製造業において、半導体、樹脂、鉄鋼などの深刻な価格高騰と部品・部材不足が多大な影響を与えています。製品作成の部材が入ってこないため、納期の遅れ、部材価格が何倍も高騰するなど、中小企業にとって非常に頭の痛い悩みです。何故、このような状況になっているのでしょうか。今回は製造業と部品不足について解説します。

部品不足による広がる先行き不安

半導体、樹脂、鉄鋼などの深刻な価格高騰と材料不足拡大により、国内製造業の先行き不安が強まっています。

新型コロナ後の景気回復に向けて世界は約200兆円を超える補正予算をまとめ、働き手の不足による自動化などの波にも乗り、企業は設備投資に積極的になっています。
脱炭素化社会が求められる現代、世界は二酸化炭素を出さない電気自動車(EV)に目を向けています。
部材不足と高騰化は、企業が材料の囲い込みに走り、大量発注、大量在庫を抱えることで発生します。
EV車や自動化設備には大量の半導体関連部品が使われるため、受注回復が続く中、既に一部メーカーでは半導体やボールネジなどの部品・部材不足の影響が顕在化し始めていました。

日銀がまとめた9月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、製造業の先行き業況判断指数(DI)では大企業は4ポイント減のプラス14、中小企業は1ポイント減のマイナス4と悪化しました。足元のDIは海外でのデジタル関連投資に支えられると同時に石油・石炭、鉄鋼などの業種で価格転嫁が進んだため、9月までは大企業・中小企業共に5期連続で改善していましたが、ここにきて情勢は変わりつつあります。

半導体不足や東南アジアのコロナ禍による工場休止などの減産対応により、大企業の自動車は10ポイント減のマイナス7と低調で、国内車大手8社の8月の世界生産は前月比2割減と急減しました。
各社の大幅な減産計画により、部品などの関連業種は保守的に先行きを見通したため、先行き業況判断は素材業種で足元から9ポイント減、加工業種で3ポイント減とそれぞれ悪化しています。

アンケートによる現場の声

部品・材料不足への不安は高まる一方です。部品の供給が止まったわけではないので騒ぐ必要はないという指摘もありますが、現場の声を聞くとかつてない深刻さを感じます。

2021年9月の日経ものづくりアンケート調査によると、「部品・材料不足に直面している」と答えた企業は75.1%でした。「過去に直面した」と合わせると9割弱におよびます。
不足している部品・材料を尋ねたところ、ボールねじ、樹脂材料、コネクター、センサー、ロボットなど6割が電子・電機部品(半導体素子以外)と答えました。
その内、「納期を遅らせている」と答えた企業が64.2%あり、「既に部品・材料不足の防止策に取り組んでいる」と答えた企業は6割弱でした。

部品・材料メーカーからの納期遅れは深刻です。本来なら2~3週間ほどで届けられるはずなのに「納入まで3ヵ月かかる」と返答し、納期間近になって更に3ヵ月以上伸びるなど、リミットスイッチやコネクターの納期が大きく遅れています。
マイコンで最大納期77週、ADコンバーターで93週と言われた企業もあるようです。
組み合わせ部品の場合、「何が問題で納期遅延が発生しているのかわからない」という声が挙がっています。
国内の部材メーカーだけでなく、海外から材料を調達するのに必要なコンテナ船を、景気回復に伴う海上輸送の需要増加で確保できないといった物流上の問題もあります。

また、部品・材料不足は納期遅延だけでなく、売り手市場での優先的地位の乱用や研究・開発の遅れにも悪影響を及ぼしているようです。
過剰注文になって需給が逼迫し、次の納期が遅れても多少は持ちこたえられるように少しでも多く部品・材料を確保しておこうと余分発注するという悪循環が更なる供給不足を生み出しています。

部品・部材供給不足で困っている用途や分野を尋ねると、自動車の場合は「車両制御」が30.1%、「コネクテッド・通信」「インフォテインメント」が22.0%、「パワートレイン」が21.1%、「ADASや自動運転など先進分野」が18.7%でした。
自動車以外では「産業用機器」が51.2%と最多で、「民生用機器(白物、AV機器)」や「PC」などにも供給不足が広がっているようです。

供給不足解消の見通しは、トヨタ自動車や日産自動車などの一部自動車メーカーが2021年夏かそれよりも前段階で解消する見通しを示していましたが、33.3%もの回答者が「めどはたっていない」と答えています。続いて「2021年10〜12月」(25.2%)、「2021年7〜9月」(17.1%)、「2022年以降」(13.0%)という回答結果が出ており、製造業全体でみると不透明な状況はまだまだ続きそうです。

自由回答においては「他社が1~2年先までまとめて手配しているが、自社はどのような対策を行うべきか説明に困っている」「在庫の確保とコスト負担の在り方をどうすべきか」「顧客の需要見直しの精度改善が求められる」という回答もありました。

これまで体験したことのないこの危機に対して、部品の在庫を以前よりも多く確保する、国内で部品の入手ルートを拡充するなど、サプライチェーンの維持や確保に企業が奔走している様子が伺えます。

電子部品不足の原因

半導体などの電子部品不足により、アメリカのアップル社はiphone生産に支障が出て、4~6月期は約3,000億円もの売り上げ損失が出ました。
日本国内においてはエアコンの部品が入手できずに、最盛期にもかかわらず生産を縮小することになりました。

大手でも部品調達が難しい状況を受けて、中小企業においては様々な策を実施していますが、部品・部材調達が困難な状況は続いています。
正常化まで1~2年はかかると推測されており、現在は増産のための製造装置に使う半導体も不足しているため、生産を増やすこともできない状況です。

半導体などの電子部品不足の原因は以下の通りです。

世界的な半導体需要の増加

1つ目は「世界的な半導体需要の増加」です。

世界的な新型コロナウイルス蔓延による自動車製造停止からの急回復、テレワークや巣ごもり需要によるパソコンや家電需要増大、5Gスマートフォン端末の拡大などにより、半導体需要は世界的に増加しました。

半導体関係の工場の火災による停止

2つ目は「半導体関係の工場の火災による停止」です。

2020年10月に旭化成エレクトロニクス・延岡工場火災、2021年3月にルネサスエレクトロニクス・那珂工場火災が発生し、半導体関係の工場火災により、日本国内の半導体製造が停止しました。

アメリカ・テキサスにおける寒波の影響

3つ目は「アメリカ・テキサスにおける寒波の影響」です。

アメリカ、テキサスにおける寒波により、半導体製造工場やコネクターなどの部品に影響を与える化学プラントが停止しました。

アルミ不足の危機も迫っている

半導体不足により、トヨタをはじめ自動車メーカーは相次いで減産対策を行っています。半導体の供給は、新型コロナの影響と日本国内での工場火災、米中摩擦など様々な要因が重なりひっ迫しています。
半導体は自動車だけでなく、パソコンやスマートフォン、そして家電製品などあらゆる製品に使用されています。半導体不足は製造業だけでなく、私たちの生活に非常に影響するといえるでしょう。
それに加えて、中国での電力制限やギニアでのクーデターによりアルミ不足の危機も迫ってきています。

アルミを作る副原料となるマグネシウムや金属シリコンは中国からの輸入に依存しています。現在、中国では電力制限が行われており、マグネシウムや金属シリコン生産が滞っています。更にアルミの原料となるボーキサイトの原産国ギニアでは、2021年9月にクーデターが起こりました。

アルミは車のエンジンやボディ、半導体製造装置やリチウムイオンバッテリーなど幅広く使用されており、半導体不足に影響を与えます。

自動車業界を取り巻く環境は半導体とアルミ不足だけでなく、燃料費が重くのしかかる原油価格高騰など、生産現場にとって非常に広い分野で負の材料が増え、危機が迫ってきているといえるでしょう。

部材不足と高騰化への対策

2021年は材料不足と高騰化が続くと予想されており、その後、3つのパターンになると考えられています。

①長期で材料不足と高騰化が続き、徐々に需要と供給のバランスが戻り始める
②中期で材料不足と高騰化が続き、急に需要と供給のバランスが崩れ、在庫過多状態や価格破壊が起こる
③短期で材料不足と高騰化が終わり、突如として需要と供給のバランスが崩れ、バブルがはじけた状態になる

最も起こりやすいのは②であり、企業は突如としてやってくる在庫過多状態と価格破壊の対策を練らなければいけません。そのため、常に自社の在庫状況を把握する必要があります。

原材料を加工してさまざまな製品を作り出す製造業では、部品在庫管理が非常に重要です。部品在庫管理が適正に行われない企業は、過剰在庫や在庫不足による機会損失により、顧客の信頼を失う可能性があるからです。

部品在庫管理と同時に購入ルートを複数確保し、設計段階で代替品が使用できるように工夫すること、世界の情勢、政策、方針などの幅広い情報、お客様の注文状況や国内の情報を細かく監視し、ちょっとした変化にも敏感になって情報を集めることなど、競合他社よりも早く動きましょう。

2021年末まで企業はたくさんの注文を抱える事になると予測されています。注文をこなすには、教育された技術系人材が必要となります。そのため、人材確保と教育体制を整えておかなければなりません。

いかにお客様および自社の損失を最小限に防ぐことができるか、現状業務の仕組みの見直しをオススメします。

まとめ

製造業と部品不足について解説してきました。以下、まとめになります。

・半導体などの電子機器、樹脂、鉄鋼、アルミなどの材料不足が製造業に深刻な影響を与えている
・コロナウイルスによる景気回復により需要が跳ね上がり、部品不足が発生し、納品が何か月も先になるという状況になっている
・部材不足と高騰化対策として、損失をいかに最小限に防ぐことができるか業務の仕組みの見直しが必要

半導体やアルミなどの部品・部材不足は、製造業や車業界だけでなくスマートフォンや家電など私達の生活にも密接しており、世界に深刻な影響を与えています。正常化まで1~2年はかかると推測されており、半導体不足により生産を増やすこともできず、1~2年分の部材確保ができる大企業と違って、中小企業にとって苦しい状況が続くでしょう。少しでも損失を防ぐために、業務の仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。