小売店、工場、流通センターでの新生プラスチックの使用を段階的に廃止し、製造過程全体を通して環境負荷の低減を目指しています。

まとめ

製造業のカーボンニュートラルについて解説してきました。以下、まとめになります。

・カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすること
・製造業による環境負荷は使用過程と生産過程によって生じる
・CO2排出量の削減、廃棄物削減、プラスチック削減を行うことによって、世界中でサステナブルな工場の取り組みが行われている

日本は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという高い目標を定め、脱炭素社会実現を目指しています。脱炭素社会の実現に向けた取り組みは製造業にとって避けては通れない課題であり、様々な分野での新しい取り組みや物の捉え方が求められるでしょう。水素、蓄電池、カーボンリサイクル、再生可能エネルギーなど、考えられるたくさんの選択肢を検討していくことと平行して、廃棄物削減やプラスチック削減など、工場でできることから取り組んでいく必要があります。是非、やれることから取り組んでいきましょう。