間接業務はなくてはならないものですが、あまりに人員が多すぎると本業の収益を圧迫してしまう可能性があります。そのため、間接業務の削減に取り組んでいる企業も少なくはありません。それは製造業も同じです。何故、間接業務は肥大化してしまうのでしょうか。そして、間接人員が多すぎると何故困るのでしょうか。
今回は製造業の間接人員が多すぎることについて解説します。

間接人員とは

間接人員とは、一般的に企業の売上に直結する直接部門を支援したり、事業運営を円滑にしたりする役割を担っています。企業の売上に間接的に影響を与える業務を行う部門である設計や人事、総務、経理、法務、品質管理、カスタマーサポートなどがそれにあたります。

それに対し、直接部門とは、営業や開発、製造といった企業の売上に直接影響を与える部門のことです。直接部門と間接部門のどちらも企業にとって必要不可欠ですが、業務内容や目標設定の方法などが異なります。

・直接部門:「新製品の開発・製造」「自社の商品・サービスの販売」など、企業の売上に直結する業務中心で、数値できる「定量的」な目標を立てやすい
・間接部門:「直接部門の業務支援」や「職場環境の整備」など、企業の売上には直結しない業務中心で、数値化できない「定性的」な目標になりやすい

間接部門は以下の役割を担っています。

・企業経営を支える基盤
・顧客満足度を向上させる
・コスト削減案を考える

間接部門には「人」や「金」、「情報」などの経営資源を適切に管理・運用して利益アップにつなげる役割が求められています。

企業活動の最終目標は利益を上げることです。利益は、売上から経費を差し引くことで算出します。直接部門がいくら売上を上げても、無駄な経費が膨らめば利益は上がりません。

もし間接部門がなかったら、「社員の採用・教育が滞る」「資金調達が困難になる」「契約書の不備に気付けない」「顧客の声を新商品・サービスに活かせない」「どうすればコストを削減出来るか気付けない」といった問題が発生するでしょう。

そのため、企業の売上には直結しない部門であるものの、直接部門と同様に、間接部門は企業にとって重要な部門といえます。

間接業務が肥大化する理由

「日本企業の間接部門人員は多過ぎる」「間接部門が多過ぎるから日本の生産性が低い」という声は多く、デロイトトーマツ社の調査「要員・人件費の生産性に関するベンチマーク調査」によれば、調査した248社において間接部門に従事する人は、11.7%(2019年)です。これは、2012年の調査9.8%からみると約20%も増加しています。

「間接部門比率を抑えよう」と言われる中、現実には間接部門の人員比率が増加しているのです。間接業務が肥大化する理由は以下の通りです。

組織の成長

1つ目は「組織の成長」です。

小規模組織の場合、管理するものが少ないので、本業の片手間に処理ができたかもしれません。また、メンバーはほぼ顔見知りであり、この時期は経費の処理をパターンに落とし込んだりと予測も易しかったかもしれません。

しかし、組織が成長して大きくなると管理する量だけでなく、人員が増えることで多様な価値観や行動パターンが生じるため、定形処理の予測が難しくなり、間接業務は肥大化してしまいます。

ルールが増える

2つ目は「ルールが増える」です。

人員が増えることで発生する多様な価値観や行動パターンを統制するためにはルールが必要となります。しかし、ルールは全てにおいて適応されるわけではないので、例外処理を求められるケースも増えていくでしょう。その度にルールが増え、間接業務も増大していきます。

製造業が間接人員を多く抱えてしまう理由

製造業工場で勤務している人が事務所や本社に行くと、「間接部門の人員が多すぎる」と感じるかもしれません。
実際、間接部門に従事する人は248社において11.7%(2019年)であり、1,000人の会社の場合117人、400人規模の会社だと約50人の人が間接人員となります。
しかし、間接部門は残業が多く、有休も取りにくく、人手不足感を感じています。

製造業が仕事の繁忙期に合わせて間接人員を抱えてしまう理由は以下の通りです。

管理監督者が業務の能率や効率に関心が薄い可能性があるから

1つ目は「管理監督者が業務の能率や効率に関心が薄い可能性があるから」です。

直接部門でトラブルが発生して生産が遅れたり、急な納期が入ってくると残業などで対応し、管理的対策や設備対策など様々な視点で対処・改善しようとします。

しかし、間接部門の場合仕事が遅れても余程のことがない限りは担当者のみでトラブルに対応します。
そのため、管理監督者はトラブルが起きた事自体知らなかった可能性もあります。
管理監督者は担当者が仕事を「完了」したかどうかに関心があり、「なぜ残業をしなければならなかったか」など業務の能率や効率には関心が薄いのかもしれません。

そうなると、安直に残業時間だけをみて「人を増やさなくては」と考え、担当者の「人を増やして欲しい」の声で人員配置を起こった結果、間接部門は人員が多いと言われる状況になります。

一人ができる業務の範囲が狭い

2つ目は「一人ができる業務の範囲が狭いから」です。

間接部門は様々な仕事があります。

人事部門

・社員の採用活動

・給与体系の策定

・人事評価制度の策定

・社内研修の企画・実施 など

総務部門

・備品の管理

・空調や照明などのオフィス管理

・株主総会の企画・運営

・従業員の冠婚葬祭時の対応 など

経理部門

・経費の清算

・給与の計算

・銀行への入出金

・決算書の作成 など

法務部門

・他社との契約書の作成やリーガルチェック

・紛争訴訟対応

・社内規定の策定

・コンプライアンス対応 など

品質管理部門

・製品の品質管理

・品質改善に向けた提案 など

カスタマーサポート部門

・顧客からの問い合わせ対応

・クレーム対応 など

一つの部門にたくさんの業務があり、ここに所属しているからといってその部門の業務全てを把握していて実行できる人は多くはないでしょう。多くの場合、「あの人は自分の知らない知識を知っている」という暗黙のルールができ、その人が職場にいないと仕事ができないということも起こりえます。そうなると、同じ部署内でも忙しく残業が増えていく人とそうでない人が出てきます。
同じ部署内で忙しい人を支援するには、複数の仕事をこなすスキルが必要です。

・一人が複数の仕事ができるスキルを身に付ける(多能化)
・マニュアルを整備する(標準化)

これにより、部署内各人の仕事の平準化を進めることが可能になります。仕事の偏りを解消することが、間接部門の人員過多を防ぐことに繋がります。

組織を超えて仕事をしないから

3つ目は「組織を超えて仕事をしないから」です。

同じ部署内でも仕事の相互支援は少ないでしょう。そうなると、同じ間接部門でも人事、経理、総務といった部署同士の壁が生じ、人員が足りなくても支援など実現不可能となってしまいます。

別の部署同士であっても指導する人やマニュアルがあれば、部署を超えた支援は可能となります。そのために必要なのは下記の通りです。

・部署を超えて仕事を支援した人を評価する
・他の部署の人にもわかるマニュアルを用意する
・外部の人に頼める仕事を仕分け用意しておく

このように環境の整備や各所属長の部署を超えて仕事を行った社員を評価する意識、他部署に頼む仕事を日頃から明確にしておくことが必要となります。
もし他部署から人が出せない場合は、外注するという考えもいれておくべきでしょう。

間接人員が多くなりすぎると困る理由と解決策

間接人員が多くなりすぎると困るのは、給料などの間接部門にかかるコスト管理が工場で発生するコストに比べて管理が難しく、徹底されていないからです。

すぐにはじめられるコスト削減方法として、業務の標準化があります。属人的な作業をなくし、個人レベルでの業務にバラつきがなくなれば結果的に業務品質が向上するため、コスト削減に繋がるからです。

業務の標準化実現を確実にするためには、生産管理システム導入が必要となります。生産管理システムは、社内のあらゆる部門の情報を一元管理できますので、作業工程をリアルタイムで共有できたり、過去の設計図が探しやすくなるなど、作業工数削減に影響を与え、業務の標準化実現に繋がっていきます。

また、コスト管理が難しい場合、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)と呼ばれる管理会計手法が有効です。一般的な原価計算は、特定の製品やサービスを基準に原価計算しますが、ABCは活動を基準に原価計算を行います。それにより、間接作業の活動と原価を可視化することができ、人的資源の使われ方や生産性の低い業務などを浮き彫りにし、改善点を発見しやすくなるでしょう。

まとめ

製造業で間接人員が多すぎることについて解説してきました。以下、まとめになります。

・組織が大きくなり、人員が増えるとルールが増えるため間接業務は肥大化する
・製造業で間接人員が多すぎるのは、仕事の繁忙期に合わせて人員を抱えてしまうから
・生産システムを導入することで業務の標準化を実現し、人的資源の使われ方や生産性の低い業務などを浮き彫りにし、改善点を発見することで間接人員にかかるコストを削減する

間接人員は製造業だけでなく、あらゆる企業にとって必要不可欠です。しかし、いきすぎた人員増加はかえって会社のコストになってしまいます。
生産システムを導入し、属人的な作業はできる限り排し、業務を標準化することで間接人員にかかるコスト削減に繋げることができます。
自分の部署の仕事を把握し、スキルを磨くこと。そして部署関係なく、人手が足りない場合はマニュアルを利用し、手伝うことで間接人員が多すぎる問題は解決することができるでしょう。ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。