製造業の安全教育とは? 職長のレベルアップは労働災害防止につながる!
近年、企業では就業形態が多様化し、正社員以外の立場で就業する労働者が多数います。企業は「正社員」「パートタイマー」「期間従業員」などの労働者の雇用形態にかかわらず、労働者が働く職場の安全衛生を確保する責務があります。しかし、製造業において「パートタイマー」や「期間従業員」など、非正規雇用の労働者は、正社員よりも多くの労働災害が発生しているとの調査・研究データもあります。労働災害を防止するために、非正規雇用や職長への安全衛生教育が必要となってきます。今回は製造業における安全教育について解説します。
安全衛生教育とは
安全衛生教育とは、労働災害を防止するために、労働者の就業にあたって必要な安全衛生に関する知識等を付与するために実施する教育のことです。労働安全衛生法等の法令に基づいて定められています。
労働者に対する安全衛生教育は2つに分けられ、対象は膨大です。
・法令上実施することが義務付けられているもの
・個々の事業場が独自の判断で実施しているもの
労働災害を防止するために必要なのは以下の通りです。
・機械や設備を安全な状態で使用する
・機械や設備を使用する労働者に対して適切な教育を実施
現場状況は常に変化しており、作業に不慣れな者が新しく入ってきたり、緊急事態時に適切な行動がとれなかったりすることが起こりえます。
安全衛生教育の実施計画策定は、安全委員会・衛生委員会の調査審議事項であり(第17条、第18条)、同委員会が正常に機能している事業場では当然にこうした計画の策定がなされるはずですので、労働安全衛生法では教育計画の策定を一般的に各事業者に義務付ける規定はありません。
また、安全衛生教育は所定労働時間内に行うことを原則としています。
安全衛生教育の実施時間は労働時間とみなされますので、もし法定時間外に行われた場合、当然割増賃金が支払わなければいけません。職長教育を企業外で行う場合の講習会費、講習旅費などについても、事業者が負担しなければいけません。
つまり、法定の安全衛生教育は、全て事業者の費用負担において行われることになります。
また、事業者は外国人労働者に対し、安全衛生教育を実施するにあたって以下の方法を守らなければいけません。
・母国語などを用いる
・視聴覚教材を用いる
・当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行う
製造業向け未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル
非正規雇用の労働者の災害発生を防止するために、企業は、適切な安全衛生管理・活動を実施する必要があります。そのため、製造業で働く未熟練労働者の安全衛生教育用として、「製造業向け未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」が公表されました。
「製造業向け未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」の対象者は製造事業者が直接雇用する労働者の内、働く時間や日数が正社員に比べて短い労働者や、雇用期間が決まっている労働者です。対象の労働者は以下の通りです。
・嘱託社員
・パートタイマー
・期間従業員
・契約社員
・臨時的雇用者など
上記の対象者に対し、事業場内で発生する労働災害(業務災害)の防止を目的としています。
また、「製造業向け未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」は、対象労働者の安全衛生管理を進める上で必要な、業種・作業に関わらず多くの事業場に共通の内容を、製造事業者の取組事例を紹介するなどして、分かりやすく解説しています。事業場内の安全衛生管理という点においては、労働者の雇用形態に関わらず共通する内容がありますので、必要に応じて参考としてください。
なお、一部の業種・作業にのみ関わる内容については言及していませんのでご注意ください。
職長に対する安全衛生教育
事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、作業主任者を除く新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者に対し、安全又は衛生のための教育を所定の時間以上行なわなければなりません(労働安全衛生法第60条)。
職長とは、日本の事業場において労働者を指揮監督する職長教育を受講したものを指します。資格を持たないまま職長と呼ばれる者もいますが、上場企業などの工場においては原則として資格がない者は指揮監督権限が認められません。また、職長として登録されているものの、一般の作業員と変わらない業務に従事していることも少なくありません。
厚生労働省が示す「安全衛生教育等推進要綱」において、職長は就任時に加えて、おおむね5年ごとに、当該業務に関連する労働災害の動向、技術革新等の社会経済情勢、事業場における職場環境の変化等に対応した事項について、能力向上教育を実施すべきとしています。
なお、所定の事項の全部又は一部について十分な知識及び技能ありと認定された者については、当該事項に関する教育を省略することができ、全職種の特級技能士を有する者は「職長等に対する安全又は衛生のための教育事項」の全部が省略されます。
製造業等において、職長教育を受講する際、各都道府県の労働基準協会等が主催する「(製造業向け)職長教育」と記載のある講習を受講するのがよいでしょう。なぜなら、グループ討議をする際に製造業等と建設業では危険予知のポイントが異なるからです。
職長教育事項
職長教育は、以下の事項について、それぞれに掲げる時間以上行う必要があります(規則第40条1項、2項)。
①作業方法の決定及び労働者の配置に関すること(2時間)。
・作業手順の定め方
・労働者の適正な配置の方法
②労働者に対する指導又は監督の方法に関すること(2.5時間)。
・指導及び教育の方法
・作業中における監督及び指示の方法
③危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること(4時間)。
・危険性又は有害性等の調査の方法
・危険性又は有害性等の調査の結果に基づき講ずる措置
・設備、作業等の具体的な改善の方法
④異常時・災害発生時における措置に関すること(1.5時間)。
・異常時における措置
・災害発生時における措置
⑤その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること(2時間)。
・作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法
・労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法
指導及び教育の8原則
職長は「指導及び教育の8原則」をふまえて教育を実施することが肝要とされています。
①相手の立場にたって
・教える側のペースや考え方で行わない
・教育を受ける側の能力に応じて教える
②動機づけを大切に
・あまり押し付けず、なぜそのようなことを行うのか、そうすることでどのような効果があるのか説明
・ときには相手に考えさせるなど、自らやる気を起こすようにさせる
③やさしいことから、難しいことへ
・相手が理解し、習得できる程度に合わせ、教える内容を次第に高める
④一時に一事を
・人間は一度に多くのことを覚え、身につけられない
・1回に一つの事を教えていれば、相手は楽に理解できる
⑤反復して
・何回も根気よく言って聞かせたり、やってみせ、やらせることが大切である
⑥身近な事例に結びつけて、強い印象を与える
・抽象的、観念的な話では、聞いたときは分かったようでも仕事をする段階になるとそれを実行できないことが多い
・身近な災害事例、改善事例など引用して強い印象を与えることが大切
⑦五感を活用して
・教育効果を上げるためには、五感の感覚機能を活用させる
・五感が外部から受ける刺激の割合は、視覚75%、聴覚13%、触覚7%、嗅覚3%、味覚2%と言われている
⑧手順と急所の理由をいって
・なぜ、それが手順の急所になるのか、その理由をよく理解させないと忘れてしまう
・安全衛生面だけでなく、生産性や品質の面からも重要なポイントであることを理解させる
製造業における職長の能力向上教育に準じた教育のカリキュラムに関する検討委員会
製造業の労働災害の発見件数は、2011年以降、減少傾向に下げ止まりの状況が見られます。2018年から2022年を計画期間とした第 13 次労働災害防止計画では、建設業で示されている職長の再教育を製造業でも実施できるようカリキュラム等の策定を検討しています。
この検討を具体化するために、中央労働災害防止協会において2018年度から2019年度、厚生労働省からの補助事業として、「製造業における職長の能力向上教育に準じた教育のカリキュラムに関する検討委員会」を設置して、製造業における職長の能力向上教育のカリキュラム等について検討を行いました。
製造業における職長の能力向上教育に準じた教育のカリキュラムに関する検討委員会が行ったアンケート調査により、職長が生産現場における安全衛生管理のキーパーソンとして役割を果たすためにわかったことは下記の通りです。
・職長の能力向上教育についての高いニーズが認められた
・実際に行っている事業所は約4割
・具体的な教育内容や教育方法等を盛り込んだカリキュラムが定められていない
・職長の能力向上教育が十分に普及していない
上記を踏まえて、生産現場において職長に期待される役割をより一層レベルアップさせて果たすためには、職長の能力向上教育として行うべき具体的な教育内容や教育方法等を盛り込んだカリキュラムを策定して、事業者に実施を促していくことが必要です。
職長の安全衛生管理の能力向上教育カリキュラムは以下の役割をより一層レベルアップさせて、的確に果たすことができるようにすることを目標に策定されました。
①先取りの安全衛生管理
②情報管理(上司と部下とのパイプ役)
③部下の育成
職長が中心となって推進する労働災害防止活動
生産現場において、職長が中心となって推進する労働災害防止活動は以下の通りです。
①安全衛生実行計画の作成・実施
②職場巡視
③危険予知(KY)活動
④ヒヤリ・ハット活動
⑤ 4S(5S)
事業者の安全衛生教育ニーズは多種多様なものですので、カリキュラムに柔軟性を持たせることにより、職長が中心となって推進する労働災害防止活動のニーズにも対応できます。
そのため、職長のレベルアップは製造業における現場力の向上だけでなく、労働災害防止の向上にもつながることが期待されています。
まとめ
製造業における安全教育について解説してきました。以下、まとめになります。
・安全衛生教育とは、労働災害を防止するために、必要な安全衛生に関する知識付与する教育のこと
・職長とは、日本の事業場において労働者を指揮監督する職長教育を受講したもの
・職長のレベルアップは製造業における現場力の向上だけでなく、労働災害防止の向上にもつながる
どんなにカリキュラムや法律を作っても、それを実行し、現場の人間の隅々まで行き届いていなければ意味がありません。安全衛生教育や職長教育は、安全だけでなく職長や働いている人達の現場力が向上し、労働災害防止に繋がります。労働災害を起こさないように、事業者の方はぜひ安全衛生教育を規定しましょう。