コストダウンや品質向上の課題はどの業界でも悩みの種といえるでしょう。
板金加工の場合、定尺の板を活用し、効率的に板取を行うかによって、そのコストは大きく変わります。そのためコストダウンを行う際には、その加工手順や加工内容を前提に設計をしなければなりません。また、同じ加工であっても、加工内容を選ぶかによってコストが異なり、それぞれ加工内容に合ったワーク形状や板厚を検討することが必要です。今回は板金加工とコストダウンについて解説します。

板金加工のコストを決める要因と解決方法

板金加工のコストを減らすには、設計者が部材の加工方法をしっかりと知った上で図面を書くことが必要です。加工を知らないと、結果として段取りが多く、歩留まりの悪い加工方法を強いる図面になってしまい、コストアップ・オーバースペックに繋がってしまいます。
板金加工に関して「打ち抜き・曲げ」23.1%、「溶接」21.7%、「絞り」17.7%の3つの加工方法だけで、板金加工全体の約63%を占めています。この3つの加工方法を重点的に覚えることができれば、設計技術者は板金加工の設計図面を書く際の主要なポイントを抑えることとなり、短い期間でコストダウンの実現が可能となるでしょう。

板金加工のコストを決める大きな要因とその解決方法は以下の通りです。

イニシャルコスト

1つ目は「イニシャルコスト」です。

プレス金型を用いて行う絞り加工は、板厚や絞り深さ、高さを気にすることなく設計することができます。しかし、金型は製作期間が長い上、簡単な形状の絞りでも金型を起こせば50 万円程度のイニシャルコストがかかってしまいます。物によっては数百万円と非常に高価です。絞り加工を行う際などは、金型を必要とします。

絞り形状が入ったものを小ロットで作製する場合、金型の製作費用が割高になってしまい、製品価格の上昇につながります。そのため、簡易金型を作製します。

簡易金型には深く絞ることができないといった欠点がありますが、深絞りが必要な製品である場合、レーザー切断や曲げ加工、溶接など種々の板金加工で形状を出すことで、絞り型なしで製作が可能となります。

通常の金型のようにワイヤーカットや放電加工機で加工を行なう必要もなく、1週間程度の短期間での立上げが可能です。また、通常の金型のように複雑形状の絞りは制限がありますが、追加工を行うことで様々な形状の絞りを行うことが可能です。金型作成費が不要となりコストダウンが実現。段取り替えが不要となり工数削減も実現と製造リードタイム短縮につながります。
この工法転換は、万が一設計変更が発生しても新規金型の製造や改造が不要となるため、顧客要望への柔軟な対応ができるでしょう。そのため、小ロット生産の場合は専用金型レスにする工法を検討することをオススメします。簡易金型の場合、なるべく板厚を薄くするように設計し、材料を選択する事が望ましいです。たとえば、ステンレス(SUS)系の材料であれば1.0mm、鉄(SS)系であれば1.2mm 程度の板厚であればコストダウンにつながります。

設計者は加工方法に加えて、それぞれの加工方法の限界値を設計に反映させることができれば、機器や装置の更なるVA (Value Engineering:価値工学)・VE (Value Analysis:価値分析) やコストダウンを行うことができます。

また、ベンド形状の異なる長さの2枚のブラケットを合わせて使用した場合、ブランク加工の際に2種類の金型を使用する必要があります。そうなると、2種の金型を使用するために段取り替えが発生し、工数が増加してしまいます。また、金型製作費も2台分必要となり、初期コストが上昇します。場合によっては、材料からの取り数が少なくなることもあり、歩留まり悪化による製造コスト上昇につながる恐れもあります。

仕様上問題がないようであればベンド加工形状を変更し、2枚のブラケットを同じブランク形状にすることで抜き加工時のプレス金型を共用することができます。段取り替えがなくなるので工数削減につながり、金型製造費用を抑えることができ、初期コストを低減させることができるでしょう。ただし、ブラケットの形状変更に伴い耐久性が不足することも考えられるため、十分な分析が必要となります。製品仕様を考慮し金型を最小限に抑えることで、最適コストを実現できるでしょう。
イニシャルコストが安く済めば、寸法精度に合わせて設計を行うことでトータルコストの低減に役立てる事が可能となります。

材料

2つ目は「材料」です。

加工に使用して残った部分は廃棄され、無駄なロスが生じてしまいます。コストを抑えるために、定尺という決まった板の寸法を考慮することで無駄を抑えることができます。

一般的に、耐食性が必要な機械部品にはステンレス材料、中でもSUS304が使用されます。SUS304は加工性が悪く、機械加工のコストが高くなる傾向があります。材料をSUS304から加工性に優れたSUS303に変更することで、コストを削減することが可能になります。耐食性を重視する場合には、SUS316なども選択肢として検討します。
ステンレスは品番によって様々な特性をもっており、加工性・耐食性も異なるため、入念に検討しましょう。

加工方法

3つ目は「加工方法」です。

曲げ・溶接などの加工方法では、板厚や施工によって曲げ限界に違いがあります。また、溶接しづらい構造や溶接後の仕上げが必要な構造で設計を行うと、溶接加工に時間がかかります。
たとえば、TIG溶接を行った後の仕上げ工程では、何度も段階的に細めのディスクで仕上げ研磨作業を行わなければならず、溶接工程以上に研削工程で工数がかかり、コストアップにつながってしまいます。そうならないために、YAGレーザー溶接を採用します。YAGレーザー溶接は溶接ビードが細く、きれいな仕上がりが可能になります。溶接焼けの除去だけで済むため、研磨工程を大きく削減することができます。置き替えたことで、溶接後の工程を削減でき、溶接自体のコストが高くても、トータルで見るとコストダウンにつながります。

組み立て

4つ目は「組み立て」です。

図面上では成立していても、実際の現場で組み立て作業を行うと、スパナを回すことができない、または部材同士が緩衝して組み立てられないなどの事象が発生することもあります。部品が大きくなるほど困難になり、組み立て作業に時間が費やされてしまいます。効率よく組み立てられるように設計するためには、構成する部品の改善を考える必要があります。たとえば、一方に切り欠きを入れ、位置合わせがしやすいようにすることで、時間が短縮されコストダウンすることができます。大きな機械部品や重い部品ほど、時間短縮することができるでしょう。

VAとVE

現在、様々な企業で、コストダウンや時間短縮に向けたVA・VEの取り組みがなされています。

「VA」とは「Value Analysis(価値分析)」のことです。
品質を向上もしくは維持しながらコストを抑えることによって、製品の価値を最大化することを目的とした取り組みです。価値(V)=機能・品質(F)/コスト(C)で表されます。

「VE」とは「Value Engineering(価値工学)」のことです。
製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し、システム化された手順によって「価値」の向上をはかる体系的・組織的活動のことです。

VAとVEは基本的に同義語として使われますが、以下のように区別する場合もあります。

VA:量産化している既存製品についてバリューチェーン全体の視野からコストダウンを行う
VE:設計検討段階から価値の最大化を考える

バリューチェーン(Value Chain:価値連鎖)とは、原材料の調達から顧客に届けるまでの付加価値を繋ぐことであり、事業活動で生み出される価値を一つの流れとして捉える考え方です。

VA・VEの実行手順

コストダウン攻略は「課題抽出→解決方法→解説→実際の手法→コストダウン実施総括」とストーリー付けが大切と考えています。VA・VEの実行手順は以下の通りです。

①対象の選定:対象(品物)が何なのかを選択
②機能の定義:技術情報、コスト情報、要求事項、品質情報、法的制約などの情報を収集し、その品物の機能は何かを定義。同時に、定義した機能の関連性を図示し、機能の整理も行う
③機能の評価:定義した機能について、コスト分析などを行い評価する
④改善案の提案:改善案を練り、新規アイデアの発想・評価を行う
⑤提案書作成:TRIZ(発明的問題解決理論)、チェックリスト法、ブレインストーミングなどの方法を用いて改善案をさらに具体化
⑥実施とフォローアップ
作成した提案書に従って実行し、随時フォローアップを行う
⑦実施状況の評価
実施した後には、次につながるよう全体の評価を行う

提案書のチェックリスト項目の一例は以下の通りです。

・そのものの使用によって価値が高められるか
・その品物の原価と用途がつり合っているか
・そのものの形状全部が必要であるか
・使用目的に適ったものが他にないか
・もっと低原価な作業方法で機能的な部品が作れないか
・もっと有用な標準あるいは、部外供給業者の標準がないか
・使用される数量を考慮に入れた妥当な工具、設備で生産されているか
・合理的な資材費、労務費、間接費および利潤は適切か
・もっと安く供給する信頼できる業者はないか
・それをもっと安く買っている会社はないか

まとめ

板金加工とコストダウンについて解説してきました。以下、まとめになります。

・板金加工のコストダウンに必要なのは、設計者が部材の加工方法をしっかりと知った上で図面を書くことである
・現在、様々な企業でコストダウンや時間短縮に向けたVA・VEの取り組みがなされている
・コストダウン攻略は「課題抽出→解決方法→解説→実際の手法→コストダウン実施総括」とストーリー付けが大切

精密板金加工などの金属加工においては、その精度要求を高くすれば同時にコストも高くなる傾向にあります。イニシャルコストが安く済めば、寸法精度に合わせて設計を行うことでトータルコストの低減に役立ちます。
設計技術者が板金加工の知識を身につけようとした場合、莫大な時間を必要とします。しかし、日本国内で使用される加工方法はある程度決まっており、設計技術者はその工法に絞って理解することが、板金加工の実践的な知識を身につける近道になるでしょう。コストダウン攻略は「課題抽出→解決方法→解説→実際の手法→コストダウン実施総括」とストーリー付けが大切です。VA・VEをしっかり実行することによって、コストダウンや時間短縮を行いましょう。