板金ものを商品設計する場合、最初に素材の選定、その後に素材ごとに異なる板の厚みの確認を必ず行います。
板厚を確認しないまま適当な厚みで設計すると、その板厚が利用できなかったり、位置が変わってしまい生産前に大変なことになります。
板金加工には鉄、アルミ、ステンレスなど様々な材質があります。それぞれ用途に応じて適切な材質を選ぶだけでなく、板厚とサイズも選定しなければいけません。しかし、一つの材質をとっても数多くの板厚、サイズがあり、その選定は難しいと感じる方は少なくはないでしょう。
今回は板金加工と板厚について解説します。

同じ材料でも様々な種類や特性がある

板金加工品は、その用途に応じて様々な材料から作成されます。特に鉄やステンレス、アルミニウムを使って作られる板金加工品は幅広く使用されています。ひと口に鉄、ステンレス、アルミニウムといっても様々な種類が存在しています。一般に板金加工で使用される材料は以下の通りです。

・軟鋼板(SPCCやSECC、SGCCなど)
・ステンレス鋼板(SUS304・SUS316など)
・表面処理鋼板
・アルミニウム板(A1050・A5052など)
・銅板など

軟鋼板は一般的に鉄板と呼ばれており、代表的なものは以下の通りです。
・熱間圧延鋼板(SPHC):鋼塊(こうかい)を赤熱状態のままロールで延ばして鋼板に
・冷間圧延鋼板(SPCC):熱間圧延された材料の酸化皮膜を除去した後、常温で圧延加工

ステンレス鋼板は、鋼にクロムを12%以上添加したもので耐食性に優れています。
表面処理鋼板は、軟鋼板を母材として表面にめっきしたものや、めっきしてさらに塗装したものです。
アルミニウムは軽く、伝熱性、導電性に優れています。

銅板は伝熱性、導電性に優れており、銅に亜鉛を添加した黄銅やすずを添加した青銅などがあります。板厚によって以下の通りに分けられます。
・厚板(6mm以上)
・中板(3mm以上6mm以下)
・薄板(3mm未満)

一般的に、薄板で高い精度を要求されるものを精密板金、中厚板主体でそれほど高い精密を要求しないものを製缶板金といいます。

それぞれの材料には、耐食性などの特性付加の有無や密度、引張の強さなどの物性値の違い、外観の違いなど同じ金属でも特徴が異なります。材料によっては市場に流通していない板厚のものもあります。
そのため、材料選定の際に特性を十分理解してから設計しなければいけません。

なぜなら、特性を理解して設計することはコストダウンに繋がるからです。たとえば、屋外で使用する製品の場合、元々耐食性を持っている材料を使うことで表面処理加工を省くことができ、コストダウンに繋がります。

材料選定は板金加工で使用される環境や製品形状、材料の特性や市場流通性などを考慮して行わなければいけません。

板金加工の板厚とは

板厚とは板状の材料の厚みのことです。厚みとは、板の平面に対して直交方向の長さです。
板は平面の長さに比べて「厚さ」が小さくなります。よって板厚の単位はmm、cmを使うことが多いです。

板金加工の板厚にはそれぞれ材料によって厚みが異なり、市場品として入手しやすい板厚というものがあります。3㎜程度までが板材として使用されることが多く、5㎜程度の厚みになると無垢材にも感じてしまうそうです。

板金設計では、どこを基準にするかによって板厚に注意する必要があります。曲げ位置や穴位置はどこからを基準とした寸法にするのか、相手側があれば一緒の基準にして設計する必要があります。必要に応じ展開図も用意すると良いでしょう。

板厚は加工限界に大きく影響する要素でもあります。
安定して曲げ加工を行うためのパンチとダイのV字幅は板厚の5倍から12倍程度が適正だとされており、加工者は製品仕様や材質を考慮してどのV字幅の金型を使うかを決定しています。

材料によっては入手しづらい板厚があったり、同じ材質であっても種類や番手によって入手しづらい板厚が異なります。
そのため、(板金加工メーカーで対応してもらいやすい)流通性のある板厚を事前に確認しておけば発注までの時間ロスを減らすことができます。また、市場品として入手しやすい板厚を選定することで、材料費のコストダウンが可能となり、欠品リスクが低いため材料を調達するまでのリードタイム短縮も可能となります。
加工メーカーによって取扱い可能な板厚、得意とする板厚は異なるため、用途に応じて適切な加工業者選びも重要となります。

板厚選定の確認ポイント

板厚の選び方は、内部に組み込まれる基板を抑えるための内部フレームとしての0.8㎜から、バイクのマフラーやサイレンサーステーとするなら4.5㎜以上と用途別に強度が異なります。

強度計算まで行うのは大変ですので、無難な選択方法としては、過去の同じような商品、または相手側の板厚を測って同じようにするか、もっと落とせるのかを判断することになります。

板金素材と板厚選定の確認ポイントは以下の通りです。

・同じような製品、相手側の素材と板厚がないかチェック
・用途や目的に必要な強度(厚み)があるか
・加工できるか(曲げられるか)
・重量が関係するのか
・表面処理などの仕上げが必要か

板厚のばらつきの要因

材料の板厚は板金加工において精度に影響を大きく与えます。しかし、メーカーが提示している板厚と実際の板厚には一定のばらつきが存在します。そのため、ばらつきがあることを踏まえて加工し、品質を安定させています。

板厚のばらつきの要因は以下の通りです。
・公称板厚と実板厚の差
・ロットごとのバラツキ
・定尺シート内でのバラツキ
・メーカーによる板厚差

流通性の高い板金板厚

各材質別に流通性の高い板厚は以下の通りです。

鉄系

1つ目は「鉄系」です。

鉄系の材料は一般的に最も幅広い用途で用いられる材料です。流通性が高く、入手しやすいといえるでしょう。鉄の板金材料として最も使われるのは、家電や自動車の外板に使用されているSPCC(冷間圧延鋼板)です。特に1.6mm、2.0mmの板厚の流通性がよく、供給が安定しています。

黒い素材を使いたい場合は「SPHC」がオススメです。SPHCは黒皮とも呼ばれて、表面が黒くなっています。硬くはありますが、加工後に塗装する面倒を省くことができ、そのまま使えます。なお、「SS400」は建設業界ではよく用いられていますが、一般の方が板金加工用に利用するような代物ではありません。

板厚

SPCC

SPHC

SECC

SEHC

SGCC

SS400

~0.9

0.5mm

 

 

 

0.5mm

 

0.8mm

 

0.8mm

 

 

 

1.0~

1.0mm

1.0mm

1.0mm

 

 

 

1.2mm

1.2mm

1.2mm

 

 

 

1.6mm

1.6mm

 

1.6mm

 

 

2.0~

2.0mm

 

 

2.0mm

2.0mm

 

2.3mm

 

 

2.3mm

 

 

2.6mm

 

 

2.6mm

 

 

3.0~

3.2mm

3.2mm

 

3.2mm

3.2mm

 

4.0~

 

4.5mm

 

 

 

 

6.0~

 

6.0mm

 

 

 

6.0mm

 

 

 

 

 

9.0mm

ステンレス系

2つ目は「ステンレス系」です。

ステンレスにも様々な鋼種があります。その中でも板金加工材料として最もよく使われるのがSUS304であり、特に1.5mm、2.0mm、3.0mmが流通性の高い板厚となります。
また、SUS304にはバネ材、SUS304CSPがあり、主に薄板が中心なので、0.1mm単位の板厚で入手可能です。

板厚

SUS304

SUS430

~0.9

0.3mm

0.3mm

0.5mm

0.5mm

0.8mm

0.8mm

1.0~

1.0mm

1.0mm

1.2mm

1.2mm

1.5mm

1.5mm

2.0~

2.0mm

2.0mm

2.5mm

2.5mm

3.0~

3.0mm

3.0mm

4.0~

4.0mm

 

5.0~

5.0mm

 

6.0~

6.0mm

 

アルミニウム系

3つ目は「アルミニウム系」です。

アルミニウムは合金の種類によっては手に入りにくいものがあり、主に1000番手系から7000番手まで存在します。最も代表的な材料がA5052で、耐食性、溶接性、成形性に優れており、加工しやすい材料といえます。特に入手しやすい板厚は、0.8mm、1.0mm、1.5mm、2.0mm、3.0mmです。

板厚

A5052(アルミ)

~0.9

 

0.5mm

 

1.0

1.0mm

1.2mm

1.5mm

2.0~

2.0mm

2.5mm

3.0~

3.0mm

4.0~

4.0mm

6.0~

6.0mm

流通性の高い板金サイズ

板金の板厚によって市場の流通性が異なりますが、それは板金のサイズにも同じことがいえます。
板金加工に使用される材料には、規格で決められた寸法があり、そういった板材は「定尺板」と呼ばれ、市場の流通性が高いです。流通性の高い定尺板のサイズを念頭に製品の設計を行うことで、歩留り良く板取りができるようになり、材料費のコストダウンにもつながります。アルミニウム、ステンレスはメーター板と呼ばれる1m×2mの定尺材が良く使われています。
定尺の鋼材は、2トン梱包(通称)にて売買されており、重量を基準としているため、鋼板の板厚によって1梱包での枚数は異なります。
市場に多く流通している定尺サイズは以下の通りです。

3’x 6’(サイズ:914mm x 1,829mm):サブロク

1つ目が「3’x 6’(サイズ:914mm x 1,829mm):サブロク」です。

「3’x 6’(サイズ:914mm x 1,829mm):サブロク」は鉄板において、最も流通性の高い定尺寸法となります。以下の板に適用されています。
・SPCC(冷間圧延鋼板)
・SECC(電気亜鉛メッキ鋼板)
・SGCC(溶融亜鉛メッキ鋼板)など

以下の板にはこの定尺サイズは存在しません。
・ステンレス鋼板
・アルミ板
・銅板
・真鍮板など

1’x 2’(サイズ:1,000mm x 2,000mm):メーター板

2つ目が「1’x 2’(サイズ:1,000mm x 2,000mm):メーター板」です。

「1’x 2’(サイズ:1,000mm x 2,000mm):メーター板」は以下の板に適用される定尺サイズです。
・ステンレス鋼板
・アルミ板
・銅板
・真鍮板など

以下の板にはこの定尺サイズは存在しません。
・鉄板

4’x 8’(サイズ:1,219mm x 2,438mm):シハチ

3つ目が「4’x 8’(サイズ:1,219mm x 2,438mm):シハチ」です。

「4’x 8’(サイズ:1,219mm x 2,438mm):シハチ」はサブロクの定尺板やメーター板ではカバーしきれない、大型の加工品に用いられます。以下の板に適用されます。
・SPCC(冷間圧延鋼板)
・SECC(電気亜鉛メッキ鋼板)
・SGCC(溶融亜鉛メッキ鋼板)
・ステンレス鋼板
・アルミ板
・銅板
・真鍮板

まとめ

板金加工と板厚について解説してきました。以下、まとめになります。

・板金加工の板厚にはそれぞれ材料によって厚みが異なる
・板厚の選び方は板金加工製品のそれぞれの用途によって完全に異なる
・流通性の高い板厚の材料は「鉄系」「ステンレス系」「アルミニウム系」

流通性の高い板厚、定尺サイズを用いることで、板厚やサイズの調整に必要な加工を省くことができ、結果的に材料費のコストダウン、生産リードタイム短縮につながります。しかし、加工メーカーによって対応や得意とする板厚、サイズは異なりますので、用途に応じた加工業者を選びましょう。